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夕焼けドライブ

小学生の頃の日常。

両親が仕事から帰ってきた。
と思ったら
「アイル!ベニコ!おいで。すぐに!」
父が私たち兄妹を呼ぶ。
「車に乗って!出発するよ。」

急かされて、サンダルをつっかけ手ぶらで乗り込む。

「今日の夕焼け綺麗なんだ。
見に行こう!」


父はいつもこうだ。
突然、夜景を見に山へ連れ出されることもあるし、夏は夜間も営業しているプールへ行くこともある。雨の日は家の中で相撲や卓球をしたり、ゲームに興じたり。
父にとって仕事が終わった帰宅時間は、子どもたちと遊ぶ時間の始まりなのだ。
私にとっては父との時間はオアシスだった。

そして私たち兄妹は知っていた。
父が夜遅くまで持ち帰った仕事をしていることを。それでも子どもと遊ぶ時間は決して削らない。

本日は夕焼け。
行き先は?
夜景を見る時とは反対方向へ曲がる。両脇にりんご畑が広がるアップルロードだ。
夕焼けはオレンジと赤とピンクが混ざった色。
それがだんだん濃くなっていく。

坂を登って視界が開けた。
りんご畑の向こうにどっしりと巨大な岩木山。
この世の終わりのような色をした空の中に黒々とそびえる山。その存在感は圧倒的だった。

広くなっている路肩に車を停め、エンジンを切る。

静けさの中、3人は一言も発っすることなく岩木山と背景の灼け焦げていく空を凝視する。


じっと。


じっと。


・・・じっと。





やがて辺りが真っ暗になった。

「よし、帰ろうか。」
車のエンジンをかける音が響いて、現実に引き戻される。
車内にビートルズの曲が流れ出す。
「あ、ちょっと待って、これかけて!」
兄がカセットテープを入れ替える。
ローリング・ストーンズだ。
「いいねえ。」と父。

さあ、今度は家までドライブだ。



※ヘッダーの画像は岩木山ですが、アップルロードではありません。
ちょうど良い画像が見つかりませんでした💦



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