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ひらまつえりこ さんのペンスケッチ画における近景表現の意味と役割

以前アップした記事において、ひらまつえりこさんのペンスケッチ画は、近景・中景・遠景に分かれていて、それぞれの役割が区別されることを述べました。

前回は、中景の魅力について語りましたが、今回新たに筆者のコレクションに加わった2作品によって、近景の魅力や意味に気付かされましたので、紹介します。

取り上げるのは、作品のなかに直接、近景が描かれていませんが、「描かれていない近景の存在感」が意味をもつ3作品です。

まずは、前回紹介した「名曲喫茶・時の回廊 レコード室」です(時の回廊は、倉敷市下津井の岬の高台にある名曲喫茶です)。

ひらまつえりこ・作 「名曲喫茶・時の回廊 レコード室」2021年 筆者蔵

続いては、今回、コレクションに加わった総社市の「総社市 まちかど郷土館」と倉敷美観地区の「語らい座大原本邸」を描いた風景画です。

ひらまつえりこ・作「総社市 まちかど郷土館」2022年 筆者蔵
ひらまつえりこ・作「語らい座大原本邸」2022年 筆者蔵

近景は、「名曲喫茶・時の回廊 レコード室」には描かれていません。「総社市 まちかど郷土館」ではベランダの欄干の一部が、「語らい座大原本邸」には畳の一部がわずかに描かれているだけです。しかし、こちら側に腰掛けて、眼前の風景を眺めながらスケッチに集中している作者の気配が重厚に感じられます。

絵を観る鑑賞者側は、2次元の絵を眺めているのではなくて、奥行きがある向こう側の別世界を覗いている感じがしてきます。そうして、絵の下縁を境にして、絵に描かれたあちら側の世界と、描かれていないこちら側の世界の「重み」が釣り合って、バランスがとれている心地よい感覚がしてきます。

しばらく3作品を観ていると、こちら側の身体の重量感が意識されてきて、どっしりと落ち着いて安定した感覚に満たされてきます。この「重量感覚」によって、不安や怒りが静まって、感情が安定して、穏やかになってきます。

絵を仕事場のデスクの前に飾ると、心が落ち着いて、リラックスして、あまり体が疲れないで過ごせます。これぞアートの効用です。

3作品は、とりわけ、不安や焦りが強い人や、コンプレックスに苦しめられたり、他人の目が気になる人に、自分自身の身体を意識させて、自分を見つめ直し、「自分を取り戻す機会」を与えくれそうです。

現場で即興的に描かれる、ペンスケッチ画のもつ、臨場感の賜物です(^_^)。


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