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「山の図書室」という試み~暮らしに寄り添う、という役割について。

2022年最後の「時々、コラム。」となりました。

5月に本格オープンした「山の図書室」。どんな本がたくさん借りられたんだろう、と調べたところ、「書店」でも「公立図書館」でも「古書店」でもない、自分たちならではの役割が見えてきた気がするので、今回は「山の図書室」について、借りられた本のランキングとともに、傾向や感じたことをまとめてみようと思います。

「山の図書室」は、「シマシマしまね」に付属する施設として昨年度末から企画してきたものです。

地域の暮らしを楽しむためには好奇心を持って生きることが大切だ、と考えている私たちが、その一つの方法として「読書」をしてみませんか、というメッセージを込め、閲覧・貸出ができる図書スペースとしてオープンしました。

おかげさまで約7か月間、たくさんの方にご利用いただきました。

当初は「閲覧はしていただけても、お金(年会費500円)を払ってまで本を借りたいっていう人がいるんだろうか」と心配していたのですが、思った以上に会員登録をしていただき、また思った以上に頻繁に本を借りてくださり、スタッフ一同、すごく喜んでいます。

そこでまず、この7か月間、図書室では果たしてどんな本が人気だったのか、どんな本を求めておられるのかを、貸出履歴をたどって振り返ってみたいと思います。

2022年、「山の図書室」でもっとも借りられた本は…
光浦靖子さんの『50歳になりまして』でした!

現在も貸出中のこの本(ゆえに写真がありません…すいません。本棚にぼんやり映ってる写真を載せておきます…)。

たくさんの方が手にとってくださった、という事実は、私と同じような年代の女性が、「50歳」という年齢をいかに大ごととしてとらえているか、ということを表していると思います。

ちなみに、貸出ランキングの第2位は、
山中とみこさんの『時を重ねて、自由に暮らす 50代、60代からの衣職住』
こちらも、年齢がひとつの鍵になっているように思います。

30歳になる、40歳になる、というのとは確実に異なる心情の揺れが、「50歳」という年齢にはある。

今までの道が真反対に折れ曲がっていくような、急激な下り坂になるような、言いようもない焦燥感、寂しさが、確かにあります(経験談)。
「前向きで生きていきたい」と思っていても、立ちはだかる「50」という数字にたじろいでしまう、そんな時に、「あなただけじゃないよ」とそっと背中を押してくれるような本が、求められていたのかもしれませんね。

ほかのランキング上位の本は、このnoteで「おすすめ本」としてご紹介したり、施設で配布している「くらしアトリエ通信」でおすすめ本として取りあげたりしたものがほとんどでしたが、「50歳になりまして」は特におすすめしていないにもかかわらずダントツの人気で、読みやすさとテーマがたくさんの方の心に響いたのかな、と想像しています。

3番目に人気だったのは、
「子どもと一緒に覚えたい道草の名前」(稲垣栄洋:監修、加古川利彦:絵)です。

こちらは、写実的に描かれたイラストが人気だったよう。
お子さんと一緒に、とありますが、大人が見てもとても興味深く、日々の散歩が楽しくなるような内容でした。
こうした、図鑑や写真集のような本も、自分で買うとなるとちょっと躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。そういう意味でも、手にとりやすい本だったのかな、と思います。

そのほか、貸出の多かった本はこちら。

  • 『整える、調(ととの)える。料理、掃除・片づけも少しずつ』(ワタナベマキ:著)

  • 『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(今井真実:著)

  • 『泣いてちゃごはんに遅れるよ』(寿木けい:著)


やはり「暮らし」「食」がテーマの本が多いんだな、という印象。
図書室にいらっしゃる方が、日々の暮らしを大切にされつつ、もっと良くなるには…と好奇心をもって本に対峙されているのが伝わりました。

ワタナベマキさん、今井真実さん、そして寿木けいさん、皆さん食の提案をする一面だけではなく、エッセイストとしてもとても魅力的な文章を綴られている方ばかり。単なるレシピ本ではなくこのような本が人気だったのは、「レシピ+α」の部分を欲していらっしゃることの表れなのかな、と思います。

迷ったときに「こういう生き方もあるよ」とヒントをくれるような、灯りになるような文章が、好まれているのだと感じました。


ちなみに、小説部門で貸出1位だったのは
『青くて痛くて脆い』(住野よる:著)
でした。

図書室がオープンしてはじめのうちは、どんなジャンルのものもまんべんなく読んでほしい、と思っていたのですが、7か月経って感じるのは、「山の図書室」に求められているのは、やはり日々の暮らしをより良くするためのヒントになるような本なのかな、ということ。

