メロディックなベースラインはエモいという風潮

多分ないけど自分は好き。くろまいです。



前回記事を書くにあたり、昔買った音源の整理をしていて色々と思うところがあったので、今年はモチベが高いタイミングに合わせてロックバンドに関する記事を時々書いていこうと思います。



とはいえ音楽への興味関心は超にわかベーシストだった大学生時代含むゼロ年代がピークで、以降は就職→結婚→育児のフェーズを経て指数関数的に減衰しているのと、当時から新譜に比べて安く多く揃えられる旧譜の方ばかり集めていたため、内容は必然的に回顧趣味全開となります。しんどさを感じたらブラウザバック推奨。


YouTubeから動画のリンクを貼っていますが、公式じゃないのも割とあるので、消えたらお察しください。






本記事にて導入のため最初に紹介する曲はこちら。





アジカンの代表曲ってリライトからこっちになったん?でおなじみソラニンです。ファーストテイクもこれだったし。




14年近くも前の話なので、知らない方もぽつぽつ出始めているため一応解説すると、この曲はもともと原作マンガの劇中歌の歌詞が先にあって、映画化にあたりゴッチがメロディーをつけたものを本編中にて出演者が歌い、それをあとからセルフカバーしてアジカンのシングルとして販売した、という経緯があります。



劇中の曲は実際に出演者が生演奏したものを撮影していて、CD化はされていませんがその時のライヴ素材と、ROTTI(作中のバンド)名義でのデモ音源がDVDの特典ディスクに収録されています。


(レコード会社に送ったデモ、という設定)



どっちがいいかは諸説ありですが、個人的にはROTTIバージョンの方がエモさ5割増しになっているので好きです。3ピースなので4ピースより1音1音の単価が高い、役者が歌っているので感情を乗せるのが上手、楽器初心者二人の演奏が必死さに繋がっていて好印象などの理由がありますが、一番はやっぱり近藤洋一のベースラインです。ここからが本題。



『波が激しい』という言い回しをするように、人間の感情はどこか液体と似ているところがあって、受け取ったエピソードの高低差によって流れができたり、他からの揺らぎに共振を起こして乱れたりします。


前者については物語性と言い換えることもできて、平穏からいきなり問題が発生した際のショックとか、逆に溜まっていたフラストレーションが一気に解決したときのカタルシスとかが該当します。理由に説明がつくというか、起承転結がちゃんとあるタイプ。


後者はその反対で、身体や周りの環境に生じた刺激と連動して起こるものです。風邪ひくとネガティブになるとか好きな色を選ぶと安心するとか、実感は確かにあるけどメカニズムがいまいちわからないやつ。響くかどうかは受け手次第ですが、感覚や本能に訴えるため、刺さる時には強烈に刺さるのが特徴です。



これらの前提を上手く踏まえることでエモい表現ができていくわけですが、ベースは普段可聴ギリギリの重低音域を押さえつつ、ここぞという時は他パートに干渉せず独立して音が聴こえる中低音域を鳴らせるため、楽器のなかでは音の高低差=メロディーによる物語を作りやすいと思っています。


加えて基本単音弾きなので、物語の骨格を明示しやすいというのもポイントです。この曲はROTTI版の場合、イントロの主メロが間奏でもう一度フックとして機能するようアレンジされているため、最初に中低音でしっかり存在感をアピールすることで、2回目に鳴らす為の前振りの役割がより強く働き、その分聴き手が感情移入しやすくなっています。



一方で先述だと後者にあたる、物語に依存せず相手の感性に直接働きかける方法をとる場合は、最大公約数を狙うのであればある程度の球種とわかりやすさが求められるため、音色が多彩で高音域も担えるギターやドラムやキーボードの方が適任となります。アジカン版はイントロの主メロをギターが最後までメインリフとして使っていて、キャッチーさという意味ではこちらの方に軍配が上がりそうです。



