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空中散歩 ③

「コルハ、ほらついたよ!」
君が急に立ち止まるので、君の背中に頭をぶつけた。お香のような、なんとも言えぬ香りがした。

三日月だ。
本当に三日月🌙
月が縮小され、くり抜かれて、ヤスリにかけられ、細く仕上がっている。ボートみたい。
でも月面のようなでこぼこした感じはある。
それ自体が発光しているようだ。

腰掛けてみると、ひやっとした。
ごつごつした感触が太ももに伝わる。
君も隣に腰掛けた。眼下に広がる、もう既に小さくなってしまった街並みと山々を見下ろして、目を輝かせている。楽しくて仕方がなさそうだ。

「なにか音楽でも聴こうよ。コルハ、音楽が好きでしょ?」
君はどこからともなくスマホを取り出し、私に差し出す。画面には、リストアップされた曲が並んでいる。君の選曲かな?
「あ、これ知ってる。私好きなんだ」
イヤホンが差し込み口から光りながらシュルシュルと現れた。私の右耳と君の左耳を繋ぐ。

「大人っぽい、いい曲だね」
君は私の目を覗き込んで、イタズラっぽく笑った。
「コルハ、知ってるよ、僕。
この曲を聴いて、今書いてるこの話を書こうと思ったんでしょ」
「うん、そうなんだ。…へへ。
でもやっぱり、この曲の雰囲気は出せないね」

君は不思議そうな顔をした。
「僕にはよく分からないけど、コルハはそう感じてるんだね。でもこの曲のおかげで僕はこの世界に登場できたんだ。どんな風だってさ、僕は嬉しいよ」

君は、微笑みを絶やさない。
君の瞳には星がたくさん映っていて、小さな宇宙みたいだった。

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