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起点になる本▶ナガオ

いよいよ四月、新生活ですって。新しい環境での学びや暮らしが始まる方も多くいらっしゃるのでしょう。わからないこと盛りだくさん、不安と期待と入り交じる頃ですね。

これが読書の話でも、新しいジャンルに手を出そうとすると「どんな作品が良いんだろう」「自分に合う作家が見つかるかな」と戸惑ったりしませんか?

どこにでも飛び出せて何でも楽しがれる、ある意味では無敵の時期。しかしそうはいっても何らかのガイドが欲しくなるのが人情。「先達はあらまほしきことなり」と七百年前に兼好法師も言っていることですし。

というわけで、今日は三冊の「スターターキット本」をご紹介します。

『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』瀬戸夏子

短歌が流行ってるぞと聞き及び、いっちょ書店や図書館で探して見ようと思っても、まず何を読んだらいいか迷うと思うんです。人ごとみたいに言ってますが私がそうでした(今もそう)。

それでこの本を頼ったわけですが、いまをときめく歌人50人以上が代表作とともに取り上げられていて、歌のみならず作家その人の背景まで細やかに解説されています。うれしい。

2000年〜2020年の歌集を対象にしているのも、いまの短歌を知るのにとても良いところ。ちなみに「スターターキット」というのはこの本のまえがきで使われている表現で、まさにまさに。

一冊読めば、きっと好きな歌や歌人が見つかる、少なくとも「何で自分はそれが好きなんだろう?」のヒントがつかめるはず。

『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』佐藤文香

あちらが短歌ならこちらは俳句、ともに左右社から刊行されています。

ここ最近俳句にも興味を持ち始めたのですが…単刀直入に、短歌よりわからないじゃないですか。文字数とか季語の制約とか。

その点、この本のまえがきが冴え渡っていて、"しかし俳句は、「文学が好き」という人がそのまま読んで面白いと感じられるとは限りません。"と言ってくれる。救い…!

こちらも取り上げられた作家は50人超で、ユニークなのはそれが「おもしろい」「かっこいい」「かわいい」の3カテゴリで紹介されているところ。そんなふうに括っていいんだ、俳句!というのがまず驚きでした。

それぞれの枠の何人かを、著者と別の俳句作家で「読み解き実況」しているのも良いところで。ああこういう風にわいわいと「読んで」OKなんだと、そこも個人的にぐっときたところです。

『百代の過客 日記にみる日本人』ドナルド・キーン

さあ今度は日記、しかも対象は平安から江戸!レーベルは講談社学術文庫!と盛り上がって本題に入る前にちょっと前置きを。

私の最近好きな作家がエッセイストの古賀及子さんで、ウェブで書かれていた日記を集めた『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』『おくれ毛で風を切れ』を何度も読み返しています。

日々のできごとを絶妙な距離感で愉快がっていく文章を楽しむうち、日記というジャンル自体にも興味が湧いて手に取ったのがこの『百代の過客』でした。

日記を日本的私小説の祖として捉え研究した著者が、80もの作品について読みどころを考察した632ページの大部です。平安の女房文学からは想い人への愛しさ、通ってこないことへの嘆きや狂おしさが立ち香り、時代が鎌倉に移ると戦による別れの悲しみが見えてくる。

おお、人が生きているな!と思ったのですね。千年前の日記にいかほどの証拠能力があるかわかりませんが、思いを書き残そうとした人の意志が日記にはあるなと。人の思いや営みは年数が経ってもそう変わらないことであるなと。

取り上げられた各作品に手を出すのは大変かもしれませんが、日記文学について考えるきっかけになる一冊です、きっと。

というわけで、新しいジャンルに踏み出す三冊のご紹介でした。この手の本を起点に自分の好みが見つかっていくと、きっと今度はそれを誰かに話したくなりますね?そうですね?(ちらちら)

そう、そんなときは読書会へ。あなたが選んだ一冊のお話、お待ちしておりますよ。

横浜読書会KURIBOOKS - 知的好奇心を解き放とう~参加者募集中~

【投稿者】ナガオ


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