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ハイジさんによる、うさぎの造形〜ウルトラセブンの残照

倉敷・白壁通りのアートギャラリー、ビョルンのクリエーター、ハイジさんによる陶土で作られた、うさぎの造形です。

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まるで、ガッツ星人によって捕らわれて、はりつけにされたウルトラセブンのようです。*

ウルトラヒーローも、この造形のうさぎも表情に乏しいのですが、内面で何かが、蠢(うごめ)いているのを感じます。

*1968年(昭和43年)6月30日・7月7日放映


追伸

ハイジさんのうさぎに、なぜ、うごめくもの(いのち)を感じるのか、考えてみました。

古来、日本人は「息」に生命活動を感じていました。生命活動をあらわす「いのち」という言葉は「息の霊(い・の・ち)」だといわれています。「息」は日本人にとって、強く蠢く生命活動そのものでした。「息」によって自分のなかの蠢く霊力を引き出して、天地に遍満する、蠢く霊力と交信する。それによって「異界」の霊的なものをここに招き、あるいは自分が霊そのものになる。日本の古層にはそういう身体性が脈々と流れていて、それを詩や物語の形で表現したのが『万葉集』や『古事記』で、芸術という形で表現したのが『能』でした。**

ハイジさんのうさぎは、口と鼻が開いてきます。

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そして、それは背後の空間と通じています。

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この孔を通じて,うさぎは息をして背後の世界(異界)とつながっているのではないか。

ハイジさんのうさぎには、確かに霊的なパワーが感じられます。

**安田 登・著:あわいの力「心の時代」の次を生きる. ミシマ社, 2014. P135-154


追伸2

「息」のことを書いている安田 登さんは能楽師です。ハイジさんは、幼いころ、NHKの番組で放映された能に見入っていて、両親に不思議がられたそうです。

もしかして、この楕円形の造形は、能のシテ方がかぶる「能面」なんじゃないでしょうか!

ハイジさん自身は、能を観ていたことを覚えていないそうですが、幼い頃の記憶が潜在意識の中に入っていて、ハイジさんの造形に影響したのではないか?(本人は、皿の上に載ったうさぎだと言っています)

一方、ウルトラヒーローの顔は、無表情で、輪郭や立体の構造が能面に似ています。

ハイジさんによる造形とウルトラセブンとは、能を通じて、つながっているのでは?

能のシテ方というのは、多くが異界からやって来た、救われない悲しい存在です。ウルトラヒーロー・シリーズの中でも、とりわけウルトラセブンのストーリーは、ウルトラセブン(モロボシ・ダン)自身を含めて登場する異星人が哀しい存在で、能につながる深さがあったように思い出されます。

そんな妄想をしていたら、ちょっと怖くなってきました。


追伸3

ハイジさんは、倉敷白壁通りにあるアートギャラリー・ビョルンのマダムです。

お店の表口は、この記事の表題画像のように、全面がガラス張りのアルミサッシになっています。ハイジさんはいつも、外の世界に開かれたお店の中央に座って、ぬいぐるみを作っています。その周りを、来店者が入れ替わり立ち替わり出入りします。

他のギャラリーと違うのは、作家の個展が終わってもスペースがあれば、作品がそのまま展示され続けます。作家が作品を回収しに来ないと、作品はそのまま何年もお店の“楽屋”で保管されています。喩えるなら、ここは、人も作品もゆったりと滞在して休める、シルクロードのオアシス、あるいは、峠の茶屋といったところでしょうか。

さて、ここには老若男女、重鎮から若手まで様々なキャリアのアーティストが集います。アーティストは、しばしば、異界から創造のインスピレーションを得ます。中には、異界に嵌まったきり、戻れなくなる危うい人もいます。ハイジさんは、そんなアーティスト達を適切に導いてプロデュースします。それができるのは、ハイジさんが現世と異界との「あわい」に生きる人だからです。

丁度よい具体的なイメージがありました。

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画像は、木工房ねこの手、藤原康彦・葉子ご夫妻による立体額絵です。ビザンチン風の古城の窓に、白いねこが一人たたずんでいます。こちら側の世界には空があり、窓の向こうの世界にも別の空が拡がっています。白いねこは、二つの世界の「あわい」にいて、両方の世界を行き来しています。ハイジさんは、ちょうどこの白ねこのような存在なのです。

さて、そんなハイジさんは、とても恥ずかしがり屋なので、お店の招き猫のシロちゃんが、本人に代わって膝の上で顔出ししてくれました。

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ハイジさんご本人は、長い黒髪の慈愛に満ちた美しい方である、とだけ、皆様にお伝えしておきます。

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