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岡本篤さんと、ささきようこ・さんの造形におけるアート性の考察

表題の画像は、倉敷本通り商店街・ギャラリーメリーノ恒例の倉敷特産展に出品されていた、今年の干支、寅をモチーフにした香合です。
倉敷・天神窯の陶芸作家、岡本篤さんによるもので、倉敷市の広報誌「くらしき」新年号の表紙に選ばれており、芸術文化都市、倉敷を代表する工芸品として認められています。

広報「くらしき」2022年1月号表紙

器は、お香を入れる五角形の小容器になっています(500円硬貨と比べると小ささが分かるかと思います)。

香合は五角形の小容器になっている。

陶器は、焼成する時に縮みますので、小さくて複雑な形の本体と、蓋との嵌(は)まり合わせを一致させるのは、至難の業であったことでしょう。高い技術と経験が必要であるのみならず、膨大な廃棄品が出たと想像します。5cmほどの小品ですが、そのような技術研究と労力の積み重ねで実現された至高の工芸品と言えます。

さて、寅を側面から見てみると、前後にぎゅっと縮められて、丸みのある形にデフォルメされています。

側面から見た寅

一見、なんとも愛らしい造形です。容器としての用を満たす必要から、そのような形になったのでしょうが、そこに、いわゆるユルさはなく、ちゃんと寅の威厳が保たれています。野生の虎のように、骨格があって、しなやかな筋肉が波打っているのが感じられる造形だからです。

過日、岡山市の複合施設、クレド岡山内のギャラリーdouce(ドゥース)を訪れたところ、東京都府中市の陶芸作家、ささきようこ・さんによる小さな猫の造形と出会いました。

ささきようこ・さんによる猫の造形

douceは、店主の迫田美加子さんが、アート指向のあるクリエーターを応援しているお店です。高さ3cmの小さな猫には、「かわいい〜」と言うよりは、何かを訴えてくる緊張感のある精神性が感じられます。図案化された造形ですが、しかし、そこに、力強い骨格と筋肉による支持性を認識できるからです。店主の迫田さんのお眼鏡にかなった作品だけのことはあります。

ささきようこ・さんの猫も、岡本篤さんの寅と同様に、前後にぎゅっと縮められてデフォロメされています。しかし、ちゃんと、姿勢を保つ骨格や筋肉の緊張が感受されます。

側面から見た寅と猫

後ろから見ると、2匹は、とても雰囲気が似ています。一見、愛らしいのですが、リラックスした家猫の後ろ姿とは違います。2匹は、油断なく構えの姿勢をとっているのが伝わって来ます。

後ろから見た寅と猫

図案化やデフォルメをしながらも、いわゆるユルキャラにはならず、モチーフとなった動物の精神を、筋肉や骨格の造形できっちりと表現する。それが、鑑賞者に非日常的なインパクトを与え、こころのギアチェンジをさせる(2作品の場合はこころを引き締めるさせる)。それがアート性をもった工芸品の証なんだ・・。

東西の空間を越えた2作品との巡り合わせは、日頃なんとなく、感じていたことを、意識化・言語化させてくれた、有意義な出会いでした。


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