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君の物語 3 飼い主

ルゥを家に迎えた数日後のこと。
ムギと二人で、子猫をもらい受けた事務所を所用で訪れた。
そのとき、事務局長さんからルゥが保護されていた間の出来事を改めて聞いた。
子猫の命を救うため、みんなで入院・手術費をカンパし合ったことを。

するとムギは、小さなポシェットから小さなお財布を取り出して、テーブルに小銭をぶちまけた。
300円もなかった。小学生だったムギにとって、これがその時の全財産だったろう。

事務局長さんは慌てて「いいの、いいの。治療費は足りたから。」と拒んだが、ムギは引かなかった。
「うちの猫がお世話になりました。」
きっぱり言い、硬貨を両手で押し出す。

数回の押し問答の末、「誰も引き取れなかった猫ちゃんの家族になってくれたんだから。お金以上のことをしてくれたんだよ。」との言葉に、ようやく財布に硬貨を戻した。
申し訳なさそうに、または自分の不甲斐なさをかみしめるように唇を引き締める姿を目にして、〈飼い主はムギだ〉と確信した。

もちろん私も責任を持って子猫を迎え、お世話していくつもりでいた。
いたけど、ムギの覚悟はもっと強く深いものだった。

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