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猫の首輪【#1分マガジン】

加奈子は独り者。外で働いている。アパート暮らし。辺りの住民は入れ替わり、近所との付き合いはない。話し相手は一匹の猫だけ。野良だ。いつの間にか加奈子が世話するようになった。

嫌がるのを押さえつけ、首輪をつけてやった。誰かに虐待されたり、保健所に通報されないように。ゆるくできていて、何かあったら外れるようになっている。猫を押さえつけ、時々締めなおす。

猫ちゃんのやつ、また、首輪を失くしてしまった。これで3度目だよ。目を皿のようにして捜したが見つからない。きれいな首輪だったのに……

ある朝、なんと玄関の前に首輪が!

猫がくわえて持ってくるなんてありえない。風に吹き飛ばされてきたなんてありえない。

誰かが拾って届けてくれた?私、近所の誰ともつきあってもいない。でも……3日ほど前、ゴミ捨て場でおばさん二人が野良ネコが迷惑だと話しているのを聞いて、「赤い首輪の白い猫、野良だけど飼うつもりです」それだけ言って去った。35歳の加奈子にはおばさんは苦手だった。

あの時だけだ。首輪のことを言ったのは。

誰かが拾って、ここに置いてくれたんだ……。仕事から帰ったら猫ちゃんにこの首輪、つけてあげよう。

秋風が心地よい朝だった。

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