国民民主党 第3回憲法調査会「憲法改正の作法とは」2

井上武史先生の講義、後半部分の文字起こしです。

■井上武史先生講義

・Ⅱ 近時の改憲論議

それでは二つ目のパートに行きます。
近時の改憲論議ということで、山尾先生冒頭にですね、フランスは与党も野党も、どちらも憲法の改正を議論するというふうにおっしゃいましたけども、まさにその様子をお伝えをしたいとお思います。
先ほどの2008年の憲法改正は、これは右派サルコジ政権での改正でした。
その後2012年からのオランド政権ですね、これは社会党ですので左派政権なわけですけども、オランド大統領の時代もですね、憲法論議は非常に活発に行われたということになります。オランド政権もですね、大統領も選挙公約として憲法改正を掲げておりまして、当選後こちらもすぐにですね、委員会というのを立ち上げております。
それが「政治過程の刷新と倫理に関する委員会」ということで、これは今度はですね、左派の重鎮元首相のジョスパンをですね、委員長にしまして検討を行わせるということになっていました。
目的は「民主制の機能を回復し政治倫理を確立する制度の構築」ということで、報告書ですね「民主制の再生のために」というものでですね、これも35の改憲を提案をしております。提案内容は多岐にわたるわけですけども、大臣と市長との兼職の禁止とかですね、元大統領の憲法院判事就任の廃止とか、憲法改正を必要とすることが書かれております。
報告書を受けまして政府は憲法改正法案をですね提案しましたけれども、結局このいずれも任期中に実現することはなかったというのが結果ということになります。
更ににですね、オランド政権のときは国会でも統治機構改革の議論は行われております。2014年の「統治機構の将来に関するワーキンググループ」というものが、これ議会下院の内部で行われまして、下院議長がですね私的に懇談、検討会をしたというものです。私的なんですけども議会のホームページにいろいろの提案がなされたりインターネットによるアンケートとかですね、国民に向けて行われたという経緯がございます。これも報告書としてまとめられまして、民主制を再構築するということで17の提案がされております。
提案の内容はですね、国会議員の任期は連続3期まで、4選禁止ということですね。上院の地方問題の議員として位置づけようということですね。下院の改革なのに上院の話をしてまして、なかなか踏み込むなっていうふうな感じはしております。
憲法院の裁判官の任命の、議会での承認手続きっていうのもですね、変えておりまして、これも多岐にですね、改革の内容はわたっております。
で、そのときのマクロン政権ですけども、ここでも改憲議論は行われておりまして、マクロン大統領もですね、すぐに憲法改正は着手をしたわけですね。それが「より代表的で応答的で効率的な民主制のための制度改革」というものです。これも大きな制度改革で、法律改正・組織法律改正・憲法改正の三段構えということで、2008年の憲法改正のときとよく似ております。
(2)の内容ですけども、国会議員定数の3割削減ですね、これ政府が提案してるわけですけども、実際イタリアは先月の憲法改正で国会議員2/3ぐらいになりましたね。300人ぐらいだと。憲法改正実現してますので、フランスとかイタリアではそういう議論が今盛んなのかなというふうに思います。
議員任期の制限、ここでもうたわれております。野党会派の権限縮小をですね、これは結構珍しいですね。政権側がですね、野党会派の権限を縮小しようというのは日本だけじゃないみたいで、普遍的な現象だという言葉が言えるかもしれませんね。
ていうのも、今、近年の改革で野党議員の権利ってのはかなり認められてきてまして、それが国会の審議の遅れとか複雑化となっていたということで、そういうのはもう面倒くさいから権限縮小しようと言っう提案ですね、傾聴すべきかどうかわかりませんけども、そういうことが提案をされております。
これは政府の改憲案なので下院で審議をされまして、修正も多数出されております。ただですね、この改憲案は政権内のスキャンダルとか、特に黄色いベスト運動ですね、起こりまして審議が中断をしました。しかしですね、昨年の8月にもう1回、別の法案として改憲案をですね政府が出しております。しかしこれについては、議論がされてるってことを聞きませんので、中断したままなのかなっていうふうに思っております。
その次ですね、フランス国会の取り組みということで今度は国会自身の制度改革の取り組みです。詳しく説明はちょっとできませんけども、議会の下院も上院もそれぞれですね、制度改革、特に国会改革が中心ですけども、それぞれ取り組みを行っております。
(3)のですね、国会議員の改憲案ということで、マクロン大統領の就任から2年間で下院で43件、上院で16件、私が数えたのでちょっと漏れがあるかもしれませんけれども、改憲案が提出されているという状況です。だからほとんど審議されません。とりあえず出しましたということで、そのまま置いておかれる場合がほとんどです。
改憲案のですね、下院の改憲案、上院の改憲案それぞれどういうものかということですね、見ていただきまして、イメージを持っていただければと思います。
現在、実は今週ですね、フランス国会で憲法改正の審議がされておりまして、野党提出の憲法改正案が上院で、実は今週可決されております。
これ「共和国の諸法律の優位性を保障するための憲法改正法律案」というものですけども、これ今問題になってる宗教問題なんですね、フランスの。イスラムのですね、テロとかですね、イスラムの人の影響力が大きくなりまして、それをですね何とか、なかなかフランスの価値をですね、共有しないのでイスラムの方が、その、それに対してフランスの価値をですね、優位性を示そうというもので、内容としてはですね、出自や宗教を理由とした義務免除の禁止でありますとか、あるいは政党に対する政教分離原則の尊重ということもですね、議論されてまして、これはですね右派の議員150人が提出ぐらいしてるので、結構大きな改憲案になってますので、今後どうなるのかですね、注目、注意する必要があるというふうに思ってます。

