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バラと飛行船 回想色々

演劇企画ニガヨモギさんの「バラと飛行船」を鑑賞。

「星の王子様」のオマージュ作品とのことで、慌てて岩波少年文庫を引っ張りだす(昭和42年発行)。前日までの一か月、小説講座の課題、投句、公募の小説とずっと書き続けていて、脱力感が凄い。読みながら、劇場へ。三河島の元映画館、という名の小屋は、本当に元映画館で、観劇を決めたのはこの場所に惹かれた要素も強い。三河島は最近、カレー文脈で語られることが多く、まず「三河島」で調べたら、電車の大事故のことが出ていて、真剣に読むうち、昔の人気漫才師三球照代さんの、三球さんの元相方さんがその事故で亡くなっていたのを知り、当時、地下鉄や鉄道ネタで人気を博していたので、衝撃だった。(その後照代さんも病気で急死されている)

三河島でカレーと思ったが、色々思い出がある(演劇少女だった中二の頃お手伝いしていた劇団の稽古場が日暮里だったりした)ので、足は日暮里方面へ。数年前、初めて足を踏み入れた西日暮里のアジア食材店ミテリさんが、その後レストランを始めたことを思い出し、ミテリさんでマトンのダルバート。ダルの塩気がちょうど良く、おいしい。中が広く、お店の方の優しくて、また行きたい。追加のオーダーで、この後の街歩き用に、マイボトルにアイスチャイを淹れてもらう。

京成電鉄と常磐線が重なる踏切が好きすぎて、日暮里駅までの写真を撮りまくる。東京DEEP案内の写真ぽい、と喜んでいたら、意外と時間と食ってしまい、慌ててタクシーで三河島駅まで行く。500円くらい。三河島、ごく普通の街並みだけど、噂通り、多国籍な料理屋さんが並んでいる。スナックなどの居抜きも多そう。私が参加している人「異国料理を愉しむ会」(結成二年目、正会員三人)の下見も兼ね、写真を撮りまくり、ようやく駅から歩いて数分の元映画館(かつての名前は日暮里金美館)へ。もっとアンダーグラウンドな場所かと思ったら、普通に営業しているスーパーの二階で、これまた面白い。三歳くらいの時、祖母に連れられてリバイバルの黄金バットを観に行き、その日は本当の黄金バットが出てきて、あまりの怖さにおばあちゃんもう帰ろう、と後ろを振り返りながら帰った早稲田か神楽坂の映画館も、きっとこんなところだったのだろう。

元映画館のサイトに貼られていた、大映画チェーンだった金美館さん(その後のチネチッタに繋がる。ネトフリでドラマ化して欲しいレベル)の歴史も素晴らしい。

中に入ると、目の前がスクリーンで、本当に映画館なんだな、と思う。「街はずれの美術館」が今回のテーマとのことで、お芝居はもちろん、登場人物をイメージしたドリンク、コラボフード、絵の展示、美しい装丁の台本やアロマ(お誘いくださったアロマ書房さんのもの)、砂を敷き詰めた舞台、抑えた色彩の素晴らしい衣装やセットまで、五感を全開にして受け止めるべき贅沢な空間で、生の舞台を観る興奮がほとばしり、写真OKなので、ここでも撮りまくる。ドリンクカウンターのあるのは、元映写室だそうで、いくつかある二階席と共に、必見のエリア。リノベした建物にありがちな、やりすぎ感や綺麗すぎる感じもなく、ほどほどに気安い、誰でも入りやすい作りになっているのが凄い。個人的には二階へ上がるちょっとホラーな階段と、バーカウンターの横に嵌っている建具?がおしゃれで好きだった。

開場前に一時間、終演後(意外と上演時間が長く、そそくさと帰ったけど)にも時間を取ってくださっているので、まさに美術鑑賞。

さて、開演。

砂を敷き詰めた舞台。砂丘でもあり、砂時計に代表されるように砂は時間を現してもいる。役者さんたちが舞台上で衣装を身に着ける。見ているほうが実は見られてるのかも、観客も観客という役を演じているのかもしれない、というようなセリフが寺山修司の「観客席」にあったかな。1981年の舞台のなのであまり覚えていないけど。

衣装のすばらしさと華やかさ(派手ではない)は、オンシアター自由劇場のティンゲルタンゲルのよう。そういえば、王女役のきずきさんの物憂い声は、少し吉田日出子さんに似ている。

船長さんたちは、砂の上に布を敷き、集まってあれこれしているが、いちいち儀式めいていて、なにやら嘘くさくて「ミッドサマー」のようで怖い。現実にもある、声の大きな人に引きずられていく感じ。対象的に操縦士さんと王女様の会話は、どこか不思議に浮遊しているみたい。物語の進みも早くなく、セリフもゆっくりしているので、観ながら、色々な記憶が蘇ってしまうタイプの舞台。観終わった後も、色々な思いが止まらず、芝居を観た、というより、何かとても大切な体験をした、という気持ちでいっぱいです。

追記

公演が終わったので書きます。ラストのほうで、「実は箱の中に何もない」というエピソードがあるのですが、直前まで書いていた短編小説が、「亡くなった老女が残したたくさんの箱の中身が空だった」という話だったので、驚きのシンクロでした。






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