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非電化複線のロマン 関東鉄道 常総線

関東鉄道の常総線はJR常磐線の取手駅とJR水戸線と真岡鐡道の乗り入れる下館駅を結ぶ51.1kmの路線、両端の2駅を入れて25駅の路線。関東平野の真ん中を鬼怒川に沿って南北に線路が伸びる。名前の常総は常陸国と下総国を表しているけどれども、主には茨城県南部で使われている地域名で、その名の通り茨城県の南西部の取手市、守谷市、常総市(旧水海道市)、下妻市、筑西市(旧下館市)を結ぶ。途中の守谷駅ではつくばエクスプレスと接続できる。東京圏では珍しい全線非電化で、さらに本数が多い水海道駅以南の3分の1くらいの区間は複線という日本全国でもかなり珍しい路線でもある。

取手駅。
JR取手駅の西側に独立した駅がある。
線路の先に見えるのがつくばエクスプレスの守谷駅。常総線は地上、つくばエクスプレスは高架でクロスする。周囲にはマンションが急増。
水海道駅。ここまでが複線区間で、本数も倍増。水海道駅から下館駅の区間はローカル線っぽくなるけど1時間に2本は確保されている。
レトロ駅名標。水海道市を中心に吸収合併して常総市に、今でも常総市の中心駅。
下妻駅。下妻市の中心駅。
終点の下館駅。JR水戸線で小山、水戸各方面、真岡鐡道は真岡、茂木方面と地味に交通の要衝。
下館駅南口。
下館駅からも快速を使えば秋葉原まで75分。だけど快速は1日4本しかないし、普通だと110分くらい。JR水戸線で小山駅乗り換えでも同じくらい。往復切符だと秋葉原往復が3090円、JRだと往復3400円なので使えるかも。ただ秋葉原から他の駅に行くとなると追加で乗り換えも必要だし、切符も別でいるのでそこまでメリットは無い。快速なら断然常総線経由が早いのは間違いない。

関東鉄道は常総線の他、竜ケ崎線の2路線が存続しているが、最盛期は茨城県を中心に常総線の大田郷駅から分岐する鬼怒川線のほか、JR常磐線(国鉄)の土浦駅と水戸線の岩瀬駅を結ぶ筑波鉄道 筑波線、同じく常磐線の石岡駅から分岐して鉾田駅まで至る鹿島参宮鉄道 鉾田線があり、戦後に統合されて関東鉄道となり、採算性の低い3路線が廃線となって東京に近い2路線が存続している状況。ちなみに関東鉄道の竜ヶ崎線の方が歴史は古く、出自が違うので同じ会社ながら直接つながっていない。竜ヶ崎線の様子はこちら。

常総線の元となった路線は常総鉄道株式会社によって1913年に開業。この辺りは江戸時代から鬼怒川舟運の中継地が点在していて、物流は船から鉄道に置き換えることが目的とされた。高度経済成長期以降、特に常総線の取手よりの守谷駅などは東京のベッドタウンで沿線人口は増加、2005年につくばエクスプレスが開業し守谷駅が大変貌を遂げ、今に至っている。水海道駅以南においては守谷駅や取手駅で乗り換えれば都心へは1時間程度で到着できることから、朝ラッシュには1時間に8~9本と非電化路線とは思えない高密度運転で関東圏の端で通勤通学需要を支えている。本数は少ないけれども快速もあり、つくばエクスプレスに最速で接続させることを狙った花形で、停車駅は下館、下妻、石下、水海道、守谷、守谷から取手の間は各駅。(旧)自治体中心駅しか止まらないお手本のような気持ちよさ。

取手駅の時刻表。でも常総線の真のターミナルは守谷駅。つくばエキスプレス開業で最短距離で都心に行ける守谷駅がターミナルの役割になった。
下妻駅は数少ない有人駅。それでも全線交通系ICカード対応、
平日の12時台の守谷駅前後はこんな感じの混雑で、学生老人がマイノリティ。これはローカル線ではありえないです。