ただしベースはベースで弦が太い構造上、『押弦時に指を滑らせる=メロディーを歪ませて聴き手に何かを訴えかけられる』スライド/グリッサンド奏法を効果的に使えるというメリットがあって、ROTTI版でもクライマックスのライヴシーン中、イントロの主メロの本当に絶妙なとこでちょっとだけスライドを入れる箇所があります。それがめっちゃエモい。しかも劇中だと2回目の主メロが丁度回想の一番いいシーンと重なるんですよね。ベタな演出とは言えやっぱりグッときちゃう。


(0:22からと2:52から。最高)



それ以外にもギターとドラムがほぼ初心者なのに配慮し、途中で迷わないようルートの維持は終始徹底しつつ、さりげなくAメロ→Bメロの順でライン中のメロディーの割合を上げて曲の盛り上がりをこっそり演出する等、地味だけど堅実な仕事ぶりも聴き逃せないポイントです。




映画の中で役者がバンドを組むことになった場合、今作やリンダリンダリンダの関根史織みたく、プロのベーシストがまとめ役としてキャスティングされることがあるんですが(ギターやドラムだけ上手いとアンサンブルがちぐはぐするため、ベースなのが大事)、この映画における近藤洋一は与えられた役割を完璧にこなしていたと思います。



本編に関してはぶっちゃけるとマンガ派なんですが(美男美女がイチャついてるのを視るのもそれが曇るのを視るのもそれぞれ違った意味で胸が痛くなるため、原作の方がその辺マイルドで目に優しい)、このベースラインは映画館で一度聴いた時から大好きで、音源化されないか心待ちにし、DVDに収録されるとわかった瞬間即購入を決めたぐらいお気に入りです。






だらだらと理屈をこねくりまわしてきましたが、単純にメロディックなラインの方が聴いてても弾いてても飽きにくいので好きです。ベース単独だとなかなか楽曲が成立しないため、基本は裏方に徹する必要があるんですが、ワークライフバランスのせめぎあいというか、仕事の中へどれだけ遊びの要素を入れられるかどうかにその人なりの個性があると思っていて、自分が演奏する際もその辺のニュアンスを重要視していました。


そんなわけでここからは当時コピーしていて楽しかった曲とか、ベースラインがメロディックで聴き応えのある曲を列挙していきたいと思います。元々低音が主役のレゲエ/ダブ、R&B、ジャズとかEDMは除いた上で、ロックバンドのフォーマットの中で色々やってる曲に絞ってリンクを貼ります。先述のとおり新譜じゃなくて旧譜の方ばっか集めていたので、当時から見てもラインナップは大分古めです。



ちなみにスマホのスピーカーだと低音が弱い場合もあるので、余計なお世話ですが動画再生時はイヤホン推奨。



独断と偏見で4つのパターンに分類しています。





①メリハリ型


引くところと出るところをきっちり分けてるタイプ。ベースの役割的にはこれが理想。


・BEAT CRUSADERS / WINTERLONG



目立てる時はやりたい放題暴れて、人が話し出すと一旦は大人しくなるけど、途中から我慢できずに会話へ割り込んでしまうイキリオタク君みたいなベース。完全に俺のことじゃん。そりゃ好きになるわ。



・Pavement / Summer Babe(Winter Version)



ローファイだった初期から実は至極まっとうなベースを弾いていたバンド。歌メロの良さを立てつつ、それがないところでもちゃんと支えようとする気概があって好き。



・スーパーカー / OTOGI NATION



男だけのバンドのメン募見て連絡してきた紅一点、ってオリジン含め、和製キム・ディールの代表的存在、フルカワミキ女史。基本素朴にルートの番人やってるだけってとこまで本家とそっくりなんだけど、何曲かおきにピーター・フックが憑依する時があって、その際は物凄く思わせ振りなスライドを入れる。ツンデレ。
HelloとかRECREATIONとかもおすすめ。



・チャットモンチー / 惚たる蛍



そんなフルカワミキからバトンを受け取った人たち。表情をドラムでつけている分ベースは基本おとなしめの曲が多いけど、3ピースでやれるアレンジをとことん探求していたバンドなので、必要な時には印象に残るフレーズもちゃんと弾ける。Last Love Letterのイントロが割と有名。


