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13か月

2009/11/27
(この記事は2009年のものです)

金曜日は母の病棟の入浴日。
きょうはいつもより、順番が回ってくるのが遅い。

母はとにかく自分を優先してほしい我儘な人なので、「まだ来ない」と思うことが何より嫌い。

私が病室へ着くなり、「もう、今日は入らないでいいって言おうか?」と言う。なんて短気なんだろう。
「臭くなるから入ろうよ」と、私は入浴を勧める。


一昨日の法事の写真を母に見せる。集合写真の中の叔父の姿を見て、「これは、誰?」と母が訊く。目に映っているものと脳が捉えるものにズレがあるようだ。

四川料理の前菜の綺麗な写真を見て母が、「美味しかった?」と訊くので、「まあまあね」と応えると、「まあまあなの…?」と言ったきり、表情が固まる。

このごろ母は、唐突に表情が固まることが増えた。会話の中で何かショックを受けたとかじゃなくって、おそらく何の脈絡もなく突然に、固まってしまう。瞬きもせず、いくらか口を半開きにして、目は完全にいっちゃってる。

きっとこれから少しずつ、こういう時間が増えていくんだろう。そしていつかは母も、口を大きく開けたまま、言葉を発することもできなくなり、私等の問いかけに、調子が良ければ瞬きで応え、もっと調子が良ければ頷き、だんだんと黒ずんだ枯れ枝みたいになって横たわり続けるんだろう。

母が今の病院に入院してから、13か月が過ぎた。
生かされているようにしか見えない向かいのベッドのお二人も、一年前と何ら変わりなく、ベッドで横たわっている。なかなか逝かないし、なかなか逝けないものだと想う。

それが幸せなのか不幸なのかは、一年経ってもまだ私にはわからない。
それに、正解なんて、きっとない。

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