もちろん、小説や学びの本なども、間接的に日々の暮らしを彩ってくれるものではありますが、皆さんの日常が楽しく、ポジティブでいられるような本の発信を、これからも続けていけたら…と思います。
そのうえで、将来的には他ジャンルのものにも興味を持っていただき、いろんな世界の扉が開くような場であればいいな。

また、「山の図書室」を続けていくうえでなくてはならない存在となっているのが「マイクロライブラリー」。

図書室の顔ともいうべき、愛らしい水色のちいさなおうちです。

マイクロライブラリーは、地元斐川の大工さんに作っていただき、絵は飯南町の絵本作家・かげやままきさんに描いていただいた、まさに唯一無二のもの

もともとは、「図書室って言っても週に2回しか開かないとか、借りる人も返す人も利用しにくいよね…」というこちら側の事情からスタートしたものなのですが、結果的にはこのマイクロライブラリーを利用してくださる方がとても多く、本の利用促進に多大な貢献をしてくれています!

私がもし本を借りたくても、わざわざ施設があいている日に行かなくちゃいけない、となったら入会をためらうかもしれませんが、マイクロライブラリーがあるならそっと返してそっと借りることができるわけで、なんて嬉しいシステム!と思う…ような気がします。

月曜日に「オープンスペース.美南」さんに着いて、貸出簿を開いたときに、ずらりと本の名前が並んでいるのを見たときの、何とも言えない多幸感!

本を返した方が、いつも同じ数の本を借りてくださっているのを見たときの、嬉しい気持ち!

図書室を運営していて、一番心があたたかくなる瞬間です。

前述したとおり、「山の図書室」は読書を通して好奇心を高め、違う世界の扉を開くきっかけとなる「場」づくりとしてオープンしたわけですが、その「場」というのは、必ずしも「みんなが直接集う場」でなくてもいいんだな、というのを、この7か月で何となく感じました。

人が集まって「この本いいですよね」「私のおすすめはこの本」と話し合いながら前に進んでいくのもいいけれど、もしかしたら「山の図書室」の役割はそこではなく、ひとりひとりが自分の思いのままに、誰のためでもなく自分のための時間を過ごすための鍵のようなものなのかも、と今は思っています。

誰にも会わなくても、話をしなくても、自分のペースで本に出会うことができる。そんなシステムが「いいなあ」と思って図書室にいらしてくださる方たちのために、私たちスタッフは来年以降も勉強と経験を積んで、本をセレクトしていこうと思っています。

もちろん、直接スタッフに会いに来ていただくのも大・大・大歓迎!です。
冬場(1月~3月)はオープン時間が短くなるかもしれませんが、ご都合のつく方はぜひぜひ、遊びにいらしてくださいね。

とにかく、「山の図書室をオープンして本当に良かったね~」というのが私たちの総括!来年も変わらず、図書室に足を運んでいただけるよう、研鑽に勤めたいと思いますので、会員の方もそうでない方も、気軽にお越しくださいね!お待ちしています。

最後に、「山の図書室」から年末年始におすすめの本のご紹介です。

『暮らしを、整える: 部屋と頭と心のお片づけ』 主婦と生活社

年末年始はお片付けや掃除について考える時期でもありますよね。
この本は、単に掃除のことだけではなく、気持ちよく暮らすためにどういう片づけをしたら良いか、心まで整えるような内容になっています。
具体的な事例がたくさん載っているので、ご自身のインテリアや暮らし方に合わせた読み方ができるのでは、と思います。

『暮らしのコツコツ』石村由起子著 文芸春秋社

こんな暮らし方ができたらいいな…と、ずっと憧れ続けているのが、奈良の「くるみの木」オーナー・石村由起子さん。この本はそんな石村さんの生活のヒントが散りばめられた1冊です。整理整頓のことはもちろん、ものの選び方、ディスプレイ、さらにはたたずまいや生き方そのものを教えてもらえるような気がして、折に触れて読んでいます。

『風が強く吹いている』三浦しをん著 新潮社

言わずと知れた、箱根駅伝を目指す大学生の青春群像劇です。この本を読んで駅伝にハマった!という方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
本当に、箱根駅伝を見る目が変わる1冊だと思いますし、努力を重ね、挫折し、また立ち向かう若者たちがとにかく魅力的です。ちなみに、主人公とも言える灰二(ハイジ)は島根県出身!俄然、応援したくなります。

「シビックプライド」の醸成のために、たくさんの情報から取捨選択するスキルをそなえること、知的好奇心を持ち続けることを大切にしてほしい。そんな思いをのせてスタートした「山の図書室」。

直接の貸出・閲覧のほかに、こちらのマガジンでおすすめ本の紹介を行っています。

遠方の方も、良かったらマガジンをご覧いただき、図書室を楽しんでいただければ幸いです。

来年もどうぞ、「山の図書室」をよろしくお願いいたします。



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