長谷川美智子
身近にある生活の場、ショッピングモール。そこで交錯する様々な人々の人生。そのささやかな喜びと哀感を描きました。
老後の資金を投資詐欺で失った人々の話
草を愛する夫と妻の戦い。
橋のたもとのお地蔵さんは 念仏橋と呼ばれる小さな橋のたもとに 小さなお地蔵さんが立っていました。 なぜ念仏橋と呼ばれるのか、 いつ頃からお地蔵さんが立っていらっしゃるのか、 語られることもありませんでした。 お地蔵さんは小さな子どもぐらいの背丈で、 ときどき鳥が肩にとまっていました。 誰がお世話しているのか、 いつも赤い頭巾をかぶり、 赤いよだれかけをしていました。 この辺りは元は沼だったので、 雨が降ると橋の上まで水があふれ、 バスも走れなくなります。 でもお地
薬師如来に祈る 父の赴任した はるかな東国の地で育った 少女 現世御利益を願って 自分の身の丈ほどの 薬師仏を彫った 我は前世は 仏師だったにちがいない 木の中から 自然に仏さまが 出ていらっしゃる…… 三月かけて薬師像は完成した 少女は祈った 来る日も来る日も…… どうか都に帰れますように どうかたくさんの物語を 手にできますように 病苦を癒し 現世御利益をもたらす薬師さま、 どうかある限りの物語を 我に読ませたまへ それが私の現世の夢…… そして…… 少女
誰の人生も青天の霹靂の連続だと思う。 順風満帆のように思えた大谷選手も水原事件は青天の霹靂だっただろう。 キャサリン妃の癌公表も私たちにとっては青天の霹靂だった。 こういうことを知ると、私の卵巣癌摘出など青天の霹靂ともいえない小さな事件かも知れない。 とはいうものの……。 世界的な有名人であってもイギリス王室の妃であっても、全く無名の庶民であっても、その人にとって青天の霹靂はショックであり、悲しみであり、立ち直るのには大きなエネルギーと強い意志が必要なのだ。 ほとんどす
2月の定期健診で明らかな卵巣異常発見。 3月6日。娘二人に来てもらい外科の主治医から画像を示されながら説明を受け、結果的に即入院、翌日卵巣摘出手術。 12日、いったん退院。 18日、外来でCPR検査を受けコロナ陰性を確認。翌日入院。 その夕方に胸に何かを埋め込む手術を受けた。何か、というのは自分でもよく分かっているわけではないから、うまく書けないのだ。 今後の治療で度重なる点滴を受け、血管がぼろぼろになったり、液が漏れたりしないように、『皮膚埋蔵型ポート』を肩に埋め込む手術
人の情 集中治療室では時間が分からないことが一番つらかった。 翌日からは相部屋を希望していたが空きがなく、個室へ。 携帯を自由にかけられるし、部屋が広いことはよかったが、一人ぽっちの寂しさ、経済的なことも考え、大部屋を希望。 三日目に大部屋に引っ越せた。 夕方、なかなか食事が出ない。まさか、私、夕食抜き? ろくに食べていないから、このままじゃ、死ぬよ……。 不安になって通路に出ると、お隣さんが二人、窓際で何か話していた。 「あの、夕食って何時ごろでしょうか」 「けっこう遅
春の嵐 去年11月15日。 経過観察の定期健診で主治医に言われた。 「婦人科の先生から指摘されましたが、卵巣に小さな影があります。卵巣嚢腫の可能性もあり、と言われましたが、この影は誤差の範囲かも知れないとも思うけど…」 明けて2月7日。 今日から5年目だ。 わーい、5年間再発なしで、めでたく、経過観察も終わる。病院通いも終わる~超幸せ~ 去年の針先ほどの影のことなど思いだしもしなかった。 主治医のマスクの上の目が冷たく鋭くなった。 「卵巣が真っ黒に腫れあがっている。この
法的な配偶者となることがいちばん強力に綾子を守ることになる。誠二の出した結論だ。財産目当てと思う人は思えばいい。綾子が亡くなっても、自分は配偶者としての相続権は主張しない。綾子の望む通り、盲導犬協会に寄贈すればいい。 風薫る6月、 庭に桜草咲き乱れる小さな教会で二人は式をあげた。 赤いツツジの咲く道をしばしドライブ、役所に向かう。幸せな道程に付添ってくれたのはキミ子とキミ子の会社の社長だ。 綾子は末期がん。余命いくばくもないと告知されている。 手術不可能、体内に無数に癌細
