見出し画像

MAD LIFE 345

23.一難去ってもまだ一難(11)

 俊が家を飛び出していってからかなりの時間が経過している。
 もしかして……。
 最悪の事態を思い浮かべ、洋樹は頭を振った。
「警察に届けましょうよ!」
 由利子も我慢できなくなっていたのだろう。
 勢いよく立ち上がると、そう叫んだ。
「待て。まだ早い」
 慌てて、彼女を押しとどめる。
「そのうち『腹減った』とかいって、ひょこり帰ってくるさ」
「いつもだったらそう思ったかもしれない。でも、今回は違うでしょう? あの子は私たちの犯した罪を知ってしまったのよ」
「…………」
 なにもいい返すことができなかった。
「もう待っていられないわ!」
 由利子は洋樹の腕を振り払い、家を出ていこうとした。
「待てって。冷静になれよ」
「あなたこそ、なぜそんなに呑気にしていられるの?」
「俺だって心配だよ。だから……俺も一緒に行く」
 洋樹はいった。
「それに、おまえに話さなくちゃいけないことがあるから」
「なに?」
 由利子が眉をひそめる。
「歩きながら話すよ」
 恵美はもう眠っていた。
 洋樹と由利子は娘を起こさないよう注意しながら、玄関に鍵をかけ、家を出る。
 夜の街。
 風が強い。
 星がいつもよりも激しく瞬いている。
「話ってなに?」
 由利子が口を開いた。
「あのな……」
 強風に目を細めながらいう。
「……友恵に会った」
「え?」
 由利子の表情が強張った。

 (1986年7月23日執筆)

つづく

1行日記
再び梅雨……梅雨明けは来週らしい。 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?