『グッバイ、ドン・グリーズ!』感想

16歳、真夏の大冒険。

この映画を一言で表すならそんな感じである。

16歳という年齢は、人生において特に難しい時期のように思う。

子どもと言うには歳をとり、大人と言うには若すぎる。大学とか就職とか、その先の人生とか、未来が少しずつ近づいてくるけど、その先は相変わらずボヤけたままで、確証を持って進めず足踏みしてしまう。そんな、どこか不安定な時期だ。

主人公のロウマ、トト、ドロップは、ひょんなことから思いもしない大冒険に出ることになる。3人にはそれぞれ悩みや不安を抱えていて、冒険を通して思いを吐露し、打ち解けあっていく。

もともと『宇宙よりも遠い場所(よりもい)』が人生ベスト10に入るくらい大好きなアニメで、そのスタッフが再集結すると聞いたら見ないわけにはいかなかった。ただし、よりもいで脚本を務めていた花田十輝さんは起用されておらず、監督のいしづかあつこさんが脚本を兼任している。花田さんの良くも悪くもクセの強い脚本にいしづか監督の「味」が加わったことで魅力がぐっと増していたよりもいだが、今作は100%のいしづかさんを味わえる。実際、要所要所のシーンでいしづか監督の風味を感じる場面は多かった。序盤にある女装のシーンなんかはまさにそれである。

よりもいとの対比を感じる部分も多い。よりもいでは女子高生が主役だったのに対して、今作は男子高生がメイン。よりもいは都会、今作は田舎が舞台。よりもいでは南(南極)、今作では北(アイスランド)が重要な場所、などなど。よりもいが好きな人は、そういった視点からも楽しめる。

さて、作品としてはまさしく期待していた通りのもので、冒険が難しくなった現代を舞台に上手く「大冒険」を実現させている。笑えるシーンやドキドキするシーンが続き、最後はしっかり泣かせてくれる。まさしく青春冒険譚に求めていたものを、おなかいっぱい味わえた。

よりもいもそうだったが、声優陣のハマりもバッチリ。特にトトの演技が好き。秀才だけど、自分の進んでいる道を信じきれない彼の心境を、梶さんが繊細に演じていた。

個人的に意外に思ったのが、ドロップが自分の秘密を最後まで明言しなかったことだ。でも後から考えると、これがむしろ大正解だということに気づく。ドロップの言葉に耳を傾けていれば、観客はドロップの秘密に自然と気づく。それはロウマとトトも同じで、無理に聞き出そうとはしないけど、なんとなく察している。そう、「もしかして……」という胸のざわつきが、観客とロウマたちの間で見事にシンクロするのである。いやあ素晴らしい。

最後の方で明かされる真実に関しては、おそらく突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めるのだろう。でも個人的には十分感動したので、突っ込むつもりはない。花田さんがいない分、脚本の完成度に関してはよりもいの方が高いのだが、そういう良し悪しをひっくるめて「味がある」といい方向に感じてしまうのだからニクいよなあ。


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