連携事業協定記念「座談会」


2021年10月連携事業協定記念トークイベントを開催しました。当日のトークイベントのあと、クローズで「座談会」を開催しております。その時の様子をご紹介したいと思います。


(座談会参加者)役職は2021年10月現在

公立はこだて未来大学
学長    片桐恭弘
副学長   川嶋稔夫
教授    岡本 誠
教授    三上貞芳
教授    伊藤精英
特任教授  須永剛司

国立障害者リハビリテーションセンター
病院  病院長  西牧謙吾
研究所 研究所長 小野栄一
自立支援局函視力障害センター
教務課長     舘田美保


連携のきっかけは「夢」があること

司会伊藤:センターと大学との連携のきっかけをつくってくださったのは国リハの小野研究所長です。

小野先生から同期だった前学長を通してセンターの舘田さんを紹介したいと一文のメールが送られてきまして、こんな風になったわけです(会場:笑)

産総研時代の小野先生は研究においても厳しい指導をされる方で怖い印象があったのですが、最近のご活動の中で「わくわく・fun!」とおっしゃられているのをお聞きして、ずいぶん年月が経ったのを感じました(会場:笑)

先生は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、ビジネスミーティングの時に「伊藤さんの夢はなに?」と訊かれまして、「自力で移動できるトレーニングシステムを作ったり、視覚障害者向けのロールシャッハのような投影法の研究がしたい」と答えましたら、「ぜひそういう夢は持ち続けてください」と言ってくださった小野先生の一言が今の自分を支えてくれています。

やはり夢を持つ、夢を語るって大事なんですね。

小野:人には色々な立場がありますが、例えば総理大臣だろうと幼稚園のお子さんだろうと変わらないと思っていて。

どんな夢をみて、興味をもって、どう行動されているのか。

自分では気づけないこと、その人が見たり話したりしていることに私は興味を持っています。

函館センターに視察に行った際、舘田さんが夢のあるお話しをしてくださって、そこからアイデアも出てきて。

前学長にセンターと関われる人を紹介してほしいとお願いして、(期待どおり)伊藤先生が出てきた。(会場:笑)

伊藤先生はもちろん知っていましたし、ダイレクトにお願いすることもできたのですが、所長を通した方が組織としても動きやすそうだなと思ったので。

トークイベントで川嶋副学長がお話しされていましたけど、組織がOKすることは物事を進めていく上で大事なんです。

障害とコミュニケーション

司会伊藤:西牧先生も思わぬ気づきなどから始まるというご経験などございますか?

西牧:臨床をやっていると、研究の糸口、気づきがあります。
今特に関心があるのは、聴覚障害のある子供で自閉症スペクトラムを合併している場合です。

自閉症スペクトラムの子供は母語の形成が難しいうえに聴覚障害があると、もうひとつ音声言語での(会話・語句の把握)が難しい。

聾学校に入ると手話の教育を受けるのですが、そうするとその子供はどういう風な母語を形成するのか、実は人によって違って、それが小学校に入る頃わかるんですね。

なぜかというと、うまく手話で母語が形成された人は聾学校の教育に乗って文字言語とか置き換えが起こるんですが、母語がちゃんと形成されていない子供が学校教育に入ると、レディネスができておらず学校教育が入らない。

これは基礎研究がいるので国リハでできるといいなと思います。

司会伊藤:マスク生活になり、聴覚障害児の音声習得に影響しているでしょうね。ICTの活用で解決できそうな分野ですね。

須永:うまく学べる子と学べない子がいるのはなぜでしょうか?

西牧:知的障害があると音声言語を獲得できないということがあるんです。しかし複雑なコミュニケーションはできないけれど、生活に困らない程度できる可能性がある。

僕の中でコミュニケーションは、ものすごくバリエーションが広がりつつあります。

司会伊藤:須永先生、どうですか?

須永:すごく広がりがあるということをつくづく感じますね。
表現形式としてバリエーションが沢山あることに気づいたのですが、根っこの感受性にはそんなにバリエーションはないんじゃないかと。

もっと心に何を受け止めたのかというところを磨くようなプログラムを作れたらいいなと思いました。

受け取ってどんなものを手に入れて、どのように外に発したいのか。

そこの確認を任せっきりになってた感じがして、大きな発見をしたような気がしています。

司会伊藤:情報支援と表現というのは、かなり切り離せない…

須永:切り離さないほうがいいですよね。

個々の研究から社会につながりのある研究へ

司会伊藤:もう一つ重要になってくるのは、川嶋先生が仰っていた、個々の研究者が共同研究をするのではなくて組織でやるメリットをどう生かすか。

つまり社会とかかわっていってどう変えていけるかですね。

西牧:言葉でいうと、今までポータブルサイトで支援者のレベルを上げることで当事者のQOLが上がるという発想をしてたんです。

医学モデルで当人が頑張らないとダメと言っていたんですけれども、今回ICTの話を聞いて4割だなと思うようになりました。

言語のやりとりするだけがコミュニケーションではなく、もっと広い意味でコミュニケーションができる。

そういう可能性を今回のディスカッションで気づきました。

須永:ダンスなどもいいんですよね。

西牧:そうなんですよね。

須永:コミュニケーションのバリエーションは広いので。
広がっていくんじゃないのかな。いろんなチャンネルが。

司会伊藤:コロナで広がったオンライン技術を活用して、例えば国リハであれば7施設に広がるといいですよね。

須永:コロナのおかげというと変ですが、そのシステムを社会が手に入れましたね。

社会のことを解決するためのプロジェクト学習

三上:サポートの立場から。社会の事を解決しようというプロジェクト学習がありまして、そこで学内の自分の位置を記録するための電子タグを学内の全部に入れるインフラができて。

それを使って視力障害者に対してガイダンスシステムができるのではないかということで、伊藤先生と相談した時に函館視力障害センターさんと話しをする機会ができたんです。

須永:位置情報を使うとは具体的にどういうシステムですか?

