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やさしい人

気持ち悪い。
ただ、その思いだけが心にあった。

呼吸がうまく出来なくて、朝食べたものが戻ってきそうで…

そんな状態で、教室に入った。
教室はWeb上での終業式が終盤に差し掛かっていた。

苦しいのが治らない…
でも、このご時世下手にマスクも外せないしな…
そう思いながら、ゼェゼェと息を切らしている時だった。

「死んだかったら、マスク外しとき」

という小さな声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
聞き覚えのある優しい声。

僕は、無言でマスクを外して俯いた。

優しい声の主は、そのあったかい手で僕をさすり続けてくれた。

〝よく、朝から来れたね。しんどいな、しんどいな〟

と、僕に聞こえるだけの小さな声で。

決して、〝大丈夫か?〟とか〝つらくない?〟のような疑問文じゃなくて、
唯々、僕を慰めてくれるような優しい肯定。

終業式の間、その優しい声の主である先生は、ずっと僕の背中をさすって小さな声で優しい言葉をかけてくれていた。

結局、Web終業式が終わっても僕は動けないでいた。

そんな僕に、隣の席の友人が声を掛けてくれた。

「朝からよく来たけど、死んでんな。大丈夫か?大丈夫か?」

僕は、無言で頷いた。
僕のクラスは、終業式後に机と椅子の清掃をしなければならない。
どうしよ、動けない…
そう思った時、

「立てるか?」

と、そう言って差し伸べられた手。
僕は、彼のその手に引かれてなんとか立ち上がり清掃をした。
その際にも、先程優しく声をかけてくれた先生は机と椅子を動かすのを手伝ってくれた。

さよならと挨拶をして教室をみんなが去っていく時、未だ僕は動けないでいた。

友達は、しばらく気にかけて声をくれていた。
遠くの席の友達も、挨拶の後わざわざ駆け寄ってきてくれた。

僕は、担任の許可を得て教室でしばらく過ごした。
リハビリがてら、質問に行ってたりして身体を慣らしていく。
そんなことをしてやっと、身体が動く様に、真っ直ぐ歩ける様になる。

動けるようになった身体で僕は、可愛らしい女の子と一緒にスタバに立ち寄って帰った。

その時飲んだゆずシトラスティーがどれだけ温かかったなんて今では、もう計り知れない。

多分、あの時先生から優しい声を貰えなければ、友人から手を差し伸べられていなければ、担任が教室を開けてくれていなければ、回復はもっと遅かっただろう。

唯々たくさんの優しさをありがとうと、噛み締めた半日となった。

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