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養成所の授業で学んだこと。

芸人の養成所というのは今思えばかなり特殊な環境だった。

俺の通っていたワタナベコメディースクール(通称WCS)には週1回(土曜or日曜)、週3回(午前or午後)、週5回と大きく分けて三つのコースがある。

俺は週3回の午前。
Cコースといわれるクラスに通っていた。

授業はネタ見せの他に、大喜利、エピソードトーク、写術、発声、演技、ダンスなどがあった。

演技の授業とダンスの授業だけは専門の俳優さんとダンサーさんが講師だったが、基本的に講師は構成作家や放送作家の方達だった。

ちなみに吉本の養成所"NSC"の講師は現役バリバリの芸人さんだ。

正直言って、ダンスの授業なんかは意味があるとは思えなかったが一応出席日数が足りないとどれだけ面白くても所属できないのでしっかり授業は出なくてはならない。

当時の俺はネタ見せの授業以外あまりやる気がなかった。

講師の人も正直言って理不尽な時がある。

初回のエピソードトークの授業では、まだ生徒一人一人に話させることはなかった。
これからどういった授業をやるかを説明した後、講師がエピソードトークを披露し、その後生徒から挙手制で意見をもらうといったものだった。

講師のエピソードトークが終わった後、
「ほな、なんか意見があるやつ言うてみい」
と言われた。

正直言って長いな〜、と思った。
オチはしっかり面白かったが、多分10分くらい話していたので流石にこの話をできる場はあまり無いはずだ。

同期のデイジーが手を挙げ
「オチに行くまでが長すぎると思います」
とハッキリ言った。

俺は挙手しなかったが、デイジーと同意見ではあった。

意見を言えということは、つまりはこの話のどこが悪いか見抜く能力を試しているのではないか。
そこでようやく俺もそう気づいたのだ。
くそ、デイジーに先を越されてしまった。

すると講師は

「ほな、お前がやってみい!」とブチギレた。

余りにも理不尽である。

意見を言わなくてよかった。

「お前そんなこというてもっと短くておもろい話できるんかい!失礼やぞ!」
と続ける講師。

あなたが意見言えって言ったのに…、とクラス全員が思っただろう。

だが今になって思うと、芸人の世界にはこうやって理不尽に怒る偉い人が沢山いるのだ。

それを身をもって体験できたという面では、この授業も意味があったと思う。

芸人の先輩に意見を言えと言われても、そう簡単に正直なことを言ってはいけない。

まずはその先輩の人柄を見抜き、本当に言ってほしそうな人なら言う。
そうでなければ良い意見だけを言うことにしよう。

養成所の授業を通し、1番に学んだことは"世渡り"だったのである。

おしまい。

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