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『無言の宇宙』とは何を意味するのか 【櫻坂46】3rdシングルの発売に寄せて

櫻坂さくらざか46の3rdシングル『流れ弾』のカップリング曲として、「無言の宇宙」の音源が解禁された。
欅坂けやきざか46以来、平手さんがいる間には実現しなかった渡邉理佐さん(櫻坂46一期生)の初センター曲としても、注目を集めている。

ラジオから流れてきた音源を初めて聞いた時、心にスーッと入ってくる感じが、とても心地よかった。理佐さんのパーソナリティにぴったりな歌詞だなぁ・・・などと思いながら、何度も繰り返し聞いているうちに、歌詞が表現しようとしている世界が、とても禅的であることに気がついた。

愛を少しでも語り始めてしまったら
愛してるその真剣な気持ちは
心から漏れてゆくものだ
知らぬうち熱が逃げちゃうように
もうお互いに感じなくなる

客観的になってものを見るからだろう
大切なものがなぜ大切なのか
考えたって何になる?
僕は (僕は) 君を (君を)
理由なく好きだ

釈迦が悟りを開いた瞬間。それは、言葉や文字に表現することができないものであり、実際に同じように修行をすることでしか、知ることができない「難解難入なんげなんにゅうの法」と言われている。
最初、釈迦は、自分が得た境地が、人々に説明できないものとして、説法をすることを拒んでいたのだが、目の前に現れた梵天ブラフマンに何度も説得されて、法を説くことを決心する。(初転法輪)
それが、現在も残る世界的宗教=仏教なのだが、釈迦が会得した悟りの境地を理解する方法としては、釈迦が説いた法を弟子たちが聞いた結果を集めた「お経」を研究し唱える方法と、釈迦が悟りを開いた時と同じように修業する方法の二つがある。
多くの時代を経て、釈迦と同様に修業をすることで、何人もの覚者(=悟りを開いた人)が出てきたのだが、その中でも、達磨大師だるまたいしが壁の前で座禅をして悟りを開いた話は有名である。
達磨大師は、自らが悟りを開いた瞬間を「不立文字ふりゅうもんじ」という言葉で表している。
「悟りの瞬間は、実際に身体を動かして、全身全霊で直接体験することでしか理解することができない、文字にできない世界である」ということを、「不立文字」という一言で表現しているのである。

少し考え過ぎという面も否めないのだが、今回の「無言の宇宙」が歌っている世界も、「文字などで表せない、思慮分別ふんべつを超えた世界を直接体感しなさい」と語っているように感じられた。
これは、宇宙を直覚する「悟りの境地」に近い感覚と言えるかもしれない。

歌詞が描いている世界は、「人と人とのつながり」をテーマにしている。
そのため、タイトルにある「宇宙」というワードがピンとこない。
しかし、「壮大なる宇宙」そのものとも言える「普遍的な真理と一体となる境地」を表現していると考えると、このタイトルが妙に説得力を持ってくるように思える。

欅坂46の冠番組であった『欅って、書けない?』の放送が始まった初期は、メンバーを1人ずつ紹介をする場面から始まっている。
そこでは、本人たちが書いたアンケートと自撮り動画を紹介しながら、MCがコメントをしていくという形をとっていた。
番組内で、理佐さんが最後に紹介された時、MCのお二人が、アンケートの回答が梨加さんと似ていることを話題にあげている。
名前だけを見ても、「りか」と「りさ」という一文字違い。
茨城県出身も同じで、身長や血液型、好きな食べ物など、共通する部分が多い。
その中で、好きな四字熟語として「以心伝心」をあげていたことも、お二人の共通点として紹介されているのだが、今回の「無言の宇宙」は、まさに「以心伝心」の境地を表しているとも言えるだろう。
先ほどの少し大げさな解釈は、ひとまず置いておくとしても、この楽曲が、理佐さんのセンター曲として与えられた理由に、この「以心伝心」というテーマがあると考えると納得できるような気がしてくる。

秋元さんは、欅坂46時代から、彼女たちに女性アイドルらしからぬ言葉や世界観を与えて歌わせてきた。
詩的な表現の中に、「言語化」や「アンビバレント」、「サイレントマジョリティー」という概念的な言葉を配置することで、聞き手の違和感を生みだし、聞いた人の心に引っかかる要素を作っているのだろう。

それでも、歌詞が生まれるきっかけは、彼女たちの存在そのものである。実際のところは不明だが、歌い手である彼女たちの存在という刺激がなくては、プロの作詞家である秋元さんといえども、歌詞を生み出すことができないのかもしれない。

デビュー当時から、歌詞を大切にし、「歌の世界観を伝える」ことに注力してきたこともあり、彼女たちが歌う楽曲は、歌詞がストレートに心に届いてくる。今回の曲も、何の雑味もなく、こちらの心に伝わってくる。

解禁された3rdシングルの曲は、今までの楽曲と比較すると、歌詞が一度では聞き取りにくいものが多い。
そんな中にあって、「無言の宇宙」は、歌詞がはっきりと聞き取れるので、内容自体は非常にわかりやすい。
しかし、その聞きやすさとは裏腹に、描こうとしている世界は、実際に体験してみないと分からない、かなり難解なものであるように感じられる。

ファンの間ではよく知られていることだが、曲が解禁された時、少し微妙と感じる場合であっても、MVが解禁されると、その印象がガラッと良い方向に変わることが多い。
歌番組で世界観が確立し、ライブで爆発スパークするというのが、欅坂46時代からの伝統である。
これからのTV出演やライブで、「無言の宇宙」のパフォーマンスを目の当たりにできることが、今から非常に楽しみである。


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