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《取材記事②》ながく、つかう『移住して急激に知り合いが増えた』

想いをこめた「手しごと」と、「食」、作り手と使い手が出会える新しいクラフトイベント「くらしずく」。

今回のテーマは「ながく、つかう」。開催に向け、当日、金継のワークショップを開催する水野谷八重さんにお話をうかがいました。
今回は第2回の公開です。

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こちらの記事は3回にわたりお届します。
第1回 9月6日(木)『漆の無限の可能性に魅了されて』
第2回 9月13日(木)『移住して急激に知り合いが増えた』
第3回 9月20日(木)公開予定

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「『KUSA.』さんで金継ぎの器を使われているのを見て、連絡をくださる方が結構いますね。お客さんがKUSA.の姫野さんに『これ、どなたがやられたんですか?』と尋ねて、うちを紹介してもらって・・・」

金継ぎの技法で修復した器。こちらは金ではなく錫を使っている

・・・八重さんのアトリエから車で40分ほど。『KUSA.喫茶 自家焙煎COFFEE +PAN.』は太平洋に面した長生村にある。店主の姫野さんが焙煎したコーヒーを、益子の陶芸家、石川若彦さんの器で味わえる店で、県外からのお客も多い。海辺の修道院を思わせるような静謐な喫茶空間。その凛とした佇まいを、そのまま器に宿したような石川さんのコーヒーカップには、クリアーな香りを抱いた黒い液体が注がれる。
このKUSA.で使われている石川さんの器に金継ぎを施したのが、実は八重さんなのである。

金継ぎとは、漆の接着作用を活用した陶磁器の修復技法のこと。割れてしまったり欠けてしまった箇所を、小麦粉と漆を混ぜて作った粘り気のある「麦漆」を塗って接着し、凹凸をなくしたうえで、金属粉で加飾する。金属粉には金だけでなく、銀や錫(すず)なども使われる。

八重さんは漆の作品製作以外にも、この金継ぎによる器の修復も行っているが、

「金継ぎによる修理依頼は、こっちに来てから多くなりました」

と、長柄へ移住してからの変化を八重さんは語る。

八重さんは福島県出身。山形にあった東北芸術工科大学卒業後は東北を離れ、東京へと向かう。バイトをしながら漆芸家、松田典男(のりお)さんのアトリエを訪ねて漆を学ぶ一方、インド大使館で行われたヨガ教室で偶然出会った、キュレーターのヤンさんとの縁から、初めて都内の百貨店での展示が実現した。

「その頃からいろいろ展示の話をいただけるようになって。何がきっかけで物事が進んでいくか、ほんとうに分からないですね」

と振り返る八重さん。ヤンさんは銀座で陶芸教室も主宰されており、そこで金継ぎ教室も行ってきた。

東京で製作活動を続けてきた八重さんだが、2008年に転機が訪れる。雄大さんとの結婚を機に、東京から千葉へ移り住むことに決めたのだ。

「夫は千葉市出身なのですが、千葉でももっと田舎で製作活動をしていきたいって言い出しまして。私も広い場所が欲しいなって思ってたから、じゃあ探そうということになって、茂原辺りを中心に家を探し始めたんですね」

そうして、長柄にあった築150年ほどになる茅葺の古民家を借りられることになり、暮らし始めた。だが湿気がひどく、住み続けるには難がある環境だったため、再び家を探し始る。そして、同じ長柄町内で見つけた現在の家を、2011年に手に入れたのだった。

小さな谷を奥に向かって伸びる田舎道。その先に、八重さん一家の自宅とアトリエがある。

「もう直感でここだって決めたんです。鉄工の作業所があったというのが大きかったですね。前の住人の方が鉄の作家さんだったんですよ。倉庫だったところを私の作業場にして、その鉄工所を夫の作業場にして。鉄の道具もその住人だった方に譲ってもらって、コークス炉の使い方も教えていただいて」

家を通じて作り手同士が出会うという偶然。ずっと望み続けていると、やがてこのような出会いが引き寄せられてくるのだろうか。

「元々建てられていた家も気に入って。中の壁の漆喰は私たちが塗ったんですよ」

と、すっかりこの家を気に入った二人。今は、アトリエにしている空間に手を入れている最中で、2018年11月頃にギャラリーとしてオープンさせる予定だという。

八重さんのアトリエ。長柄の森に抱かれた環境だ。

鉄のフレームに漆塗りの座面を組み合わせた椅子。八重さんと雄大さんの合作。

それにしても最初に住んだ古民家から離れる際、この地域から離れる選択肢はなかったのだろうか?その問いに対して、八重さんはこう言って笑った。

「長柄に住み始めたら、知り合いがすぐにいっぱいできたんです」

長柄に住み始めて1ヶ月ほど経った頃、同じ町内にある六地蔵窯の窯出し展に行き、作り手の安田裕康さんとすぐに親しい仲に。安田さんに様々な人を紹介してもらい、そこから一気に地域の人たちとの関わりが増えたという。

「急激にこの土地に馴染んじゃって。じゃあ、住みやすいからこの辺で家を探そうかっていうことになったんです。KUSA.さんとのつながりができたのもここに来てからです」

今では大網白里市のギャラリー「gallery ten」のほか、白子町にある「café fuchsia à côté de la mer」や南房総市にある「Horne cafe」で金継ぎ教室を行うなど、東京での展示にとどまらず、房総というもうひとつのフィールドも軸に活動を展開している。

木々に囲まれた自宅の庭

ーーーーーーーーーーーーーーーーー-----------------《9月23日(日)くらしずく2018にて開催。》※残席あとわずか。

「ながくつかう」金継ワークショップ【初級編】
講師:水野谷八重

金継ぎは割れたり欠けたりした器を漆で補修し、金粉などで加飾する日本古来からの修理方法です。
今回は初めての方でもできる、初級編の金継ぎワークショップです。欠けてしまったお気に入りの器をご自分の手で素敵に甦らせてみませんか?

募集内容
●時間 午前の部 10:00−12:00  
   午後の部 13:30−15:30
●定員 各回8名
●参加費 3,000円お茶代+送料
●持ち物 欠けのある器1点
     *欠けの大きさは2㎝以下の小さなもの
     *今回は割れ、ヒビの修理は不可(修理のご相談はお受けいたします)
     *スペースの関係上大きな器(径30cm以上)はご遠慮ください
●申込み方法 予約は電話またはメールでの受付となります。定員に達した場合は先着順に締め切らせていただきますので、ご了承ください。
電話:0475-76-3551(菅原工芸硝子 月~金 10時~18時)
メール:kurashizuku@gmail.com

●作業内容 欠けた部分をパテで埋めて漆を塗り、金粉(銀粉)を蒔くところまで行います。器は一旦講師がお預かりし、仕上げ作業をしてから後日郵送でお返しします。

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