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MAD LIFE 329

22.歯車は壊れた(10)

5(承前)

「どこにいるのか……それは父さんにもわからない」
 なにもない宙を見つめ、洋樹はいった。
「十六年前の話だ。友恵の生まれる四日前……自宅が全焼した」
「全焼って……火事?」
「ああ。俺の煙草の不始末が原因だった。その火事で俺たちはなにもかも失ってしまった。生まれてくる赤ん坊を育てるなんて……そんな余裕はどこにもなかったんだよ」
「……赤ん坊をどうしたの?」
 俊が怯えた声を出す。
「僕の姉さんを……父さんたちは一体、どうしたの?」
「…………」
 洋樹は返答に困った。
「捨てたの?」
 俊が訊く。
 だが、答えられない。
 その行為こそがもはや答えだった。
「捨てたんだね?」
「…………」
「なにかいえよ、馬鹿野郎!」
 俊は大声を張りあげると、そのまま家を飛び出していった。
「俊!」
 あとを追いかけようとした由利子を、洋樹は押しとどめる。
「今はそっとしといてやろう」
 由利子はなにもいわず、洋樹の腕にしがみつくと、一気に泣き崩れた。

 生まれたばかりの赤ん坊を捨てた?
 路地を走りながら、俊は考えた。
 知らなかった……父さんと母さんがそんな冷酷な人間だったなんて。
「ねえ、君」
 ……え?

 (1986年7月7日執筆)

つづく

1行日記
昨日のタイムは背200 2分31秒7……うーん、もう少しなんだけどなあ。


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