竜頭蛇尾に終わったMMORPG

わしは三国志が大好きである。
きっかけはベタだが横山輝光の漫画。吉川英治の小説は3回は読み、それでも飽き足らず陳寿の正史まで読んだ。
もちろん光栄の「三国志」シリーズも随分やりこんだ。
漫画「蒼天航路」は全巻所持していたが実家に置いて出てきたため、いつの間にか親に処分されていた。痛恨の極みである。

そんな三国志愛好家のわしが「三国志Online」というタイトルに心動かされぬ訳がない。三国志Online(以下、「三On」)はコーエーテクモが運営していたオンラインRPGである。

三国志は英雄たちが勇躍したきらびやかな世界観だけでは決して語れない。
時は後漢末期の大乱世時代。飢饉に天災、暴徒と化す民衆、蛮族の来襲、人が人を食らう地獄の様な時代でプレーヤー達はどの様な生き様を晒すのか。
『welcome to this crazy time!』わしの中でTom catが歌い出す。

早速キャラメイクしてログイン。初心者が降り立つ町では部曲(ギルド)勧誘のチャットが激しく飛び交っている。後で知った事だが、三onの戦争は個人のスキルやキャラレベルはあまり関係が無く、とにかくパーティ人数を揃える事が肝要なので、いずれの部曲も初心者の勧誘作業には特に力を入れていたのである。

勧誘担当と思われるとある♀キャラが、「にゃーにゃー♡」とか言いながら猫を追いかけていた。ここは大乱世時代である。あれは猫の形をした虎かもしれぬ。

一歩町の外にでてみると、PC達が集まってしゃがみこんでなにやらゴソゴソしている。どうやらキャラを放置して採集作業をしているらしい。ここは大乱世時代である。こんな無防備な姿を長時間さらして野党に襲われたりはしないのであろうか。

蜀の都、成都に行ってみたらなぜかパンダが呑気にごろごろしていた。なぜ成都にパンダ? 蜀=山奥=パンダ、ということなのであろうか。
ここは大乱世時代…ですよね?
これはあれだ。北伐に備えた諸葛亮の奇策、すなわち戦時の非常食として飼われているのか。

わしが抱いていた三国志の世界観とのあまりの乖離っぷり、モニターを見つめながらゲシュタルト崩壊を起こしそうになった。

ダンジョンに入れば魏呉蜀それぞれの旗を背負った混成パーティが、仲良くモンスターを狩っていた。お前ら敵同士だろうが。戦えや!戦って耳を剥ぎ取って君主に持っていけ!
だが三Onにはフィールド上で突然襲い、襲われる様なPvPシステムは無かった。

無かったと言えば、一般的なMMORPGには必ずと言って良いほど存在するマウントシステムも三Onには存在しなかった。プレイヤーは皆雑兵であるとは言え、古来戦場の花形であったはずの騎馬が存在しないというのはなんとも寂しいし、不自然だ。

そんな三Onだったが数百人同士が戦う合戦システムだけは割と良くできていたので、『このゲームは三国志の世界ではなく、三国志風の世界感を持つゲームなのだ』と自分を納得させてしばらくは遊び続けた。逆に言うと合戦以外のコンテンツは、とりあえず実装してみましたという感じのひどい出来の物であった。

だがコーエーの開発スピードは鈍重で、程なくして合戦の回数が縮小され始めた。開発陣はこのゲームの幕引きを検討し始めたのだと感じたわしは失望し、引退した。
案の定、わしの引退後しばらくして三Onはサービス終了が告知された。
三国志オンラインという風呂敷は、コーエーが包むにはあまりに広すぎたのである。わずか3年の運営期間であった。

薄々理解はしていたのだ。
血で血を洗うようなハードコアなMMORPGが国産から生まれる訳が無いと。
また仮にそんなゲームが存在したとして、日本で商売として成り立つ程のプレイヤーが集まる訳が無いと。

しかし今からでも遅くはない。
『真三国志Online』どこか作ってくれないものか。
生ぬるい慣れあいではなく、極限状態におけるむき出しの魂同士の交流こそをわしは欲している。こんなにもMMORPG向きな題材は他に無いのではないか。