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ホンダフィットのデザイン解析#1 〜それは全てを包む◯(マル)〜

目次
歴代ホンダフィットのデザイン
ベストセラー20年超!
マルを描くのはとっても難しい

歴代ホンダフィットのデザイン

 ホンダフィットは初代から一貫してコンパクトなのに広い、走りがいい。といったコンパクトなのに○○という、相反する魅力を数々実現させて今のブランド力が培われました。
 一目でフィットとわかる印象的なデザインです。また使ってみると分かる高い性能に納得してより一層デザインの意図を、説得力を持って認識させられる好循環を生みます。それはユーザーにとって所有する意味がより個人的になり、つまり“ドライブマイカー”の神髄に触れると思っています。走りの良さを実感すれば、小粒の弾丸が飛び出すような躍動感のあるフォルムと映るでしょう。広く快適な車内に安らぎを感じるなら、コロンとした愛らしい装いに愛着を感じさせるデザインと言えます。せせこましく合理性を追求した説明的な存在ではなく、そのデザインさながらに一筆で囲った豊かな楕円の中に納まる喜びが実は多かったという驚きの結果。実際の設計では相当大変だったと思いますが、少なくとも我々一般ユーザーは日々の生活にフィットするどころかまださわやかに余力あるその実力に魅了されてきました。
 業界で言えばワンモーションフォルム。エンジンルームとキャビンの2つの箱がスムーズにつながり、あたかも1つの大きな凝縮した塊のような形を目指します。
魅力的な小型車にはすかさずヨーロピアンテイストと知った気で言い当ててしまう評論家も、さすがにのびのびしたフォルムにはヨーロッパうんぬんはフィットしないと自制してもさてどうやって表現しようか苦心したと思います。
 どれにも似ていなくて、全世代の多くのドライバーに“フィットがいい”と言わせた誇るべきジャパニーズカーです。

ベストセラー20年超!

 さてそのフィット、現行4代目の売り上げはそのブランド力に対して盛り上がりに欠ける点が指摘されています。身内にN-Boxがいるからとか。国民に普通車を維持する経済的余裕が無くなったとかなんとか原因を言われていますが、デザインについて厳しい意見も散見されます。別に新型フィットがブランドを毀損させるほど系譜を無視したデザインではないことは確かだと思います。むしろグッと前方を見定めつつも愛らしさが漂う瞳は初代を彷彿させますし、鼻先からリアにかけて伸びやかな装いは健在です。3代目ではメカニカルテイストでフィットらしさを見事に昇華させた後。現行4代目のデザインに大ヒットした初代のデザインをオマージュさせるのは20年の歴史を持つ車の特権であり、よく取り入れられる手法でもあります。ファッションでもそれくらいの周期でリバイバルモデルが出たりします。フェンディのバゲットバッグは1997年の初登場から20年を超えて復活しています。

マルを描くのはとっても難しい

 私は社会自動車デザイン論を掲げてデザインを解析する身として多くの自動車のデザインを見ています。本職でも自動車産業で設計に携わっていますので、工業製品としての視点も持っています。それらから現段階で確実に言えるのは、フィットのデザインコンセプトを工業製品として実現させるのは非常に難しいということです。
 第一に車のパワートレインや乗員レイアウトは直方体を基本とした空間に収まっていて、構成部品の関係を結べば大小さまざまな直方体や立方体の輪郭が見えてきます。わかりやすいのはタイヤの並びです。4本のタイヤの位置関係は長方形を描きます。そんな機械の塊をフィットはどうにかしてデザインを完成させて、我々に伸びやかな弧を描く塊のイメージを残しています。まとまりがあるとは簡単に言っても、四角を丸に見せるのは相当な力量が必要です。加えて柔和な印象が過ぎず、車という機械が持つ運動性能の高さもきちんと表現できていたことも、フィットがここまで受け入れられてきた理由の一つです。
 次回からフィットのデザインを紐解いていきましょう。

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