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白線の内側:アンソロジー

はじめに

眠りに続きまして、同じサークルさんで購入させていただいた作品になります。編集責任者によってサークル名称が変わるとのことでして、こちらは「かたつむり激怒」でした。あんなにゆったりしているかたつむりが激怒するなんて、何があったんだ…なんか可愛い。
地味に? 「へんせきにっき」楽しかったです。とても苦労したんだなって。
今回もネタバレありなので、ご注意ください。
あと、自分の考察力が無さすぎて、作者様の思いの解釈が全然違うかも知れませんが、多めに見てください…。なにぶん、狭い世界で生きているので…。


白線の内側:アンソロジー

地図にない境界(木村 縦雄さま):テーマ「白線の内側」

世界境界支援機構と云う組織に所属する「私」の話。読み始めでは、人と動物の境界を敷くための「相撲」の立ち合いと云う現代ファンタジーのような物語。
円の中は内側なのか外側なのかと云う理論も好きですね…!
ですが、この物語の真髄は、多分最後の数文。
読み終わった後に、世界境界支援機構の基本理念を日本語訳して、ニヤリと笑ってしまいました。これは、読者は是非同じ道を辿ってほしいw 短編ながらも衝撃的でした。

オモイデパート(五三一〇さま):テーマ「白線の内側」

オモイ・デパートなのかオモイデ・デパートなのか、はたまたオモイデ・パートなのか…。タイトルから色々想像してから読み始めました。いや、最後は無かろう。
廃墟と化したデパートには、白いロープで境界が張られている。その白いロープの向こう側へ、少女は「お化け」に会いに侵入する。
デパートの屋上では、廃墟になる前の幻視が見え、そしてこのデパートで買ってもらった思い出の人形と出会う。
人形は、別れる際に少女にエレベータですぐに帰れと促す。そして、彼女がデパートを出ると崩壊する。
最初は、「オモイデ・デパート」なのかなと思ったけれど、最後に崩壊する所を考えると、「オモイ(ので老朽化した柱では支えきれずに崩壊した)・デパート」の意味合いもあるのかなぁと思ったり。
廃墟に侵入したり、死ぬギリギリだったのに、あっけらかんとした少女が逞しくて愛しいです。

この電車が駅を出たとき、私はきっと号泣する(冬島 さやかさま):テーマ「白線の内側」

甘酸っぱい青春のお話。主人公の陽子は同級生の皐月に恋心を抱いている。受験のために自習をし、皐月と一緒に帰る時、同じ駅で降りて別れ、白線の向こう側に消える皐月を見る。いつも皐月は振り返らない。だって友達だから。
そこから、すれ違い大人になって再会し、同じように地元の駅で降りて、白線の向こう側に消える皐月を見る。
今度は、振り返ってくれている。それは、きっとーー。
言及されないですが、二人は上手くいくと信じたい。
王道の物語の中、ただ振り返るだけで感情が伝わってくる話運びは見事としか云えません…!

先に立たず(矢野 無村さま):テーマ「白線の内側」

中学生の頃、バスケットボール部に所属していた、大学生がOBとして戻ってきた時の話。
冒頭でバスケットボールの白線の話がありましたが、そういえば良く考えたことがなく、確かにバスケットボールは線の上だけでもアウトですね。面白い。
自分は運動全般、特に球技がびっくりするほどダメなのですが、自分の中学があった地域はなぜかバスケットボールが盛んで、学校対抗イベントとかあり、この話の主人公みたいに、練習試合で足を挫いて本戦に出られなかったことを思い出しました…とはいえ、主人公みたいな選手でもなければガチでもないのですが。
中学生の頃の挫折を乗り越える話だと思うのですが、挫折って早いうちに経験して、そして先に進める方法を見つけるのが大切だと思うのです。先生の言葉、めっちゃ沁みました。先があまりない大人になってから挫折したら、目も当てられないなって…。

バリエーション(菅江 真弓さま):テーマ「白線の内側」

数行で物語られる、数人の人物の切り取られた日常。「白線」と云う単語が明確に出てくるのは最後だけだけれど、切り取られた日常は白線に区切られた隣人の物語なのかもしれません。
最後の駅の白線と、義父のお話は、白線の途切れから繋がった物語なのかも、と思わずにはいられません。

雲の上はいつも晴れ(長月 琴羽さま):企画「白線の中の街」

白線の中、そして雲。
この物語は、雲を白線としてその内と外を表現しているのかなと思いました。
恐らく、冒頭は自殺を匂わす文章なのではないか、と思い、その後の物語は郷愁の念を感じます。けれど、その街から抜け出したい。抜け出すには、死なのか? 死ぬと空に昇ると聞くこともある。それで、雲の上に出られるのか。出たら、晴れた空を見られるのか。

禁忌の白〜あるいは世界の構造について〜(n.n.さま):企画「白線の中の街」

この物語には、「読者への挑戦」が含まれているので、ここでネタバレを含むものを記載してしまうと、万が一、この記事を見てくださった方の楽しみを奪いすぎてしまうのでは、と思うので、多く語れないなぁと思いますが、非常に、面白い作品でした。
挑戦については、なんとなく「そんな気がしていた」けれど、はっきりとはわからず、そして答えを知った時「なんて物語なんだ…」と衝撃でした。
例えば、推理ものでは「誰が犯人か?」と云う読者への挑戦はそれなりにあると思うけれど、この物語はそれとはまた違った趣向でとにかく面白かったですね…!
私もその禁忌に、挑戦したくなりました。

白線のない街(一色 麻衣さま):企画「白線の中の街」

白線のない街。それは小さな違和感でしかないが、白線がないことを当たり前だと思っている住民たちに囲まれると、その他を見知っている分、異世界に転生するより不安で怖いことなんじゃないかと思いました。
後半で明かされる白線のない街の真実は、ファンタジーだけれど、日常の少しの違和感に対する恐怖が淡々と綴られていて、不思議な感覚になりました。
文章量が多めなのも私好みで、不思議な世界観に惹き込まれます。

さいごに

今回も、様々な作風に魅了されるアンソロジーでした。
3冊目ともなると、それぞれの作者さんのクセがわかるのがまたいいですねぇ。
こちらのサークルさんはまた24年5月の文フリ東京にも参加されるらしいので、新刊と、既刊をいくつか購入させていただきたいと思ってます。
文フリ楽しい!

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