-フランスの改憲プロセスの特徴

少しまとめみたいなことですけども、フランスの改憲プロセスの特徴ですね、改憲の特徴で手続き上の特徴をいくつか指摘できるかなというふうに思います。
まず一つ目はですね憲法改正と法令の改正がセットで議論されることが多いということです。
日本だと憲法改正だけ取り出して議論されますけどもフランスは「制度改革」っていうのが中心でして、それは法律で実現するか、憲法改正実現するかっていうのは手段っていうことになります。
二つ目はですね、専門家会議がよく設置されます。
これはですね民主的正当性、つまり民主主義の要請だけでなく専門的技術的な合理性をですね、確保するという仕組みがあるのかなというふうに受け取っております。
3番目はですね、政府による改憲原案の提出というのが見られるという点ですね、日本との点では。政府が改憲法案を提出しますので、法案の作成とか審査のプロセスにおいて様々なリソースを使えるという利点があるのかなと思っております。先ほども言いました他省庁との連携でありますとか、コンセイユ・デタによる事前の法案審査もありまして、こういうのが法案、憲法改正案の質保証といいますか質向上にですね、意味があるのかなというような感じがいたします。
次に内容上の特徴ですけども、これも私のまとめですけども、大きく2点あると思うんですね。
一つは「民主主義の質向上」です。
先生がたはお気づきかもしれませんけども、これまで出されている報告書のタイトルを見るとですね、「民主制」っていうのが入ってるんですねだいたい。民主主義とか民主制ですので、改憲とか制度改革は、民主化、民主制の技術向上っていうことが一つの大きな、フランスのテーマになっているのかなということがうかがえると思います。
3点それもありまして、「政治家への信頼回復」と「合理的な統治制度」、そして「多様性・応答性の重視」というのが私の見た感じ、大きなテーマなのかなというふうに思っております。
特にマクロン大統領なんかは、抽選制議会の可否とかですね、そういうことも取り入れてまして、ご存知かわかんないですけども、最近抽選とかクジで議員選ぼうという動きが世界的にあるようでして、この辺、日本の国会とか民主主義でもですね、議論の対象になってもいいのかなっていう。先生が大変申し訳ないんですけども、これがいいと言われてるんですね。はい。実際は日本でも裁判員制度なんか抽選制でやってるわけでして、その効用というのもですね、考える必要があるかもしれません。
立憲主義の充実強化ということですけれども、ここでは憲法裁判所改革というのが一つの大きなテーマになります。
立憲主義というのはですね、先生方ご存知の通り、権利を保障する、その保障する体制も整備するということが含まれますので、その憲法裁判所ですね、権利保障の一番の砦になっている憲法裁判所をですね、改革しようということです。特に事後的な違憲審査制っていうのを、フランスでは2008年の憲法改正で導入をしております。
これは実はフランスですごく画期的なことなんですね。
フランスっていうのは一般意思の国と言われてまして、法律っていうのが一般意思を表明するもので、もうそれは間違いがないというふうに従来ずっと考えられてきたわけです、ルソーの時代から。しかし違憲審査っていうのは、法律がですね、憲法に違反してるっていうことで、いわゆる駄目出しをするわけですね、憲法裁判所が。だから非常に抵抗があったわけなんですけども、2008年の憲法改正で事後的な違憲審査制というのが導入されております。
それに新しい原則権利の導入ということで、死刑禁止、EUとの関係で要求されるわけですけども、挙げられましたし、環境保護の観点から、環境憲章というものですね、憲法典として制定してるということで、いろんな原則と過程にも導入をしてるわけですね。

