クロミミ(黒見千 くろみゆき)

文章だと老けてるらしい27歳。正規図書館司書。 生きるために、ずっと小説を書き続けてい…

クロミミ(黒見千 くろみゆき)

文章だと老けてるらしい27歳。正規図書館司書。 生きるために、ずっと小説を書き続けています。 インスタ→ https://www.instagram.com/kuromimi31/ はてなブログ→ https://kuromimi.hatenablog.com/archive

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  • 小説・「アキラの呪い」

    「俺にはろくでなしの姉が一人いる。姉は俺の呪いであり、俺は姉の呪いになりたい」 姉の自殺未遂をきっかけに変化する義理の姉と弟の危うく奇妙な関係を描く。

  • 「アキラの呪い」まとめ

    連続小説・「アキラの呪い」のまとめ記事のマガジンです。あらすじや登場人物をまとめてますので、忘れた際にはどうぞ。

  • 連載小説・海のなか

    とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。

  • 連載小説 海のなか まとめ記事

    連載小説のまとめ記事です。あらすじや人物関係などをまとめます。内容を思い出したい時にご活用ください。

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    ときめいたnoteをあつめます。

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連続小説・『アキラの呪い』(1)

第一章 「水無瀬晶の弟」  俺の姉について話しておきたい。  水無瀬晶は厭なやつだ。無神経で傍若無人でニコリとも笑わない。性悪な女だ。  姉といっても、血は繋がっちゃいないんだけど。ただうちの母親とあいつの父親が結婚しただけ。よくある話だ。晶と俺とは血が繋がっていない。ーーーそれを俺は喜ぶべきなのかもしれない。あんなに生きづらそうにしてる義姉を見ていると余計に。厄介な性質を、もしも俺も受け継いでいたらと思うとゾッとするし。けど、一方では思うんだ。もしも血が繋がっていたらと。

    • 小説「アキラの呪い」(19)

      前話はこちら。 ***  赤黒く固まった血に塗れた敷物をゴム手袋越しに触ると、ずっしりとして重かった。そうしてその下から出てきたのは大量のペットシーツだった。犬猫が排泄をするときに下に敷くあれだ。夥しい数のペットシーツは血に染まりきっていた。 「…呆れた」  これから死のうと言うときに、部屋の心配なんかしていたのか、あの女は。その上、これを俺に処理させるとは。俺の心情にまで思いが至らないのが、いかにも姉らしい。姉は人でなしだが、わざわざ他人を傷つける行為には興味がない。た

      • 小説・「アキラの呪い」(18)

        前話はこちら。 ***  目覚めると、白い蛍光灯が縦に伸びているのが見えた。消毒液の匂いが鼻をつき、今自分が何処にいるのか分かった。格子状の白いパネルを嵌め込んだ天井には見覚えがあった。以前入院した病院と同じだ。その光景から失敗を悟った。ーーー無駄なことをした。不要な痛みを経験し、不要な血を流した。それなのに必要な結果は2度目にも関わらず手に入れられなかった。その事実は私を酷く落胆させた。阻まれてしまった、また。いつもそうだった。私の邪魔をするのは歩、あのたった一人の義弟

        • 小説・アキラの呪い(17)

          第四章 彼女が望む理由  珍しく向こうから連絡を寄越したのは、帰省が終わってすぐのことだった。その内容は簡潔で「部屋の片付けをするから今週は来るな」ということらしい。今更部屋が片付いていないことを気にするような奴じゃないはずだが。ひとまず疑問に思いつつも承諾した。ーーーもしかして好きな奴でも出来たんだろうか? なんて馬鹿馬鹿しい考えも一瞬頭を過るが、すぐさま打ち消された。あの姉と恋愛沙汰ほど食い合わせの悪いものは他にない。想像するだに寒気のするような不気味さだった。いっその

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        連続小説・『アキラの呪い』(1)

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        • 小説・「アキラの呪い」
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        記事

          小説「アキラの呪い」(16)

