初♡お宅訪問!

...お疲れさまでした。

朝からぼくは緊張して、また張り切っていました。朝も食べないで駅のホームにしっかりと立ち、スーツケースを引きずって歩いていても何の苦痛も感じないどころか、体に羽根が生えたようでした。飛行機は揺れたけれども、何ともなかったのです。(ものすごく、ものすご~~く、こわかったけど!)

この指輪を無事、めぐさんに届けることが出来たのなら、ぼくはもう後の日程がどうでも構わないと思っていたのでした。

菅原さんに不義理のお詫びをしている間も、参道を歩いている間も、ぼくはまだ緊張のただなかにいました。夜きちんとできるだろうか。花屋が付近になかったらどうしよう?お土産は買ったっけ、、、そんなことを考えていたのです。

きみの隣で、ハンドルを握るきみの横顔を見つめては、ときどきお茶を飲んでいるうちに、ぼくの気持ちはなぜか落ち着いていったのでした。

めぐさんが案内してくれた暗い部屋にポッと明かりが灯ったとき、ぼくはなぜかひどく安心していました。「ただいま」の気持ちでした。荷物をそこらへんに置いて座り込んで見回しても、やっぱり「帰ってきた」としか思わない自分がそこにいたのです。

一緒にいても、ご飯を食べても、勝手に冷蔵庫を開けて物を探したりしても、鍋を片していても、それは変わらなかったのです。

この体が誰か友達の家を訪問したのは、実に23年ぶりです。本体はあるときを境目に、互いの家を行き来するような仲の友達をいっさい、作ろうとしなくなってしまったからです。解離を自覚してからは特にそうなりました。ぼくらにも「必要以上に親しくなる」ことは禁じていました。恋人が他所の体に4人ぐらいいたときでさえ、お宅訪問は実現しなかったのです。なぜか、彼らは誰も恋人を家に招いてくれることはなく、数回会えばいいほうで、すぐに別れてしまっていたのでした。

ぼくがめぐさんの隣で寝ているときに何回、目が覚めたのか白状したら、たぶんきみは驚くだろうなと思います。

今回はきみのアラームが鳴った5時半と、いつも出勤のときに起きていた時間の付近と、それから8時半と、10時半、11時半、12時半でした。それでも寝たのは3時近くだったと思うので、十分な睡眠は取れていたと思うのです。

目が覚めたのは主に罪悪感からでした。きみがとっくに目覚めて困っていたらどうしようと考えたのでした。

それでも、きみの部屋はあくまでもぼくに優しく、すべてで歓迎してくれていました。そのことが何よりもぼくは嬉しかったのです。氣は嘘をつけないからです。

散歩に出て、ぼくが明らかに少年に戻ったのをきみは感じたでしょうか。

あの頃嗅いだ草いきれすら鼻先に思い出せるような、そんな風景でした。

ここで住んでいるならいいのに、と心から思いました。

そして、きみもそれを望んでくれていると感じることができたこと、それがぼくが今回、部屋に行って良かったなと思う最大の点です。

ぼくは、きみの想いにようやく触れることが出来たのかもしれません。

いつからぼくはすっかり家族になっていたのだろう。