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慶應大学講義『都市型ポップス概論』⑨ 【70年代中期に起こった都市型ポップスの胎動】(こたにな々)

●文学部 久保田万太郎記念講座【現代芸術 Ⅰ】

『都市型ポップス概論』 第九回目


----------------2018.06.15 慶應義塾大学 三田キャンパス

講師:藤井丈司 (音楽プロデューサー) ・ 牧村憲一 (音楽プロデューサー)

1974〜1976年 ”ライブハウス” が担った役割

”大手プロダクション” ”メジャーレコード会社” ”TV局” このトライアングルが連携してエンターテイメント事業を大きくしてきた時代に、そこに取り込まれない音楽家達がいた。

彼らの音楽を伝える手段として ”ライブハウス” は重要な場であった。

”ライヴハウス”の原形は、日本では ”ジャズ喫茶” ”シャンソン喫茶”だった。しかし必ずしもジャズだけ、シャンソンだけということではなく、時代と客の好みに合わせて変化していった。”ライブハウス”という呼称は当初は ”ジャズスポット” ”ライブスポット” と言われていた。

『ロフト』という小さなジャズ喫茶が京王線の烏山に作られた。『ロフト』はさらなる ”ライブが出来る、ライブがある店” として西荻窪にオープン。続けて、荻窪にもオープン。最大100名近く収容出来るという事でPAを装備、弾き語りのフォークシンガーだけではなく、バンドも出演させる、当時としては稀有な店となった。フォークシンガー友部正人が連れて来たピアニストが、まだ東京芸大在学中だった坂本龍一という逸話もある。

下北沢にもオープンすると、多くの関西方面のミュージシャンが出演し、東京のミュージシャンと交流するようになる。ロフトでアルバイトをしていた一人に、サザンオールスターズのメンバーがいたという話もある。

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1976年 西武新宿線の駅近くに、300人規模のキャパシティを持つ 「新宿ロフト」 がオープン

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●1976年10月、新宿ロフト・オープニングデイに出た音楽家達●

[1日目 ソウル系]

 ソーバッド・レビュー/金子マリ&バックスバニー

[2日目 関西フォーク系]

加川良/大塚まさじ/西岡恭蔵/金森幸介/中川イサト

[3日目 70sロック系]

はっぴいえんどの事務所『風都市』に所属していた・関わっていた 鈴木慶一&ムーンライダース/南佳孝&ハーバーライツ 

ロックスターであった 桑名正博&ゴーストタウンピープル

[4日目]

サディスティックス・ミカ・バンドから生まれたサディスティックス(高中正義、今井裕、後藤次利、高橋幸宏)

[5日目 シティ・ミュージック系]

吉田美奈子&フライング・キッド・スクリュー山下達郎もメンバーだった)/矢野顕子

[6日目 東京フォーク系]

齋藤哲夫/遠藤賢司

及びシティ・ミュージック系のシンガーソングライター 大貫妙子

[7日目]

リリィwithバイバイセッションバンド (国吉良一、伊藤銀次)

[8日目 女性フォークシンガー]

山崎ハコ

[9日目 日本の新生ロック・グループ]

(名古屋の)センチメンタル・シティ・ロマンス/(金沢/小松の)めんたんぴん

[10日目]

長谷川きよしサンデーサンバセッション

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ライブ活動を軸に活動し続け、それ故に強い支持層を持ち、かつ東京だけではない、それぞれの土地の若手ミュージシャンが一同に会した10日間だった

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”ニュー・ソウル” という新しい黒人音楽―

1970年代、”キャロル・キング” ”ジェームス・テイラー” らシンガー&ソングライターの活躍と共に主に白人の音楽が前に出たが、それと同じくらいのパワーを持っていた音楽家が生まれ、その人々の音楽を ”ニュー・ソウル” と称した。

歌詞の中に意識的に社会性を取り入れた。

アメリカのヒットソングを極端に分ければ2つのタイプになる。”甘く恋を歌う音楽” 、”今生きていることを反映している音楽” の二極。 ”ニュー・ソウル” には社会性が込められていることが大事だった。

子どもの頃から教会へ通い、賛美歌を歌うことやオルガンを弾いていたことなどが音楽家に強い影響を与えている例が驚くほど多い。その中でもずば抜けた音楽性と知性を持つ音楽家たちの一群が、70年代のシンガー&ソングライターの活躍に肩を並べた。

