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スピリチュアル・メイト 第1章「ローラの髪留め」

第3話 her name is R

「目覚めなさい……」

 誰かが私を呼んでいる……?
 全身に電撃が走ったような強い衝撃と、瞼の奥で強い光が迫ってくる感覚と、今まで感じたことのない激しい頭痛がした。

 誰……?私を呼ぶのは……?
 

 再び目を覚ますと夜だった。静かな部屋に人の姿はなく、レースのカーテンだけがかすかに揺れていた。

「起きなくちゃ……」
 だけど体に力が入らない。思うように手足が動かせず、力任せに体を起こそうとすると、まるで引き寄せられたかのようにベッドから落ちてしまった。
「いたた……」
 自由のきかない体に、床へ打ち付けられた衝撃が鈍く響いていた。 しばらく冷たい床にへばり付いていたが、少しずつ腕や足が自由になって来たのを感じ、やっとの思いで起き上がった。
「なんなの……どうして言うこと聞かないのよ、私の体……」
 窓のところまで歩いて行き、ぼんやりと外を眺めていると、地上に人の姿があった。女の子――?
 絶えず鈍い痛みが頭を離れなかった。状況を飲み込もうと必死になった。
「やっと目覚めたのね」
 その女の子が私に話しかけた。外の景色をぐるっと見回したが、他には誰も居ない。何故私がここにいるのかもわからないけれど、少なくともこの建物はこの部屋だけではないようだ。でも彼女が話しかけているのは他の誰でもなく私のようだ。
「……あなたは……誰……?」
 霧がかった薄暗い空間に私の声が力無く風に流れていった。地上の土を落ち葉が覆っていた。
「私は……なぜ……ここに……いるの?いつから……ここに居るの?」
「それはそのうち分かるわ」
 余裕たっぷりな態度が鼻についたが、その女の子はよく見るとどこかで見たことのある顔な気がした。でも何処で会ったのか、思い出せなかった。彼女も私と同い年くらいだろうか。そんな気がしたが、自分が何歳なのか、急にわからなくなった。昨日のことも、その前のことも、もはや自分が誰なのかすら――わからくなって、するとまた激しい頭痛に襲われた。
「――っ」
「知りたい?」
 耳元で、ひんやりと冷たくも引力のある声がした。びっくりしてその方に振り返ると、さっきまで下にいたはずの彼女が、私のすぐ隣にいた。ここは2階のはずなのにどうやって……?
「私はR。混乱しているみたいだからそれだけ教えとくわ。いい?あなたにはこれから私と一緒にある場所まで来てもらうわ。あなたには神から託された使命があるの」
「使命……?なんのこと……?ある場所って……?」
「いいから行くわよ。目を閉じて、体の力を抜いて、私の手を握って」
 なんだかよくわからないけど、彼女に付いて行けば今のこの状況の理由もわかるような気がした。

 Rと名乗った彼女の言う通り、目を瞑って彼女と両手を繋いだ。すると風の音も、周りの一切の音が消え、頭の奥の方に浮遊感のあるいくつかの音が流れ込んで来た。優しく包み込むような、波音や風の音、人間が古来から自然の中で生きて来たことを表すような音が溢れて来た。 気づくと頭の痛みも和らぎ、今まで感じたことのない快感が体を巡った。眠る前のような、一番温かい感覚だった。

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