三上:落とし物をみつけるシステムで、電波灯台のようなものです。

伊藤:移動システムの話がでてきた時に、ちょうど盲導犬がいなくなって、バリアフルな状況下(大学構内)で自立移動できなくなり困っていた時だったので、わたくし被験者しますということで、今、学生さんと進めてもらっているわけです。

ここでうまくいけばとても安価に実現できる。

そういう風に一つ一つ解決しているのではないかと思っています。

未来大学も国リハもICTを使いこなすよりもまだコントロールされているとこがあるので、そこを解決していければ結果的に情報支援になり、情報弱者がいなくなるかなとも思っています。

片桐:未来大学学長の片桐です。

今朝、ニューヨークタイムズを読んでいましたらヘレン・ケラーの話が取り上げられていて、ハンディキャップがあるにもかかわらず頑張って普通の人と同じ事ができるようになった、すごい、そういう美談にとられがちだけれどやめてくれという記事でした。

ヘレン・ケラーは色々な社会的活動をされ、とても活躍された。

障害者ということではなくて、ちゃんと社会で活躍できている。

そこをみてほしいと。

今日の話しであれば、障害のある方、ない方が、一緒に話をすることによってそれぞれ違う能力みたいなものが見えてくる。

どちらが優れているということではなく、コミュニケーションすることによって活かしあって、そこにIT技術を活用など、うまく捉えると面白いこと色々できるんじゃないかと感じました。

研究がうまくいくためのキーワードは「関係性

司会伊藤:川嶋先生、これまでのお話どうでしょう。

川嶋:難しいタイミングでまわってきました。(会場:笑)

20年前から須永先生と一緒の研究プロジェクトで、視力障害ということではなく読みに関する研究しています。

視野に障害がある人の「読み」は生活の中でのエンターテイメントの部分で、すごく大事な生活を豊かにする為の道具です。

視野の障害が起きるタイミングというのは人によって色々だけれども、多かれ少なかれ現れてくる。

今回、社会と連携していくということで、視力センターでカバーできていないところまでできるといいなと。

技術を使って解決しましょうということだけではなく、コミュニケーションによって問題点を共有することで、生活しやすくなる、楽しくなると思っています。

では岡本先生に渡しますね。

岡本:未来大の岡本と申します。

私も須永先生と同じくデザイン畑で、2000年に未来大学に着任しました。

そこで新しい研究をしたいなと思っていた時に伊藤先生と出会って、視覚障害者が空間を触れるような道具を一緒に作り始めました。

その中で参加型デザインという言葉に出会って、いろんな人が参加する、視力障害者の人も一緒にデザインできたらいいよねと。

そこで積み木で表現するようなシステムを作って、盲学校の子供たちと一緒にやったら僕らの想像を超えるいろんな表現が出てきて。

障害があるなしとか、男女もそうでしょうし、乗り越えることに関して表現は大事だと思います。

司会伊藤:それと自分の経験もそうですが、乗り越えた一つ、それは好奇心だったんです。

好奇心を原動力に、超音波センサーで物までの距離を測って、その距離に応じてレバー動くとかひもを引っ張るという道具を作り、FBフィンバーと名付けて展示会へ持っていったときに、男の方が「これでアイドルにも触れることできますよね?」と言われて。

つまり我々やろうとしていたのは触れなくても触った感じになるものを何か作れるといいねということだったんです。

そこで指で見るようなものにしようと作り始めました。

特殊教育学会は、感覚代行シンポジウムに行くと使う側と作る側に別れてしまい、使われないものばかり世の中に出てきてしまう。

この連携は、大学が視力センターのために何かするとかそういうつもりはないし、センターもそういう気はないと思う。

決まりきった関係ではない何かから始まるのは大事かなと思っています。

司会伊藤

今までおっさんが話してましたから、そろそろ舘田さんの声をお聞きになりたいのではないかと思いますので、お話いただいてこの座談会を終わろうと思います。

小野:はい(会場:笑)

舘田:今日はありがとうございました。

2年前小野先生に素直な気持ちでやりたい事を色々お願いしてしまいました。

そして伊藤先生を紹介していただき、いろんな先生方とお会いしまして今日の日を迎えております。

先生がセンターにいらしたときに「たくさんお宝があるじゃない。これ子供達に伝えないとダメだよ」そのお話を聞いた時に、ちょっと目線を変えればすばらしいものがいっぱいセンターに眠っていると思いました。

あの日のことを今も忘れられなくて、新しいことが始まるときには、先生からのお言葉をいつも振り返っています。

私の一番やりたい研究は伊藤先生が本にしてくださることになりました。

司会伊藤:ええっ⁉

舘田:伊藤先生、1冊に書かれたんですが、第2弾は私が視力センターにお世話になって色々な事を学んで、自分もあと何年務めているかなって計算したときに、恩返しをしたいと思っている研究なんです。

それを伊藤先生がやって下さいます。
素晴らしい出会いに、改めてお礼申し上げます。

小野:本ができるの楽しみにしています。

司会伊藤:そういう逆襲が来るとは!
舘田さんにむちゃぶりしたら、むちゃぶり返されました。(会場:笑)

ご参加いただいた皆さん、まことにありがとうございました。