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小説・投資詐欺の行方:消えた400万円(2)エサは牛飯弁当

なぜわたしは四百万円を一挙失ったのか
     危険信号は幾度も出ていたのに、
なぜ見逃して、出資し続けたのか。
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「真山社長、悪い人だったのかな」
女はつぶやいた。
「詐欺師……かもね」
言いながら、小林ユミの顔が私の脳裏をよぎった。

力になりたかった。故郷を離れ、いっしょうけんめい働いているあなたに心ひかれた。あなたの姿が娘に重なった。
だから出資した。あなたは心のなかで笑いながらわたしをだましていたの?

わたしたちの脇を、一人二人、女たちが黒光りするビルの玄関に足音も立てず吸い込まれて行く。
「入りましょう」
 女をうながす。

降り注ぐ春の陽光の下から一転、冷たい石のビルのなか。白々と光るロビーには黒い長椅子が七列ぐらい並んでいた。
「テレビ局、来ないかしら」
「てるみクラブぐらい大きな会社だとマスコミが大騒ぎだけど」
「プレミアバンクが破産したぐらいでは」
「あなた、いくら投資したの」

隣とひそひそ話している人の横で黙って壁を見ている人、幾度も溜息をついている人など……。

どんよりと沈んだ集団。
わたしは長椅子の端に腰を下した。

ユミの顔が目に浮かぶ。真剣なあのまなざしが……。

『東南アジアのインフラ建設に投資しています。東南アジアは今からどんどん成長します。あなたの夢をアジアに』

ユミの差し出したパンフレットはオールカラーで豪華だった。
「真山社長はこの仕事を通して東南アジアの人にも貢献したいと言っています。わたしはそんな社長を尊敬しています」
ユミは真剣な眼差しで語った。

ああ、あれは全部延喜だったの?

周囲のささやき声でわたしは現実に引き戻された。

「品川のビルの事務所、レンタルだって」
「一等地のビルを借りるなんて、詐欺のやりそうなことよ」
「インターネットにはインチキ会社と書かれていたわ」
「経済セミナー,行った?」
「行った。高級な牛飯弁当と手土産に虎屋の羊かんもらってさ」
「あんな贅沢な弁当、自分では買わないからね、感激した~」
「美味しかったね」
「牛飯がエサだったというわけよ」
「エサは豪華だったね……」

牛飯の匂いが漂ってきたような気がした。お腹がグーと鳴る。この場に及んでもお腹は正直だ。ちょっと可笑しくて、とても悲しかった。


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