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旅に病で夢は枯野をかけ廻る

旅に病で夢は枯野をかけ廻る

芭蕉最後の句である。

旅に出たいけど、出られなかったんだね、じいさん。

気持ちがわかるような気がした。


山が好きだった。

心が洗われる、というけれど、ほんとにそんな気がしていた。


山はナメたら死ぬ。

これは、登山する人ならみな感じていることだろう。

道具はちゃんとしたものをそろえなければならない。

リュックを買ったり、登山靴を買ったり、テントを買ったりした。

関東平野はたいへんに広いので、山に行くのもずいぶん時間がかかった。

すなわち、お金も時間もかかったのである。


でも、好きだった。

この石の次はあの石に足を置けばコケないだろう。

歩くことだけに知恵を使っている状態も、好きだった。


身体を悪くして、山道を歩けなくなった。

もう地球のどこへでも行けるとは言えない。

仕方ないことだけど、悲しかった。


だが、ああ、夢は枯野をかけ廻るのだ。

近い将来、出かけることだろう。

どうせ死ぬならベッドの上じゃ死にたくないなと思った。

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