関東鉄道は現在は京成電鉄が株式の60%超を保有している。売上は2023年3月期で約140億円で営業利益黒字と堅実な会社に思える(決算資料公開されてないので詳しいことはわからないけど)。鉄道事業の他、バス、タクシー、不動産、旅行業など。鉄道事業の売上は約22億円程度に対して、バスは72億円と主力事業。筑波線や鉾田線が走っていた鉄道転換路線、茨城県南部の路線バスは勿論、つくばエクスプレス開業前はつくばと東京駅を結ぶ高速バスが超過密路線で、今では関東鉄道(京成バス、JRバス共同)の東京駅と鹿島工業地帯を結ぶ高速バスが東京駅発着で最多の運行本数を誇る路線、茨城空港路線、また坂東市や境町といった茨城県南西部の鉄道空白地帯を結ぶ高速バスなど。

水海道駅から北は単線で、ローカル線っぽく。
水海道駅と小絹駅の間には車両基地がある。
石下地区の交流センター。バブル期のあれで天守閣風の建築になったけど、本当の戦国時代には豊田氏の拠点が置かれていた町ではあるけど、場所も違うし天守閣がある規模でもなかったとのこと。
筑波山がよく見える。筑波山は高さの割に関東平野にせり出して遮るものがないのでとても景色がいいです。
駅前の大型商業ビルのサティとして開業も、車社会で駅前空洞化によりテナントが入っては出てを繰り返したため、市役所が移転してきた。商工会議所なども入っているよう。あまりにも悲壮感が漂う外観。大型商業ビルが立ち行かなくなり、自治体が役所を入れるパターンはそれなりに栄えていた時代がある中都市によくみられる。関東だと同じ茨城の土浦市や、木更津市、栃木市など。青森市も一部がそうなってるし。

常総線が有名なポイントとしては、世にも珍しい非電化複線路線というところ。そもそも鉄道が電化するのは、ディーゼル車より電車の方が加減速がスムーズだし、エネルギーコストも下がるため。でも電気を引く設備に大きなコストがかかるので本数を多くしないと元が取れなくなる。じゃあなぜ複線化するかというと、すれ違いというボトルネックを解消し本数を増やすためだし、逆に言えばそもそも線路の長さが倍になるので土地代も整備費用も税金も倍かかるから本数を増やさないなら複線にする必要はない。だから本数が少なくコストも削減したいローカル線は大抵非電化単線になるし、本数を増やしただけ需要が見込める都会の路線は複線で電車を走らせる。

非電化複線のロマン。
1両だけど3ドアというアンバランス差も。
この見た目で3ドア、オールロングシートの輸送力特化。

となると非電化で複線の常総線は道理に反した状態。どうしてそんなことになっているかというと、茨城県石岡市にある気象庁地磁気観測所のため。この観測所では地球の磁場を定点観測して解析し、人間の活動への影響などを研究している国際的に承認されている機関。一方で電車が使用する電流は電線やレールを通じてかなり広範囲に磁場を拡散するため、それが観測ノイズとなってしまうことが分かっていて、この観測所から半径50kmを基準に電車の場合は影響が少ない「交流電化」というルールが課されている。

一般的に電化する場合、交流対応車両は高額になるのに対して、電力会社から供給される交流電源を直流に変換する変電所が必要だけど線路設備は簡素で車両も安い直流の方が、車両をたくさんそろえる=本数増やすコストがかからないので、三大都市圏はJRも私鉄も直流が主流。観測所の範囲内だとJR常磐線は取手駅以北を、つくばエクスプレスは守谷以北を「交流」に分けて、都心方面は「直流」でコストを下げる対応している。あとは鹿島臨海鉄道と常総線はというと、交流電化するほどコストかけられないし、本数も少ないからディーゼルで良い、けど常総線は東京への通勤需要も多いのでさすがに単線じゃ本数足りないということで、非電化複線という妥協からロマンが生み出された。それも部外者だから言えることでディーゼルは遅いしうるさいし臭いもでるのでね。

気象庁地磁気観測所のWEBサイトの説明
https://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/qanda.html#18

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