●マービン・ゲイ『What’s Going On』

参照リンク:https://www.youtube.com/watch?v=fPkM8F0sjSw

ベトナム戦争に対する反戦歌であり、自分たちの音楽であるソウル・ミュージックにのせて反戦歌を歌うという画期的な曲であり大ヒット曲となった。

この曲を知った日本のソウル系アーティストはこぞってカバーするようになる。しかし誰一人、この歌詞を上手く訳詞することが出来なかった。結果、英語のままで歌うことになる。1976年当時日本でも最大級の評価を得ていた  ”ソーバット・レビュー” や 下北沢のジャニス・ジョプリンと呼ばれた ”金子マリ” もカバーしているが、まだ試行錯誤の中にあったと思う。

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”山下達郎”は日本のソウル・ミュージックの先駆者でもあった。

●山下達郎『Windy Lady』

シュガーベイブ解散後の1976年夏にニューヨークで録音された。タイトルで分かるように、シカゴ=ウィンディ・シティをイメージして作られた楽曲

参照リンク(音声のみ):https://www.youtube.com/watch?v=lLeLDDmhbFw

1970年代、山下達郎が意識していたシカゴ系のミュージシャンの最重要アーティストの一人が ”カーティス・メイフィールド” 。

●カーティス・メイフィールド『Tripping Out

参照リンク(音声のみ):https://www.youtube.com/watch?v=dCR6ecWb064

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●山下達郎『甘く危険な香り』

カーティス・メイフィールド『Trippin Out』のリズムとストリングスの配置など、その影響が読み取れる。

参照リンク(音声のみ):https://www.youtube.com/watch?v=kuBPceUPYKw

カーティス・メイフィールドの初期作品は社会性のある曲が多い。山下達郎はカーティス・メイフィールドの影響を受けつつも、アメリカと日本の相違を意識してか、ラブソングとして作り上げている。

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ファルセットの使い方―

シュガーベイブのデビュー時に「なぜ女性がいるグループなのに、山下達郎は変な声を(ファルセットという概念がなかった)出しているんだ?」という音楽周辺の人々がいた(笑)当然、山下達郎はファルセットを意識して使っていた。

ファルセットはその柔らかさに耳が行ってしまいがちだが、牧村先生は言う。実は獰猛、実声で歌えば素晴らしい声を出せるシンガー達である。内在する激しさをコントロールして出す声が ”ファルセット” であり、やわらかく見せながら、時にはその裏に激しい感情、怒りや悲しみを潜めている。山下達郎におけるファルセットも、ひょっとすると自分の音楽をなぜ受け止めてくれないんだ、という悲しみを潜めていたのかもしれない。

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ロック、フォーク、ソウルミュージックと...1976年に訪れた洋楽は多様化していた。

日本の洋楽の取り入れ方は100年経っても変わっていなかった。洋楽の持つ構造、メロディーをそのまま受け取るかわりに日本語に置き換える。どう日本語にするかという問題が常に起こっていた。それぞれの時代・それぞれの人達が色々なアプローチでやってきた。

この問題は当然1976年当時にもあったが、マービン・ゲイ『What’s Going On』のように内容が多岐に渡っているものをそのまま訳すことは出来なかった。今もなお洋楽というものに魅せられれば魅せられるほど、日本語という矛盾が沸き上がって来る。

そして、1976年は各都市独特の音楽が芽生えていった年でもあった。

新宿『ロフト』のオープニングデイに表されたように、各地でその土地独特のアーティストが生まれていた。

同じ新宿ロフトで、当時はまだ知る人ぞ知る存在 ”タモリ” が、都市や70年代文化をきついジョークにしていたことがある。多様なものを受け入れていた時代だった。

そして、あと数年もするとライブハウスで活躍していた人達の中からもTVにその活動を移しヒットを飛ばすということ事が起こる。TVというのは食欲旺盛なのだ。

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70年代から続いて来た日本の ”フォーク” ”ポップス” ”ロック” とは?という問いかけは、この76年から明らかにサウンド志向に傾いて行く。これまでのテーマを再構築していくためには ”YMO” や ”サザンオールスターズ” ”竹内まりや” が新たに登場する1978年を待たねばならない。

ということでまた次回!https://note.mu/kurashi_no_nana/n/ncc84cf8b6985

お読み下さってありがとうございました!

本文章は牧村さん及び藤井さんの許可と添削を経て掲載させて頂いています

文:こたにな々 (ライター)  兵庫県出身・東京都在住  https://twitter.com/HiPlease7

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