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カラスのヒナに出会ったら

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                       2020/09/18 第588号
          ☆★☆ TIPS通信 ☆★☆
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【 カラスのヒナに出会ったら 】

こんにちは。身近な自然観察アドバイザーのmimosaです。

初夏のある日、仕事帰りにスーパーマーケットへ寄ろうと、集合住宅の前の道を歩いていると、小学4年生くらいのマスクをした女の子に呼び止められました。「すみませーん、ちょっと来てください。」

私以外に人は歩いていないので、私に声かけしているようです。女の子は、道沿いの、地面から60センチメートルほど高い植え込みに立っていました。植え込みの向こうは遊具などのある小さな公園になっています。

女の子は「こっちに来て、これを見てください!」と、道と反対側の植え込みの下を見てほしいと言います。一緒にいるのは、友達なのか、弟なのか、小学1年生くらいの男の子2人です。「これを見てください、お願いしまーす。」と3人が熱心に言います。

そこで、よっこらと植え込みに上がって反対側を覗くと、カラスのヒナがうずくまっていました。ヒナといっても、大きさはハトと同じくらいでしょうか。意外と大きいものの、そのつぶらな瞳の可愛らしいカラスに、子供たちが同情するのもわかります。怪我をしているのか、事情はわかりませんが、何らかの原因で動けないようです。

私は、子供たちに「野生の動物にはよくあることなのだけど、手は出さずに、自然に任せるのがいいと思うよ。」と言いました。スマホで調べると、やはり放置がよいとあり、それでも保護したいときはどうするか、というのも書いてあったので、それを読んであげました。

それを聞いた女の子は「私は助けたい。」ときっぱり言って、「この公園には野良猫もたくさんいるので、襲われるかもしれない。お願いします、助けてください!お願い、お願い。」と何度も私に言いうのです。男の子の1人は、「ここにカラスの子供がいます、誰か助けてください!」と道を歩く人に声をかけはじめました。

さらに、ヒナがお腹を空かせているかもしれないから、エサを買ってほしいと言う女の子に、私は、自分たちで保護したいなら、家族に相談しないといけないこと、学校の先生にも相談すること、と伝えて、買い物へ行くためにその場を立ち去りました。「帰りに、またここに寄ってくださいねー、ぜったい来てくださいねー。」と何度も言う、大きな声が聞こえていました。

その後、買い物をすませた帰り道、同じ場所を通りましたが、子供たちの姿はどこにもなく、カラスのヒナもいなくなっていました。ただ、公園のすみを、ヒナによく似た大きさの黒い鳥がトコトコと歩いているのが見えました。うずくまっていたヒナが元気に歩けることがわかったので、子供たちは安心して帰ったのか、親切な誰かが手を貸したのか、それはもうわかりません。

野鳥のヒナをみつけたときにどうすればいいのか。あらためて、調べてみようと思っていたところ、(公財)日本鳥類保護連盟の「ヒナを拾わないで!!」キャンペーンのポスターが目につきました。(公財)日本野鳥の会の「-ヒナを拾わないで-ヒナとの関わり方がわかるハンドブック」及びパンフレット「野鳥のヒナと出会ったら?」によると、野鳥を許可なく捕まえると鳥獣保護法(鳥獣の保護及び狩猟の適正化にする法律)違反になり、基本は「そのままにする」ことだと記載されています。また、野鳥を保護したときは、必ず各都道府県の鳥獣保護担当部署に連絡しなくてはなりません。

巣立ち直後のヒナのそばには親鳥がいて、人がいると警戒して近づけなくなるため、その場から離れることがヒナのためになるとのこと。親鳥と一緒に過ごす短い期間に、飛び方やエサのとり方、何が危険かを学んで、自然の中で生きていく術を身につけるそうです。怪我などしていて、担当部署の指示で動物病院や保護機関等へヒナを運ぶときの注意点などもイラスト入りでわかりやすく紹介されています。

「野鳥は自然の一員である」ことを知ることが大切なことも書かれています。自然の中ではいろいろな生きものが「食べる-食べられる」という関係の中でバランスを保っていて、弱った野鳥はヘビやイタチ、大型の鳥に食べられることもありますし、ヒナ自身もたくさんの昆虫などを食べなければ成長できません。

ヒナを拾ってどうしたらいいか困っている人たちに、かわいそうだとペットのように飼ってはいけないこと、「自然のしくみ」のなかで、どうすることがいいのかをよく考えること、手をさしのべるとしてもヒナを自然に返すお手伝いであることなどを、このハンドブック等によって広く伝えたいとのことです。

友人に今回の子供たちの話をしたところ、うちの子供も似たようなことがあった。「子供の行動あるある」の一つだね、優しい気持ちからきているんだよね、と懐かしげに言いました。子供たちの小さな命に対する優しい気持ちは大切です。と同時に「自然のしくみ」を知ることも重視してほしいと思います。何をすることが「ヒナを助ける」ことになるのか。拾わない意義を知ることや対応の方法などは、大人も知っておきたい情報です。

都市部で暮らす子供たちは、多様な生きものに触れる機会が少なく、大きな自然環境で繰り広げられる命のつながりはイメージしづらいかもしれません。それでも、自然のなかで五感を使って、いろいろな生きものと接する機会があれば、たくさんのことを学ぶことができるでしょう。こんなコロナ禍ではあるけれど、子供たちには、野外でのさまざまな経験を通して、心豊かに、自分自身でよく考えて行動する力を少しずつ身につけていってほしいと思います。

<参考サイト>
「ヒナを拾わないで!!」キャンペーン
http://www.jspb.org/hinakyosan.html
「-ヒナを拾わないで-ヒナとの関わり方がわかるハンドブック」ほか
https://www.wbsj.org/fukyu/hirowanaide/handbook.pdf
https://www.wbsj.org/activity/spread-and-education/hina-can/
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