会ったこともない腹違いの弟……。 綾子の胸に不安が過る。人生の晩年にややこしい問題を抱えたくない。 それから一か月後、公認会計士から報告があった。 「N さん、63歳。若いころは一人でアフリカや中東辺りの砂漠地帯を周遊していたそうです。 それからも根無し草みたいな暮らしを続け、今は沖縄に住んでいます。 親との関係はまったくない人生だったし、それはそれで満足している。 今さら、遺産を分けてもらおうとは思わない。沖縄の片隅で自由に生きている今になんの不満もありませんと言っていま
「贅沢言ってはいけないと思うけど、病院では果物が出ないのよね。好きな果物を自由に食べられるって幸せ」 一時退院した綾子は血色もよく、食欲も旺盛だ。 誠二は病院を辞め、巡回検診を専門にする医療機関で週三回働いている。 職場での陰湿な虐めに耐えられなかったのだ。いや、虐めと思う自分の精神状態が病んでいるのかも。ま、それはどうでもいい。 病院の中を徘徊している多くの霊の存在が自分の命を縮めるような気がしたのだ。辞めるしかない……。 病院で働いている人たちすべてではない。霊感の強
私、身元引受人になってしまった。 出過ぎたことをしたかな。いえ、たまには人は出過ぎたこともすべきなのだ。皆、関わりを嫌がって見て見ぬふり。それでは、あまりに世の中、冷たすぎる……。 昭和のお節介おばさんの話、母がよく聞かせてくれたけど、私、今、おせっかい真っ最中。それで綾子さんの晩年が少しでも安らぐなら……。 高層マンション立ち並ぶ市街地の隙間に取り残されたような小さな手芸工房、キミ子はそこの事務員兼営業員。社長は女性、もう三代目で昔からの顧客が多い。高価な着物をリメークし
私には一億円近い資産がある。土地成金の一人娘で、親の資産をすべて相続した。今住んでいるマンションも私名義。 お金はじゃぶじゃぶあった。今までも、たぶん、これからも。でも、家族の縁と愛には薄い人生だった。 私に何か問題があったのではない。それが私の宿命だったのだ。人は自分の宿命のもとに生きるしかない……。 いざというときのケア付き病院との契約は身元引受人のキミ子と公認会計士ですべてやってくれた。キミ子にはそれなりの謝金を渡してあるし、遺産からいくばくか贈与もするつもりだ。 必
私、恋してる! 夫との味気ない暮らしを50余年、 夫がどこかへ行ってくれたらいいのに、とそれだけを願って生きてきた。 誰にわかるだろう。変わり者の男と暮らすつらさを。 明らかに変だったら、誰にでもわかるし、そもそも結婚などしない。 一緒に暮らさないと分からない性癖、些細な異常さ。これはもう人には分からない。 ほんとうにつらかった。でも、もう過去のこと。夫はぽっくりあの世に行ってくれた。 ほんとうに私、今はのんびり暮らせて幸せ。癌さえ患わなければ…… 私、今恋してるんだ!
テレビ埼玉で『武神』を観るひとときは幸せだ。現実のすべてを忘れてしまう。録画予約しているが、絶対にリアル放送時間帯で見たいので、スケジュールではその時間を最優先している。 日本の大河ドラマは今まで何を見ても途中で飽きてしまった。なぜだろうと考えた。 まずは俳優陣の演技。どの俳優も、その時代ふうの衣装を着た現代人に見えるのだ。表情の微妙さ、絶妙さ、悲壮感が薄いように思えてしまう。登場人物を演じている現代俳優に見えるのだ。 『光る君へ』は録画予約しているから、翌日一応見る。時
先日、ひろみさんから素晴らしい論文をいただきました。バレンタインの何よりの贈り物、ほんとうに幸せなひとときでした。 私の小説がほんの少しでもお役に立ち、この論文の完成に微力ながら貢献したことは夢のような名誉……。 二人で記念写真。 私のペンダントはミニチュアちいさんの作品のブローチに鎖を付け ものです。 それにしてもよくここまで調べあげたものだ、と感心しました。 国会図書館から深谷市役所、郷土史研究会の方、東京女子医大、その他、足を運んだ場所は30箇所を上
『光る君へ』の紫式部少女時代の服装に、ちょっと違和感を感じました。 誰も見ていたわけではないので、こだわることはないかも知れませんが、 ざっと調べた限りではこんな感じみたいです。 (以下は私の落書き。ありあわせの色鉛筆で描いたものなので、適当にイメージとして見てください) 貴族の8歳ぐらいの童女は振り分け髪。 真ん中分けした髪を両側にかき分けて肩の辺りで切りそろえる。昔の博多人形の髪がこんな感じだったような記憶があります。 子どもの衣装は不明ですが、長年の研究によって: