会員が選ぶ2021年ベスト5 選者:茂木英世

 本ランキングは、選者が2021年の中で触れたコンテンツ(初見、再見問わず)の中から特に印象深かったものを5作チョイスした超個人的な代物であり、その為なぜ今更? というものも混じっているが、どうかご容赦の程を。
 もし未読、未鑑賞のもので何か気になるものを見つけて頂いたり、久しぶりに名前を見た作品を読み直すきっかけになったりしていれば幸いだ。
それではまえがきはこの辺で、ランキングスタート。

5位:『巨神兵東京に現わる 劇場版』庵野秀明
 本作は2012年に公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』と同時上映された短編映画。
 2021年3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は長いシリーズの完結作でもある為、非常に多方面から多様な意見が寄せられたが、筆者としては間違いなく一つのムーブメントを起こした作品の完結にふさわしい落とし前をつけた作品だった。
 しかし唯一不満だった点としては、「破壊が足りない」。これはアクションに満足がいっていない、とは意味が違う。いわばエンタメ的破壊。その為だけに用意された場が惜しみなく蹂躙されていくエンタメとしての画の面白さという点では、『シン・エヴァ』はこの『巨神兵』に一歩譲ると自分は考える。2016年公開の『シン・ゴジラ』も震災映画という社会的な側面を持ちながら人の快楽中枢を刺激するエンタメ的破壊をスクリーンいっぱいに映し出してくれた。しかし日常からシームレスに降誕、破壊へと移行する本作の方が、より濃縮された破壊の画というものがある。
 

4位:『DON’T DISTURB ME』サ!脳連接派
 こちらは大戸又氏が主宰する小説同人サークル『サ!脳連接派』から2021年に刊行されたグランドホテル式クトゥルフ神話アンソロジー。グランドホテル方式とは同じホテルを舞台にするという条件の下、様々な作家が各々の工夫を凝らして物語を作り上げるスタイルの事であり、本書でもホテル「ギルマンハウス」の中で総勢9名の作家による、様々な底知れぬほど深く、闇夜よりも暗い怪奇との物語が綴られる。
 収録されているのはどれも珠玉の作品ばかりなのだが、さらに本書を魅力的としているのはそれら作品群のバラエティの豊かさだ。クトゥルフ神話が今現在持つTRPGなどに代表されるエンタメ的イメージと、本質的な未踏かつ不可侵の領域への羨望と恐怖の感覚が見事に混然一体となっており、クトゥルフ神話に親しんでいる人は勿論、クトゥルフ神話、そしてそこに端を発する様々なコンテンツへの入り口を探している人にもピッタリな一冊だと考える。
 ちなみに選者のイチオシは葡萄用図氏による『WildNeighbor』。あらゆる要素がとにかく格好いい。「グロテスク」と「イカしてる」がガッチリと両立しており、選者のストライクゾーンど真ん中だった。


3位:『マリグナント 凶暴な悪夢』ジェームズ・ワン
 2021年公開のジェームズ・ワン監督によるホラー映画。凶悪な殺人現場を幻視するマディソンはある時それがただの幻覚ではなく現実の事件だと知る。なぜ自分がそんな光景を見るのか、その殺人事件の犯人は誰なのかを探っていく物語。
 ホラーの構造上、話が進む中で怪奇の対象が解明されてしまう事により恐怖が薄れ、後は演出や音響によりビックリさせる方向にシフトせざるを得ないという弱点がある(偏見かもしれない)が、本作はそこを完全に割り切って勢いの良いアクションをこれでもかと披露する思い切りの良さが痛快だった。上映中何度アクションシーンを観て「フェイタリティ!」と叫びそうになったか(これは鑑賞後に知ったことだが映画『モータルコンバット』の監督もジェームズ・ワンだった)。

2位:『ファニーフィンガーズ』R・A・ラファティ
 2021年12月末現在で刊行されたてホヤホヤの『ラファティ・ベスト・コレクション2』の表題作を飾る短編。ちなみに選者が古本屋で本短編の邦訳が掲載されているSFマガジン2002年8月号を発見し、ルンルン気分で帰路についたのが昨年末の事である。正直もう少し早く復刊を知りたかったというのが本音だが、より多くの人が気軽にラファティを読めると思うと、喜ばしい限りである。いったいどこから目線なのか。
 本短編の主人公はオーリャド・ファニーフィンガーズ。この少女もラファティの作品にしばしば登場する超常的な力を持った子供であり、彼女は鉄からあらゆるものを作り出す。犬も、宿題の解答も、新たな概念も。そんな彼女は鉄と同じくらい、いやそれよりももっともっと、周囲がくぼみ、読者の意識が歪められてしまうくらいヘビーだ。そんなヘビーな彼女についての物語もラファティは軽やかに語る。だってこれは彼のほら話なのだから。

1位:『最終兵器彼女』高橋しん
 1999~2001年にかけてビッグコミックスピリッツで連載されたSF漫画であり、セカイ系を代表する作品のうちの一つである。
 自分は世界が終わる物語が好きだ。人が考えた世界を終わらせる方法を知るのが好きだ。世界の終わりを望むくせに、その終わりはただの終わり以上に何かの意味があると考える人が好きだ。それは限りなく傲慢で浅薄でご都合主義的な考えで、けれど剥き出しの本能だ。この作品はそれを徹底的に描き出している。だからこんなにもかき乱されるのだ。
 自分も少女に「実を言うと、地球はもうだめです。」と丸っこい文字で伝えられたい。

 以上が2021年に触れて印象深かった作品ベスト5だ。こういったランキングを作成するのは初めての試みであり、色々と目につく点もあったかと思うが、それでもここまで読んで頂いた方に心からの感謝を。それではまた次の機会で。

P.S.ちなみに思い入れが強すぎて殿堂入りした作品は『シン・エヴァ』のほか、『エウレカセブン ハイエボリューション』、『月姫-A piece of blue glass moon-』など。『月姫』は全人類買って遊んでくれ。

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