MAD LIFE 345
23.一難去ってもまだ一難(11)
5
俊が家を飛び出していってからかなりの時間が経過している。
もしかして……。
最悪の事態を思い浮かべ、洋樹は頭を振った。
「警察に届けましょうよ!」
由利子も我慢できなくなっていたのだろう。
勢いよく立ち上がると、そう叫んだ。
「待て。まだ早い」
慌てて、彼女を押しとどめる。
「そのうち『腹減った』とかいって、ひょこり帰ってくるさ」
「いつもだったらそう思ったかもしれない。でも、今回は違うでしょう? あの子は私たちの犯した罪を知ってしまったのよ」
「…………」
なにもいい返すことができなかった。
「もう待っていられないわ!」
由利子は洋樹の腕を振り払い、家を出ていこうとした。
「待てって。冷静になれよ」
「あなたこそ、なぜそんなに呑気にしていられるの?」
「俺だって心配だよ。だから……俺も一緒に行く」
洋樹はいった。
「それに、おまえに話さなくちゃいけないことがあるから」
「なに?」
由利子が眉をひそめる。
「歩きながら話すよ」
恵美はもう眠っていた。
洋樹と由利子は娘を起こさないよう注意しながら、玄関に鍵をかけ、家を出る。
夜の街。
風が強い。
星がいつもよりも激しく瞬いている。
「話ってなに?」
由利子が口を開いた。
「あのな……」
強風に目を細めながらいう。
「……友恵に会った」
「え?」
由利子の表情が強張った。
(1986年7月23日執筆)
つづく
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