【ACⅥ小噺】エアの初めての調理の話【二次創作】

偶にフロム脳が活性化する紅月シオンです
今回は最近小説を書けてないのでそのリハビリも兼ねてACⅥの二次創作を書きたいと思います
前作はこちら↓

今回はタイトルにもある通り前回身体を得たエアちゃんがご飯を作るお話となります
思うんですがあの星で食料とかどうやって調達してるんでしょうね
現地の人たちはルビコニアン普通ワームを食べてることは判明しましたけどそうでないウォルターや621,カーラ達は何を食べてるのか気になります
ではここからスタート、前後編になります

「621,食事だ」
ウォルターは素っ気なく手に持ったエネルギーバーを彼の前に差し出す。
「ありがと、ウォルター」
「それを食ってしっかり休め、明日も仕事があるのだからな」
それは621とウォルターにとっては何の疑問もない時間。
それが当たり前でそれが普通の関係で、それが当然であった。
しかしそれに納得できない人物も一人いた。
「・・・・・・ウォルター、レイブンはいつもあれだけを食べているのですか?」
「あぁ、必要な栄養素は補える」
その物言いにエアは眉間の皴を深くする。
「栄養さえ補えていればそれでいいのですか?」
「なにが言いたい、エア」
「ALLMINDの情報記録媒体で知りました、食事とは心が安らぐ大事な時間だと」
表向きはALLMINDが支援する傭兵のための身の回りのサポート。
その一環として送られたように振舞うがここ数日エアが見たレイブンの生活は悲惨な物であった。
食事は先ほどのエネルギーバーを日に数本、部屋はベッドしかない質素さ。
危険な傭兵稼業に従事しているにしては日々の楽しみが無さすぎた。
そしてその光景はウォルターがレイブンを都合よく利用しているとエアに思わせるには十分だった。
「私が作ります、レイブンに心が安らぐ食事を」
「やめておけ、それをしたところで自分の無力さを味わうだけだ」
そう言い残してウォルターは部屋を去る。
その様子をずっと見ていたレイブンは一息ついたタイミングでエアに語り掛けた。
「エア、ウォルターとケンカ?」
「いえ、違いますレイブン。それより明日の食事は私が用意しますね」
その声色からレイブンが気を使ってくれているのをエアは理解していた。
そしてそうだからこそただ一人交信を受け取ってもらった人間としてエアはレイブンを特別視しているのだ。

ウォルター達が居を構えるその一部屋でエアは腕を組んで唸っていた。
「必要な物は一通りそろえることが出来ました、後は調理法を」
端末に触れ微かな吐息と共にエアは意識を集中する。
元よりコーラル波形であり、情報のハッキングや改竄を得意とするエアにとってこの程度の集積行為は容易いものであった。
「包丁の持ち方、火にかける方法、食材の管理、いえ違う」
それでも人類が残したレシピという広大なデータベースはエアにとっては未知数の領域であり、そこから目的のものを探すのは一苦労するものであった。
「ありました、傭兵向けの調理方法。これを元にすれば」
ようやく目的のものを発見しエアはそれを端末上に広げる。
かつて汚染される地球より前に好まれていた料理
それをメインにあと二品、それがバランスのいい食事なのだとかつて傭兵を支援するオペレーターだった女性は語っていた。
「まずは皮むきですか、包丁の刃を当てて……」
ALLMIND経由で入手した食材に包丁の刃を宛がうが力加減を間違えたのか当然のように刃から先が跳ねた。
「……力の加減に失敗、次はもう少し抑えめに」
しかし料理には様々な苦難がつきものだ、エアはそれを身をもって知ることになる。
「油を少々、少々とはどのくらいの量なのでしょうか?」
もちろん適正な量はレシピには書かれていないしこういう場合は好みの量でという意味でもあるのだがエアは首をかしげるばかり。
「弱火でじっくり焼くよりは強火で焼いた方が効率的なのでは?」
幾つかのレシピを散見しそこから適量を計算しても更なる問題がある。
誰もが考えがちだがそれこそ思考の落とし穴、それでは表面にしか火が通らないのだ。
「……まだ硬いですね、もう少し火にかける時間を増やしてみて……」
だが立ちはだかる様々な問題を前にしてもエアは挫けず包丁を手に持つ。
全てはレイブンに人間らしい生活を少しでも送ってほしいというささやかな心配りからこそだった。

そして、それを見やる影が部屋の外に一つあった。
(使われていない部屋から音がすると思えばこうしていたとはな)
そこにいたのはウォルターだった。
(送られてきたのはいずれも食材で毒物はない、それならやらせておくか)
621に危害が及ぶのなら杖に偽装したライフルで打ち抜くこともウォルターは考えてはいた。
しかしエアの真剣な表情を見て少なくとも危害を加えるつもりはないこととそれだけ621に対する情は強いのだろうと判断しウォルターは身を引く。
(好きにすればいいエア。だが621の事情は少しばかり深刻だぞ)
深い皴の刻まれた顔を歪めながらウォルターはその場を後にした。
今夜の後で621とエアがどうなってしまうのか予測できる以上、ウォルターが手を回さないわけにはいかなかった。

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