          前話はこちら。 アキラの呪い 15.16は連続更新。 間話2 「深夜:side晶」  深く静まり返った夜のことだった。  誰かがうめいていた。男の掠れた声が壁向こうから聞こえる。作業の手を止め、わたしは知らぬ間に歩の部屋の前へと立っていた。ドアノブを引くと、くぐもっていた声は鮮明になる。戸の隙間から闇が漏れ出て廊下を染めていた。その暗闇に惹かれたせいだろうか。部屋へと足を踏み入れ、気がつくとベッドを覗き込んでいた。弟が大きな体を窮屈そうに折り曲げ、蹲っている。彼を見下ろ

          小説「アキラの呪い」(16)

          小説「アキラの呪い」(15)

          前話はこちら。 アキラの呪い 15.16は連続更新。 ***  晶は結局翌日には早々と片付けを終えてしまった。後には空の部屋だけが残された。まるでそこだけ持ち主を失ったかのようだった。そうして姉はその後一日だけ滞在し、実家からアパートへと戻っていった。正直いつ帰ったのかは俺にもわからない。週明けになって大学の講義に出なくてはならなかったから。ただ、最後の1日はどこかに出掛けていたようだった。帰りしな、晶と会って一緒に家路についたからだ。彼女が自ら外出するなんて珍しいもの

          小説「アキラの呪い」(15)

          小説・「アキラの呪い」(14)

          ↑ 前話はこちら。  両親はもうすぐ10時になろうかという頃に合わせて起きてきた。少し遅い朝だった。父が先に起きて、ついでに母を起こして連れてきたらしい。父も母も朝が弱いわけではない。やはり昨日の酒が効いたんだろう。  両親が起床して30分も経たないうちに一悶着あった。姉がゴミ袋に貯めた大量の「ゴミ」を母が目にしたのだった。母は娘を愛していたし、娘が生きてきた軌跡をが失われることを恐れていた。  「晶、これ、どうするの?」  「捨てる」  「……なら、私にくれない?それなら

          小説・「アキラの呪い」(14)

          小説•「アキラの呪い」(13)

          前話はこちら。 ***  朝飯は予定通り目玉焼きにウィンナーを添えた。両親の分も合わせて作ってしまう。二人とも今日まで休みで明日から仕事らしい。昨日そこそこ呑んでいたから、もしかしたらなかなか起きてこないかもしれない。食パン三枚を焼きながら、一杯だけコーヒーを淹れる。姉は苦味を受け付けない。それでかつては毎朝甘いホットミルクを飲んでいた。朝食のセッティングを終えると、俺は2階へ「姉さん。朝飯食おうぜ」と声をかけた。姉と朝食を囲むのも久しぶりのことだ。 姉は「そんな顔して料

          小説•「アキラの呪い」(13)

          小説•アキラの呪い(12)

          前話はこちら。 ***  姉が帰省した翌日。壁の向こうから聞こえる物音で目覚めた。壁を挟んだ隣部屋は姉の部屋だ。  「姉さんか…」  夢現だった意識は覚醒へ向かう。低いうめきと共に無意識で呟いていた。同じ家に姉がいることに慣れない。沈黙に満たされていたはずの場所から人の気配がすることにどこか落ち着かなさを感じた。窓の方へと目をやると、朝日がカーテンを白く透かしている。  遅くまで寝ていたつもりはないが、と思いつつ時計を確認する。針は7時少し前を示していた。まだ早朝と言って

          小説・「アキラの呪い」(11)

          前話はこちら。 *** 予告通り帰省した姉をみて、俺はほっとため息をついた。正確には、その手首を観察していた。最近彼女のリストカット跡はかなり薄くなってきている。それでもよく見れば分かってしまう程度には残っていた。今、傷はリストバンドに覆われて見えない。どうやら隠す気はあるらしい。胸を撫で下ろしながら、ふと疑問が芽生えた。なぜこんな心配を俺がしているのだろう。バレて困るのは姉さんじゃないか。なんだか釈然としない気分でもう一度傍に立つ姉に目をやった。姉は帰って早々母から

          小説・「アキラの呪い」(11)

          小説・「アキラの呪い」(10)