-憲法改正の効果(日本との比較)

で今日ご紹介したいのはですね、そこで赤で引いたところでして、どういう憲法改正の効果があったのかというのを少しお話をしたいと思います。
その一つがですね、フランスのパリティ原則というものです。
パリテという言葉もですね、最近ですね、一般的になってきたと思いますが、このフランスにですね、20年ぐらい前に導入された制度でございます。これは99年の改正で入れられまして、公選職の候補者を原則として男女半々ですね、英語で言うとパリティですから、同数というか半々と言った方がいいと思うんですけども、そうする改正です。
そうするとどうなったかというのが左のグラフでして、これ99年改正で、その次の2002年のところを見てもらいますと、この立候補者が飛躍的に増えているのが、読み取れますかね、ここで。ここで一挙に女性の候補者が40%ぐらいまで増えております。
当選者はすぐに増えないんですけども、候補者がその後40%ぐらい安定していきますと、女性の当選者も増えてくるわけですね。
で、直近の2017年の下院議員選挙ではですね、女性議員の割合が39%まで上昇しております。これは制度改革10%ぐらいだったと考えますと、3倍から4倍近くですね、増えておりまして、憲法改正の効果がはっきり出た例として位置づけられるのかなというふうには思います。
これはですね、閣僚人事なんかにも影響してまして、7月にですね、新政権の新内閣ができましたけども、32名中ですね女性は17名です。きっちり半分っていますか、そういうふうな構成に今なっているわけですね。これは前の政権もそうでしたし、今の政権もそうなので、もうこれ、こうじゃない、パリテじゃない閣僚人事でやると多分ものすごく批判を受けるんだと思います。意識してこれはやってるところがあります。
それでですね、次のこれを見ていただくとですね、はい。
これが日本の現状でありますけども、菅内閣の新しい閣僚ですけども、20名中女性はですね、橋本大臣と上川陽子大臣の2人ということになります。これはやっぱりあれ、女性議員の数にやっぱり比例しているわけですね。衆議院議員で女性10%、1割しかおりませんので、20人の1割だと2名ということで、そういうところで連動してるかなっていう気がしております。
実際日本の女性議員は非常に少なくて、2017年の選挙後でも10.1%ですね。フランスは2017年の順位で25.8%でしたけども、2017年の選挙後は38.8、139ですので、更に上昇してるということで、このパリテ、憲法改正というのがですね、影響があったというふうに見て取ることができると思います。
日本でも2018年に候補者男女均等法というものが、議員立法で、おりまして山尾先生は、やっておりますけども、ここまでですが均等というふうに、できる限り均等となってまして、しかも努力義務というふうにされてるところです。このときですね、これ法的義務にしますと違憲となる恐れがやはりあるというところでこういう判断になったんだと思います。
実際ですね、フランスではこれ法律でパリテをやろうとしたときに、それを憲法違反だというふうに、憲法裁判所が言ったんですね。それ自体として非常に違憲審査機能してるなというふうに思ったんですけども、違憲だと言われてくじけるんじゃなくて、憲法改正によって実現したという経緯がありますので、プロセスとしても参考になるかなというふうには思います。