・Dinosaur Jr. / Blowing It



言語化が難しいんだけど物凄くUSオルタナっぽいイントロ。他の曲で似たフレーズ聴くとちょっぴり嬉しくなっちゃう。


・Ivy / This Is The Day




歌メロに寄り添った丁寧なライン。男女混声でも終始カラッとしてるのが魅力で、正しくリア充って感じ。アダムの新曲がもう聴けないのシンプルにめっちゃ悲しい。


・THEE MICHELLE GUN ELEPHANT / ダニー・ゴー



個性の塊みたいなフロントマン二人に挟まれつつ、それでもやるべきとこでちゃんと存在感を発揮できるあたり、ウエノコウジってやっぱいいベーシストなんだなーとしみじみ思う。イントロのフレーズが印象的だからこそ、間奏でそれを引き裂くアベの鈍器みたいなカッティングが映える。最高。



・HUSKING BEE / I'M A TREE



スコアのお世話になった曲がめっちゃ多いバンド。ベース含むどのパートも別にテクいことはしてないんだけど、曲の良さを引き出すために死力を尽くしているのが楽譜から伝わってくるので、実際演奏して上手く合ったときが超気持ちいい。


・スピッツ / 渚



美麗フレーズを連発するイントロ・サビ・フェードアウト部分と、休憩かリズムキープのみのそれ以外とのギャップが面白い曲。正社員が見に来たときだけちゃんと手を動かすアルバイトみたい。横浜サンセットにて海見ながら生で聴けたのずっと自慢してる。


②唯我独尊型


他パートと比べてベースの存在感が頭ひとつ抜けている曲たち。こういうのをきっかけにベースに興味をもつ初心者もいるから、個人的にはアーカイブがどんどん増えていってほしい。


・New Order / Age Of Consent

 



『自分が聴こえないから』という理由で重低音域をドブに捨てた漢、ピーター・フック。だからシンセが低音を鳴らすというおかしなことになっている。私生活の治安があまりよくないところも含め、ダメな俺でもなんとかなりそう!と勘違いさせてくれる愛すべきベースヒーロー。


・The Who / My Generation

 



ドラムがバケモノだから一人目立ちこそしないけど、ジョン・エントウィッスルのベースも大概なヤバさ。ツェッペリンかフーなら個人的には後者派。


・THE COLLECTORS / 夢見る君と僕



初期コレクターズは横ノリ感こそあんまりないけど、歌を聴いてるだけで自然にベースラインを耳で追いかけてしまうくらい、歌メロとフレーズのハーモニーが緻密に計算されてるので好き。アンティークのいっぱい詰まったおもちゃ箱みたいな音楽。


・Syrup16g / 空をなくす



初代ベーシストの腰が悪くてリズミカルなのはダメだから、代わりにメロディーの方へ全振りしたって話好き。



・Braid / Killing A Camera



左利きのベーシスト在籍のいいバンドいない?って聞いて、Flogging Mollyと一緒に教えてもらってドはまりしたやつ。変化球投げまくりなのに熱さはストレートに伝わってくるのが最高。Frame & Canvasはマジの名盤なので、未聴であればぜひ。


・L'Arc~en~Ciel / Blurry Eyes



説明不要。大学でラルクの演奏が上手いほどマウントをとれる謎文化があって、みんなこぞって練習してた記憶。


・The Strokes / Is This It



ベースが好き勝手暴れて遂には歌メロまで奪おうとしだすけど、リズムギターとドラムが裏方に徹しているのでアンサンブルは乱れないという、今聴き返してもヘンテコな曲。最高。


・くるり / BIRTHDAY



ミュートピッキングの鬼。3連でこんなぶっ飛んだベースライン作れるのスゴすぎる。でもさすがに難しいからかライヴであんまりやってくれないらしい。


・Ben Folds Five / Uncle Walter



ベンフォールズのソロもいいけど、やっぱりこの極太ベースが恋しくなるからBF5派。主張強すぎ。


・相対性理論 / LOVEずっきゅん



まさかの5弦ベース。個人的に相対性理論=真部脩一だと思っているので、やくしまるえつこが中心に来るようなイメージコントロールを徹底しだす前の、イキった演奏で世間にメンチ切ってたこの頃の楽曲が一番好き。



