見出し画像

倉敷なつかしマーケットで出会った、福地義久さんによる若き日の描画

2021年10月24日(日)、岡山県立美術館で、個性派館長連続講演会の一環として、かがみの近代美術館館長、辻本高廣・氏の講演会がありました。その中で、美術品コレクターが亡くなった後、遺族がコレクションの価値が判らず、美術史的に貴重なコレクションが散逸してしまうケースが少なくないとの憂話がありました。その一方で、コレクターが、執念で、散逸した作品を、蚤の市(フリーマーケット、骨董市)で見つけ出した話も出ました。

そんなタイミングで、10月31日(日)に倉敷芸文館・中広場で蚤の市(倉敷なつかしマーケット)が開催されたので、筆者は、蚤の市デビューをしました。長く続いた感染の流行が、やっと沈静化してきたからです。

当日、会場には早朝から多くの人が集まり、ごった返していました。初心者なので、まず、イベントの全容を把握するために、会場を何度も巡ります。会場の露店で販売されているのは、使い込まれた日用品や工芸品が主体でした。期待に反して、アート作品を扱うお店は見当たりません。

そんな中で、勉強ノートや単語カードやメモ書きといった、個人の思い出の遺品のようなジャンルを扱っている一軒の露店がありました。そんな展示品の中に、10.4cm×14.7cmの小さなメモ用紙に描かれた、数枚のスケッチらしきものがありました。いずれも、捉えたものを瞬時に描き留めた、ラフな感じの描画です。

抽象画にも見え、何が描かれているのかが解らず、しばらく眺めていると、店主が声をかけてこられ、それらは自分の描いたものだと名乗られました。話によると、店主は、京都を拠点に古物商を生業としながら、画業を志している方のようです。

店主によれば、今までそれらの描画に興味を持ってくれた人はいましたが、名のある巨匠の作品だと期待してのことらしく、店主のものだと名乗ると、誰も買わなくなるそうです。そんな逸話を聞くと、あまのじゃくな筆者のこころにスイッチが入ってしまい、勢いで一連のスケッチを購入してしまいました

いただいた名刺によると、店主のお名前は、福地義久さんといわれます。スケッチの日付は、2002年11月26日および12月17日となっていますので、今から20年近く前のもので、舞台はヨーロッパのようです。

まず、11月26日の日付のものには、バルド海、Hiroshi Sugimoto、とメモ書きがあるので、写真家・杉本博司による、作品「バルト海」の展示を観た瞬間を描き留めたもののようです。

画像1

もう一枚は、その会場の風景でしょうか。

画像2

いずれの描画も、筆圧の変動が、その時の店主の感動を伝えています。


12月12日の日付のものは、Tateとメモ書きされていますので、ロンドンにある美術館、テート・ブリテンか、テート・モダンの建物でしょうか?

画像3


残りの2枚の描画には、日付や場所が記載されていませんが、鉄塔が描かれていています。
脚部が末広がりなことから、パリのエフェル塔と思われました。

画像4
画像5


これら3枚は、素早く、伸びやかに描き留められていて、当時の店主の意気込みや、旅を楽しんでいた様子が、伝わって来ます。

店主が、そんな思い出の品を手放してしまうのは、どうしてだろうか?

芸術の道は長い。店主は新たな段階にステップアップするために、過去の自分を捨てたのだ・・、と思えて来ました。


番外編1

ワイヤーアート作家の榊原祐介さんに、福地義久さんのエッフェル塔のスケッチに触発されたイメージを、即興で表現してもらいました。

ワイヤーアートの制約条件は、設計の段階で一筆書きができること、自律的に立つこと、影が美しいこと、だそうです。

造形は、あっという間に出来上がりました。

画像6
榊原祐介・作「エッフェル塔」
画像7
作品の影

ここに、芸術家同士の時空を越えたコラボレーションを実現できました。

(2021年11月7日)


番外編2
同じ機会に、倉敷なつかしマーケットで購入した福地義久さん作・「京都タワー」です。

福地義久・作「京都タワー」

ずっと仕事場に飾っていたのですが、急に気になり出しました。

画用紙に4Bの鉛筆で即興的に描かれたものですが、黒いフレームに入れられて、水墨画のような趣です。
しかし、水墨画のように、玲瓏なこころで描かれたものではなく、福地さんの内なるイメージが爆発したかのようにあふれ出したのを、刹那に描き留めたものです。ですから、スケッチやデッサンとも違います。

かなり前衛的、野心的な作品だったのでしょう!それが不思議な縁で筆者の手元にやって来て、急に光を放ち始めたのでした。まだ理由は言語化できないのですが、作品がもつアート性の所以です。
(2022年1月11日)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?