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「嘘」:アンソロジー

はじめに

前回の「眠り」に続きまして、同サークル(編集責任者によってサークル名称が変わるとのこと)さまのアンソロジーの感想を。
こちらはサークル名「すずめいろどき」でした。
『きっと、これが最後の嘘になるだろう』と云う一文を入れると云う制約のある企画ものとのこと。こういうの、楽しくていいですよね!
それにしても、テーマが「嘘」なだけあって、読んでいて何が嘘で何が本当なのか? 嘘って云っていることが嘘なのか? など、非常に惑わされました。惑いました。なので、非常に考察的な感想が多いです。
こちらも文学フリマ東京36で購入したものです。
また、★ネタバレ注意★です。


「嘘」:アンソロジー

コピー機は見た!(夕凪塔子さま)

コピー機を基点にした一日のお話。コピー機を使う3人の登場人物の、少しだけの「嘘」。時系列で物語は進んで、理由を持ってコピー機に戻ってきて物語が進む。一度終わったと思った人物の物語が、コピー機に戻ると云う行為で続きになるのは、素敵な展開でした!
個人的には絢香さんが好きでした。おばあちゃん想いのいい子!

あなたは私の(長月琴羽さま)

二人の少女の話。
かわいくってオシャレな友人に憧れて真似をし続けていたけれど、本当は。
二人のそれぞれの視点から語られる物語。
うん、静奈ちゃんはありのままが可愛いよ!

三匹の子豚?(菅江真弓さま)

これは…難しい…。ので間違った解釈だったら申し訳ないです。
皆がよく知る「三匹の子豚」の物語の随所に「これが最後の嘘になるのだろう」が挿入されている。
「これが最後の嘘になるのだろう」の後に再び「これが最後の嘘になるのだろう」。と云うことは、「これが最後の嘘になるだのだろう」自体が嘘なのか。
と云うことは、最後の「めでたしめでたし」の後の「これが最後の嘘になるのだろう」が本当の最後の嘘であり、結局はバットエンドだった…のだろうか…?

火星から来た男(一色麻衣さま)

こちらも考察的な感じになります。「火星から来た」とテレビで主張する男。この物語の世界は「嘘つき」を排除(処刑)した世界。「火星から来た」のは多くの知識人と彼の証言の不一致によって「嘘」であることは確実らしい。
で、あれば彼はなぜ嘘を吐いたのだろうか?
1. この地球が嘘を許さないものだと知らなかった(火星以外の本当の宇宙人)、2. 大掛かりな自殺 くらいか…私が思いつくのは。
1の場合、最後の主人公の「自分の顔が見られない」と云うのは同じ境遇なのかもしれない(でも主人公は嘘を吐いていないから大丈夫のはず。それとも本当に火星人で、地球人的に「嘘」にされたのか…?)。2の場合は主人公の最後の言葉が説明できない気がするから、1なのかなぁ…。

最後の嘘(天野すずめさま)

とても好きな世界観でした。短編には勿体無い、でも短編だからいいのかもしれない。末期医療の一つとして「義憶」と云う嘘の記憶を作る「緩和記憶療法士」。老人の願いを聞き、偽の記憶を作るが…。
末期医療の一つとして「幸せだった記憶」を作る部分を非常に掘り下げたい。こう云う設定大好きです。そして、その結末も。

それは私が決める(木村縦雄さま)

これも…考察的な感じになります。
「よくわかる退職の手引き」の章の主人公と、「それが嘘だったとして」の章の主人公は、きっと衝突事故に遭ったのだろう、と思う。後者の主人公はその事故のせいで味覚に変化が現れたーーのではないかなと。
「屋上エスケープ」の章は、「それが嘘だったとして」と関連はありそうだけれど、同一人物かどうかは解らない…。そして最後の章「今の気持ちに至ったわけで」。こちらはおそらく「屋上エスケープ」の人物と同じなのでは。
全編を通して、若しかしたら似たような感覚を覚える、全く違う人物たちの話かも知れない、とも。
色々考えられるお話でした…!

手紙(菅江真弓さま)

おそらく、手紙を書いている主は宇宙人(に類する)人物なのだと思いました。その人物の子供なのか、ペットなのか、育てている「触手」たちの元気を伝える手紙。
ただ、その手紙が「嘘」であると独白している。
そもそも、その触手たちは存在しないのか、それとも、荒廃してしまった惑星に住んでいるのだろうか。
何にせよ、触手の元気を伝える異質な手紙は、心惹かれるものがありました。

ウソをつくには、もってこいの日(n.n.さま)

文章生成AIの自分語りのお話、と交互に挟まれる、そのAIを作った人物の物語。最初はまるで交差しない二つの話が、最後になって収束する。
ウソ=創作(文章生成AIの作った文章)と称する彼(AI)が物語る、彼を作った人物の話は果たして本当なのだろうか。本当だといいな。
彼を作った人物が、彼を作った動機が、最後には達成されたと私は感じました。彼にとって、その動機となった彼女と、AI同士ででも出会ったなら、幸せなんじゃないかなって私は思います。
n.n.さんはTwitterでもお世話になっており、フリゲ界隈でも交流させてもらっています。ゲームでも、小説でも大好きな物語をいつもありがとうございます!

ミルクはいかがでしょうか(五三一○さま)

フィクションの映画(=嘘)を軸に、嘘について主人公とその先輩が語り合う物語。嘘について語り合う主人公は、無気力に見えて先輩の問いや質問に誠実に答えているところが非常に好きです。
最後に、「フィクション映画をより面白くするための明らかなる嘘は是である」と云うことと、ブラック・コーヒーを飲む主人公に対する「たまにはミルクを入れるのも悪くはない」と云うセリフの対比が綺麗で好きです。

嘘まみれの読書案内(n.n.さま)

嘘をテーマ(もしくは重要なファクター)としている作品を紹介する物語(物語と云っていいのか、と云う気もしますが、一つ一つの作品を流れるように説明する様は、物語と云ってもいいのかなと)。
相変わらず、作者様の知識と云うか興味の幅の広さを感じられるものでした。
と云うか、このアンソロジーを最後まで読んで、最後が「嘘をテーマにした真実の読書案内」であるのはまた面白い趣向だなって思いました。

さいごに

自分も、嘘を扱った作品を作ったことがあって、その話をリメイクしたくなりました。こんなに嘘について考えたの、その作品を作って以来だわ!
そして最後、何が本当で何が嘘か非常に疑り深くなる自分がいました(笑)
色んな嘘を浴びられて楽しかったです! 嘘って云う概念、美しくて好きです。


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