          前話はこちら。 第三章「家族」  ある晴れた月曜の朝だった。  秋晴れを見上げつつ洗濯物を干していると、母がこんなことを言い出した。  「あ、そうだ。晶だけどね、今週末帰ってくるって連絡あったわ」  「え」  振り向くと、ソファーの向こう側で体を仰け反らせた母と目が合う。間抜けな返答と共に、今しがた皺を伸ばしたばかりのタオルが手をすり抜けて足元を湿らせた。だが、その不快感すらも今はどうでもいい。  「…そっか。てか、事前に連絡あるとか姉さんらしくないな。いつもいきなりなの

          小説・「アキラの呪い」(10)

          小説・「アキラの呪い」(9)

          前話はこちら。 間話 「特異な関係」  歩と初めて話したのは、小学校へ入学したその日だった。あいつは水無瀬歩で俺は槙原拓人だったから、席順が前後だったんだ。知り合ってすぐの印象は「すごい奴」だった。  その日、配布されたプリントを前から後ろに回して配ると、一枚足りなかった。その事実に俺が気がついたのは、目の前の歩が手を上げて「おれのぶんがない」とでかい声で言ってからだった。本来なら、一番後ろの俺の分が足りなくなるはずなのに。あいつの気遣いに気づいたのは、結局家で「ただいま

          小説・「アキラの呪い」(9)

          連続小説・「アキラの呪い」(8)

          前話はこちら。 ***  晶が高校を卒業してから俺が高校を卒業するまでの4年間は、俺達に一番距離があった時期だと言える。物理的にも精神的にも。俺が高校に入学してからは、特にそうだった。同じ家にいても、ほとんど会話もしないし、なんなら目も合わせないほどだった。なぜなら晶が、はっきりと俺を避けるようになったからだ。反抗期だったんだろうか。あれは。それまでもそれほど交流があったわけではなかったが、ここまでじゃあなかった。それで、気がついた。俺は思った以上に姉を気にして生きてたん

          連続小説・「アキラの呪い」(8)

          連続小説・「アキラの呪い」(7)

          前話はこちら。  ところで校内での晶との交流は、俺の対人関係にも変化を与えた。平凡な奴に「ヤバい奴とやり合えるすごい奴」というステータスが追加されたのだ。だからなのか、幼なじみの拓人とこんな会話をしたりもした。  「お前、噂になってんぞ」  ある帰り道、拓人がひそひそと話しかけてきて、俺は怪訝に片眉を上げた。  「はあ?」  「お前の姉貴の…何だっけ名前…異名はすぐ思い出せるんだけど」  口を歪めながらもどかしそうに拓人は顎を触っていた。  「晶のことか。ちなみに異名って?

          連続小説・「アキラの呪い」(7)

          連続小説・「アキラの呪い」(6)

          前話はこちら。 ***  中学生になると、俺は「あの」水無瀬晶の弟として扱われた。中高一貫校だったから余計にそういう目で見られた。小学校でもそんな感じだったからむしろ俺としては懐かしさすらあった。そもそもその程度のことで動揺してちゃ、あれの弟は務まらない。なので入学してから一ヶ月ほどは、周囲に水無瀬歩がいかに平凡な奴かを知らせることに注力した。まあ、実際俺は平凡な人間に過ぎないのでありのままでも構わない。けどそれじゃあ、姉の武勇伝にインパクト負けしてしまう。平均よりも平凡

          連続小説・「アキラの呪い」(6)

          連続小説・「アキラの呪い」(5)

          前話はこちら。 第二章 「晶と俺」 ろくでもない姉との出会いを俺ははっきりと思い出せない。気がついたら晶は俺の姉で、俺は晶の弟だった。だから10歳の頃、親から実はお互い連れ子なのだと聞かされるまでは、普通の姉弟なんだと思ってた。けど、知らされた時もあんまり驚かなかったんだよな。だってさ、晶と俺は全然似てない。性格も見た目も全部。だから違和感みたいなものは昔からあったんだろ、多分。あいつと俺が家族になった当時、俺は6歳であいつは9歳だった。そりゃあ、就学前のガキの頃の

          連続小説・「アキラの呪い」(5)