会員が選ぶ2021年ベスト5 選者:XTC

※先にお断りさせていただきますが、このベストは選者が2021年に出会った作品のなかからこれは、と思ったもので構成されているため、今年の新作以外もランクインしている可能性がございます。何せ超個人的なので。だからといって、怒り狂いながらCtrl+F4(⌘+Wかもしれない)に指を添えるのはやめてください。もしかしたらまだ見ぬ新作・掘り出し作に出会えるかもしれないし、ふつうに出会えないかもしれません。超個人的なので。別に今年出たSF作品を5つも選び抜くほどSFに触れてないとか、そういうことじゃありません。超個人的なだけです。本当です。

 では。

第5位〜〜〜〜!


三体 iii 死神永生 劉慈欣
 
 もはや言わずと知れた中国SFブームの牽引役。その超人気作品の完結篇の和訳が登場したのが今年の五月。大学入学間もなく感染状況が悪化し、オンライン授業に移行して鬱屈としたなかで垂涎の思いで手に取ったのを覚えている。第二部までと同じように一度ページを捲ったが最後、手放せない。買った日の夜に読み始めて次に目をあげたときには薄明の眼差しが窓の向こうに顔を出していた。ヒリヒリとした頭脳戦が展開されていた第二部からのイメージとは打って変わって、どこまでも人間を、異星人を信じる程心の姿にもどかしさを覚えながら、それが作者の希望を託した姿なのかもしれない、と気づいたのは近所の川辺で日の出をぼーっと眺めているときだった。

第4位〜〜〜〜!

シン・エヴァンゲリオン劇場版 カラー(監督:庵野秀明)
 
 他の会員が小説メインで選んでいるようなので、あえて媒体は幅広く。こちらもわざわざ語るところはないのではないか。ただ一言「おれは最終学歴エヴァンゲリオンなのだ」と言えればそれで十分である。

第3位〜〜〜〜!

死都調布 ミステリー・アメリカ 斎藤潤一郎
 
 2017年から続く死都調布シリーズ、そのコミックス3冊目。ハードボイルドという言葉だけでしか説明されないその得体の知れなさは、読むまで決して掴めないし、読んだところでどうとも言えない。ハードボイルドSFというと、カウボーイビバップだとか地上最後の刑事シリーズとかを思い浮かべる人も多いだろうが、この読んでいる間の「なんだこれは」とただ圧倒される感じといい、シトウチヨというキャラクターの「強さ」といい、個人的にこの作品には新たなハードボイルドSFの冠をつけたいと思えるのだ。

第2位〜〜〜〜!

異常論文所収 解説──最後のレナディアン語通訳 伴名練

 今年もSF界に種々多様なアンソロジーが放たれた。その中でも、執筆陣の豪華さやコンセプトの奇抜さで話題を掻っ攫っていたのが本書である。今回はそのうち最後に収録されている伴名練の短編を選んだ。レナディアン語という一つの人工言語をめぐる謎が論文というよりルポに近い文体で淡々と詳らかにされていくのだが、人工言語に対する着眼点といい、物語の構成といい、極めて完成された一作だ。胸焼けしそうなほど「異常」濃度の高い本アンソロジーの最後にこの作品を持ってくるのは大正解だなあ、と勝手に思ってしまった。

そして栄えある第1位は!!!

康熙字典

 そんなのありなの、と思ったそこのあなた。大丈夫です。超個人的なので。
 平野啓一郎の一月物語を今年の春ごろ初めて読んで、その装飾的で衒学的な文体に今更ながら衝撃を受けた。しかも単に装飾的なだけでなく、その文体が究極に妖艶な空気を物語に纏わせている。何これ、めちゃくちゃカッコいいじゃん。泉鏡花にも通ずる雰囲気を感じて調べていると、それもそのはず、ふたりとも康熙字典を持っていたらしい。ということで買ってしまった。すでに見たことも聞いたこともないような漢字に熟語が目の前を跳梁跋扈している気がする。2、3回くらいしか開いたことないけど。一家に一冊、康熙字典。最強の積み本である。

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