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自分が「本を探す」と、自分が「本を勧める」で考えたこと。

皆さんは、読みたい本を探すとき、どんなツールを使いますか?

好きな作家さんが決まっていて、新刊が出たら読む、という方もいらっしゃるでしょうし、新聞や雑誌で紹介されているものを読んでみる、という方もおられると思います。Amazonなど、ネット書店の「よく一緒に購入されている本」「あなたにおすすめの本」といった欄から探す、という方も多いのではないでしょうか。

私は、特に小説を探すとき「X(旧Twitter)」の検索を使うことがあります。
「おすすめ 本」とか「小説 すごい」とかで検索すると、たくさんおすすめの本のポストが出てくるので、そこから自分がまだ出会っていない作家や読んだことのない作品を見つけていく、というもの。

もちろん、この方法で「面白かった!」というものに出会うこともあるのですが、「…そうでもなかったなあ」とか「まあまあ面白かったけど、言うほどでは…」という思いをすることが多い、というのが正直なところです。

最近、何冊か連続でそういう思いをしたので、なぜだろう、と考えたら、ポストの中の「煽り文句」にすごく影響を受けていることに気づきました。

「全ページ面白い!」
「最後の一行で世界の見え方が変わる」
「アドレナリンの出過ぎに注意」
「間違いなく、読んだ後倒れ込んでしまう」
「価値観を揺さぶられたい方は必読!」

これらは、おすすめ本に添えられていた言葉で、私がブックマークしていたものの一部です。どれも、すっごく面白そうじゃないですか?「全ページ面白い」って言われたら、そりゃあ手が出るでしょう。

でも、当然ですがそれはあくまでも本を勧めるための「煽り文句」なので、私は「煽られて」いるのです。まんまとその言葉に流され、本を買ってしまうというわけ。もちろん、その方が「全ページ面白い」と思ったことに嘘はないとしても、その方とまったく同じテンションでその本が読めるか、というと、そうではないので、「うーん」という感想になってしまう。勝手にハードルを上げて、「思ったほどじゃなかった」と感じてしまうのです。

この文句を書いている人は書店員だったり個人だったりするのですが、多くの人に向けて「この本を読んでほしい!」と思ったとき、ぱっと目につきやすく、キャッチ―で爆発的な威力のある言葉を、どうしても使ってしまうのだと思います。

結果として楽しい本に会えたり、「この人の文体は好きだなあ」という発見もあったりするので、「煽らないでよ!」とは思わないのですが、読書後の感想って言い表すのがとても繊細で、難しいものなんだなあというのを、つくづく感じました。
扇動的なうたい文句には、あまり乗せられないほうがいいのかもしれません。

くらしアトリエが運営している私設図書館「山の図書室」でも、会員の方から「この本どうでした?」と感想を求められることがよくあります。

「めちゃくちゃ良かったです!」とか「こういう人には向いてるかも」とか、その都度お答えするのですが、「私」という個人の感想が、その方に合うのかどうかは分からない。司書資格を持つスタッフと話をしていていも、同じ本を読んでもまったく「刺さる」場所が違っていたりすることもあり、1冊の物語の中からその人がくみ取る箇所って、十人十色なのです。
だから、なるべく垣根なくその本を手に取っていただけるには、どういうおすすめの仕方をすればいいのか、すごく考えます。


そんな中で、図書室のオープン当時からずっと続けているのが「選書」です。
「山の図書室」の選書は「ゆるっと選書」というもので、「ゆるっと」という言葉には、

・選書にはお時間をいただきます
・この1冊がおすすめ!というのではなく、何冊かリストアップしたうえで「あなたに合うものをお選びください」というスタンスです

というニュアンスを込めています。

もともとは、「普段あまり本を読まない人に、新しい扉を開いてもらいたい」というのが思いとしてありました。本を読むと視野も広がるし、楽しいよ、というのを何とか、たくさんの方に体感していただきたい…という思いを込めての「選書」というイメージ。

ですが、オープンから2年足らずで選書のご依頼もたくさんあるわけではあないにしろ、傾向として「あれもこれもたくさん読んでいるけど、もっと違う世界を知りたい」という方のご依頼のほうが圧倒的に多いようです。

好きだからもっと知りたい、もっともっと読みたい、吸収したい!というご希望にこたえて本をおすすめする時には、なるべくフラットな言葉でご紹介する、というのを心がけています。

「とにかく読んでみて!」「絶対面白い!」というのではなく、

「途中、少し苦しいところもあるけれど、読み終わった時に何かが心に残ると思います」
「登場人物を応援したくなると思います」
「順番に読まなくても、その日の気分で好きなページを読んでも楽しいです」

など、なるべく平穏な言葉で、興味を持っていただけるようにお伝えしたほうが、固定観念なくすっとその世界に入っていけるんじゃないかな、と思うので…(自分がさんざん煽られておきながらアレなのですが)。

もちろん、「〇〇さんはこれ絶対好きだと思う!」とおすすめすることもありますが、「ちょっと趣味とは違うかもしれないけど、こういうジャンルもチャレンジしてみられませんか?」とご提案することのほうが多いかもしれません。

「そうきたか!」という楽しい提案をされたほうが、自分なら嬉しいな、と思うからです。
あくまでも、全然興味のないものをおすすめするのではなく、「その方の”好き”と重なる部分を見つけて」「”好き”を広げていけるような1冊を探し、ご提案する」というのを心に留めて本を選んでいます。

選書した本はあずま袋に入れてリストとともにお渡しします。

先日、選書をさせていただいた方から
「おかげさまで、読みたい本や気になる本が次々と出てきました」
という、嬉しいコメントを頂きました。

直接おすすめした本をスタート地点として、「これも面白そう」と食指が動いていくのを感じることができて、私たちもとても嬉しい体験でした。選書はあくまでも「きっかけ」「はじめの一歩」。そこから、どんどんと読みたい本がつながるように増えていくことが、私たちの願いです。

「普段ぜんぜん本を読まない」という方のご依頼はあまりないので、今後はそういう方にも新たな本の世界を楽しんで頂けるようにしたい!会員の方以外にも、図書室の存在を知っていただき、「ここで借りるのが楽しい」というような場所にしていきたい…そんな風に思っています。

選んだ本は藍染の袋に入れてお渡ししています。

「ゆるっと選書」は会員でない方でもお申込みいただけますので、「ぜんぜん読まない」という方からのリクエストも、ぜひぜひ!お待ちしています。

サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。