2点目はですね、違憲審査の問題です。
事後的違憲審査の話ですが、これ2010年に運用開始されましたが、ちょうど10年なんですね、今年が。10年です。憲法院が10年の検証しましたところ、いろんな数字が示されていて大変興味深かったということですね。で事後審査制757判決、これあの法律の合憲違憲が争われた判決があるんですけども、合憲判決が66%で、違憲判決が30%もあるんですね。3割。これ非常に割合として多いですね。ですから最初のこの事後審査制の判決が違憲判決だったということで、制度がもう最初からですね、よく機能しているということが伺えるのかなと思います。
それに以前から行われていた事前審査制ですが、これは法律の施行前に違憲審査をするという制度ですけども、これを見ましてもですね、違憲判決は全体の47%ということで、これも機能しているっていうふうに言えるのかなというふうに思います。
これも日本の状況と比べると顕著なんですけども、日本は1947年の運用開始から今月に至るまで、法律に対する違憲判決っていうのは10件しかないんですね。わずか10件。先生がた、ご存知だと思いますけども。で、これは極端に少ないわけでして、これ司法消極主義というふうに言われております。しかも最初の違憲判決が出たのはですね、これは有名な尊属殺人事件判決でして1973年、これは憲法施行から26年後ということになります。
ここからどういうことを言えるのかなと言いますと、違憲審査制が機能していないのではないかなっていう見方もできると思いますけど、日本では違憲立法がないのではないかという見方もできるわけなんですね、国会が非常に優秀で、違憲立法始めからもう全然作らないと。そういう仮説だと非常に喜ばしいんですけれども、だったらドイツとかアメリカの国会議員は何なんだって話になりますので、その仮説なかなかちょっと無理かなっていうふうに思っております。ですのでやはり違憲審査制がちょっと、消極的かなというふうに考えるのが普通かなというふうに思います。
この消極主義はですね、もうずっと問題になってまして、この伊藤正美元最高裁判事がですね、自ら、任期をですね、退官後にですね、憲法裁判所を導入した方がいいのではないかということを実は提言したことがございます。
この伊藤先生は、自分が最高裁判事として携わってきたっていうことと同時に、英米法の研究者だったので、まさか法の先生が大陸型の、違憲審査、憲法裁判所導入せよというふうに言うとはですね、思っていなかったみたいで、割と社会とか学会にですね、衝撃を与えた言説ですね。憲法裁判の活性化のためには、大陸型の憲法裁判所の制度に切り替える必要があるのではないかということを提言されていますが、議論をですね、全然その後も、この停滞したままっていうことになります。
次のスライドはですね、ちょっと込み入ってますので、ここでは割愛をさせていただきます。一言で言いますと、やはり最高裁ではできないことがありまして、それについては憲法改正で対応するしかないのかなという点でございます。

・Ⅲ 今後の議論のために

3番目ですね、ちょっと時間の関係ありますけども、今後の議論のためにということで、これは私が憲法に関していつもお話をすることですけども、3点ですね、客観的な事実を踏まえる必要があるのかなっていう気がします。
一つ目は分量の少ない小さい憲法で改正経験のない憲法ということで、3番目は独立前に制定された憲法ということになります。特に今日取り上げたいのはですね①の分量の小さい憲法ということです。
これは比較すると明らかでして、諸外国の憲法と比べて1/3とか半分ぐらいしか分量がないということですね。これは冒頭舟山先生もおっしゃいましたように、割と最近では認識されてきた事実かなという気がいたします。
問題は、それはどういう意味を持ってるかっていうことなんですね。
これはですね、次のモデルを見てもらいますと、ドイツ、フランス、日本と比べて憲法典の割合がどれぐらい占めてるかということで、ドイツ・フランスなんかは、憲法典が占めている割合が大きいんですね、統治の方法の中で。そうすると制度改革をしようとすると憲法の関係についてすぐぶち当たってしまう。なので憲法改正も一緒に議論する必要が出てくるっていうふうになるんですけども、日本の場合はスカスカといいますか、割合が小さいので、その余白でですね、制度改正がですね、これは「出来てしまう」って言った方がいいのかもしれません。柔軟でできてしまうって言っていいと思います。ただそれは、そういう運用が本当にいいのかどうかっていうのは、一度検証が必要かなと思います。
いろんな点がありまして、一つは外国では憲法で定められている事項が、日本国憲法にないんじゃないかということですね。規律の密度が低いということが挙げられると思います。
二つ目はですね、憲法の不足を補うために、解釈とか法律が果たす余地が大きいということで、これは統制力が弱いというふうに言うことができると思います。つまり逆に言うと、政治エリート、行政とか裁判官とかが、憲法を割と緩やかに運用できてしまうということで、最近一番最初に話された山本龍彦先生はエリーティズムというふうにおっしゃいますけれども、非常にエリートによる憲法運用だということなので、これは国民主権との関係でいいのかということは、問題になると思います。

最後、今後の方向性ですけども、やはりですね、憲法の機能がやっぱりちょっと弱い、低いっていうことがありますので、憲法規定を追加充実していく方向での議論が望まれるという点が1点と、もう一つはですね、先ほどのフランスの教訓から、立憲主義や民主主義のあり方っていうのはですね、過去の国民、つまり憲法を制定した当時の国民だけでなく、現在および将来の国民にも開かれているものだと思います。
ですので、現行制度を不断に見直して、より良い統治制度を求めて議論することが求められているのではないかということが一応言えるのではないかということで、私の拙いご報告とさせていただきます。どうもありがとうございました。

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