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手抜き介護 68 続・卒寿

父は2年前に卒寿を迎えたのだけど、その際地元の写真館から「お祝いに無料で写真を撮ります」という案内が来ていた。データを保存しておくから、必要なときは引き延ばしてプリントしますよ、というもの。必要な時とは、つまり、そのとき。そしてそのときは、もちろん有料。分かるけど、なんだかちょっと。

私に連れて行ってもらえと母に促されて、父が「撮りに行った方が良いか」と訊いてきた。え、それ私が決めるの。行くというなら車出すけど、娘に先導される話ではないでしょう。その後何度か「どうする?」と訊かれたが、父自身はあまり気乗りしないようで、結局撮らずに期限を迎えた。

その昔、祖父の家にお邪魔したとき、「遺影を用意した」と見せてくれたことがある。ちゃんと写真館を予約して、床屋でひげも髪も整え、スーツ姿で撮ってきた。出来上がった数枚から一番見栄えの良いものを指定して、すでに現物として仕上がっている。堂々とした、温厚な祖父らしい1枚だった。それは今も、伯父の家の仏間から、こちらを見ている。

父は多分、写真なんか何でもいいと思っているに違いない。今と大して変わらないから、免許証のでも老人会のスナップ写真でも好きにしてくれ、と。どちらも10年は前のものになるから、本人が思っているよりは変わっているけどね。まあ、こだわりがないならどの写真にしても恨まれないだろうから、それはそれで良いのかもしれない。

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