③弾き語り型



ベースと歌以外の全てのパートを撤去しても曲が成立するタイプ。当然のことながら耳コピするとめっちゃ楽しい。


・BLANKEY JET CITY / 綺麗な首飾り



照井利幸が弾くフレーズの親しみやすさが最大限に発揮された名曲。全編通して粒だった音のひとつひとつがとても可愛い。

・The ピーズ / 電車でおでかけ



ピーズの曲はどれを選んでも徹頭徹尾ベースありきで出来てるんだけど、のんびりしつつもそれが強がりだとわかるニュアンスの匙加減がめっちゃいいので、今回はこれ。


・Texas Is The Reason / There's No Way I Can Talk Myself Out Of This One Tonight(The Drinking Song)


タイトルのくどい感じ、飲まれて飲んでの世界観込みで完全に洋楽版の演歌。曲中の感情の振れ幅がやたら激しいところまで同じ。10代の頃は演奏が理由で好きだったけど、年取って歌詞の方の良さもだんだんわかるようになってきた気がする。


・THE BACK HORN / 美しい名前



童謡ぐらいベタになってもいいから、ちゃんと分かってもらいたいという執念をずっと持ち続けている人たち。シンプルな単音なのにやたらとエモく聴こえるのは、その辺の気持ちが歌と演奏にしっかり乗ってるからだと思う。


・ゆらゆら帝国 / バンドをやってる友達



99%ベース弾き語り。歌詞はロマンチックなのにどことなく空虚。ぶっちゃけ飛び道具とか一発ギャグ的なものだと思うんだけど、それにしては歌メロもフレーズもガチすぎるという不思議な曲。


④変態型


なぜそれをしようと思った?ってなって、しかもそれがめっちゃカッコいい人たち。真似できないけど憧れ。


・bloodthirsty butchers / Happy End



複数弦弾きの魔王。全編にわたってハーモニーの嵐。ノイズに聴こえるとこまで曲の表情と完璧に合致してるのがスゴすぎ。耳コピ困難だし、仮にスコアがあってもこのニュアンスは本人にしか出せないと思う。ブッチャーズの曲のベースは正直全部いいからどれにするか迷ったけど、今回は聴こえやすい3ピース時代のやつで。


・Siouxsie And The Banshees / Happy House



最初期は普通に指弾きだったっぽいのに、どこかから啓示でも受けとったのか、以降は全部ピック弾きのアップピッキングのみで通している人。ずっと跳ねて不安定な感じがスージー・スーの歌声で増幅されて、終始感情がくすぐられっぱなし。奏法自体は真似しようと思えば真似できるけど、バンシーズ以外に転用したとしてもここまでの化学反応は生じないので、今回選択。


・Squarepusher / Iambic 9 Poetry



バンド音楽じゃないけど、さすがにこの人は外せないので例外として選択。カンストした演奏力のくせに、その技術をひけらかさないで全部曲のために使ってるのが最高。これもやってること自体はハーモニクス奏法でエグいんだけど、それを一切知らなくても普通にいい曲って感じるはず。







自分が当時ベース担当したのは消極的理由で(左利きなのに最初はその辺にあった右用のを使ってたから全然しっくり来なくて、仕方ないからハードオフで投げ売られてたLegendのサンバーストを練習用に自腹で買ったら、直後にけいおんが流行って澪だ澪だ言われてめんどくさかった思い出)、その後結構な悲喜こもごもがあり、現状忙しさの合間を縫ってまでもう一度やりたいとなーとは正直思わないです。


だけど当時に楽器を背負いながら集めたCDは今でも聴き返してるし、現在の自分の哲学の中には、あの頃の音楽との向き合い方がきっかけになっているのもあります(仕事の中に遊びを入れ込む割合の感覚とかはマジでそう)。


そういったあれこれを今回思い出したので、自己紹介記事でも触れた『これまで好きになったもの、かつて好きだったものに自分なりの決着を一旦つける』というポリシーのもと、まずはハイティーン時代の考えや好みをダラダラ開陳する記事にしてみました。



お読みになった方が部分的にでも共感したり、あるいはちゃんとバカにできるような内容になっていたら幸いに思います。



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