会員が選ぶ2021年ベスト5 選者:昏猫

 2021年に刊行された物の中から選んだ。完全に個人的な趣味に寄っており、刺さる刺さらない等あるかとは思うが、これらが珠玉の作品達であることは間違いない。自信を持ってお勧めできる。


5.三体 iii 死神永生 劉慈欣

 恥ずかしながら「三体」すら読んでいなかったのだが(「お前それでもSF研会員か!?」とハードカバーの角で殴られたりしない優しいSF研だったので助かりました)、5月の「三体iii死神永生」刊行を機に読み始めてみたら、面白くて仕方なかった。計五巻を一気読みすることになった。スケールの大きさ、その拡がりは、今年どころか、人生で読んだ中でも間違いなく最大級の超大作。
 SFっていいなっておもいました。

  
4.アウトサイダー スティーブン・キング

 2018年出版(アメリカ)の、スティーブン・キング最新作。21年3月本邦出版。
『ミスター・メルセデス』以下三部作に登場するホリーギブニーがメインキャラクターである(20年出版のIf It Bleedsにも彼女の活躍が描かれているようで、邦訳が待ち遠しい)上、描かれるのは『IT』や『呪われた町』を思わせる恐怖との闘いである。これは嬉しい。

 やはりキング。我らのキング。まずクライムサスペンスとして、とにかく巧い。ひとつの残虐かつ不可解極まる事件を皮切りに、複数の人間が不条理に巻き込まれていく。二つの場所に同時に人間が存在する不可能性それ自体に(私自身そのジャンルに関しては門外漢なので控えめに言うと)ミステリ的な新しさはあまり感じられ無いだろう。しかしそれを読ませるのがキングである。不可能性への解答が「超自然」にあり、その不可能性を受け入れるか否かという各人の葛藤——ひとたび受け入れてしまえば、人々が依拠している常識や摂理、つまるところ我々が安穏と日常を送っていた世界そのものが転覆しかねない——それが、恐怖に立ち向かうという、この作家に通底する主題である。そこには各々の立場や、逡巡、覚悟がある。その描き方が巧い。そして怒涛の後半戦はなんといってもキングらしく、疾走感と恐怖が大挙して押し寄せて来る。
 どの過去作品に引けを取らない——それどころか、抜群に面白い大作。キングをあまり読まない人にも間違いなくおすすめできる。ただし、やや分厚い。


3.まぜるな危険 高野史緒 

 ロシア文学×SF。その発想自体の面白さもさることながら、折々に覗く作者のユーモアが光っている。諸作品の混ぜ合わせに留まらず(差し挟まれる小ネタにニヤニヤする楽しみもあり、それはそれで大好きなのだが)、独特の勢いや空気感の中で展開される筋運び、そして予想できないところで急に訪れる諧謔と脱力感。読んでて非常に楽しくなった。いや、もう大好き。
 読書会でも好評でした。
 著者は『カラマーゾフの妹』で江戸川乱歩賞を受賞した他、歴史改変SFの名手であり、その偉才が存分に揮われたデビュー作『ムジカマキーナ』も並んで推したい。


2.感応グラン=ギニョル 空木春宵

 第2回創元SF短編賞佳作(「繭の見る夢」)にてデビューして以来、初の単著となる本作。
 掲載されている短編達はいずれも退廃的で耽美的な幻想小説の一級品だが、その舞台装置はSF的で、ものの見事に溶け合っている。異色の雰囲気に彩られた世界の中、身体と情念の交わりとしての、少女らの官能や痛みを描くその筆致がとにかく味わい深い。
 SF的装置によって感覚や情感の共有が実現するとしたらふつう、身体性からの脱却がまず想像されるではないだろうか。真にスピリチュアルな交わり、魂と化してひとつになる存在。仮想現実の開拓が進む現代社会においてもその萌芽は垣間見える。
 しかし、ここでは登場人物たちはあくまでも(いや、むしろより一層)痛みや官能というものに絡めとられ、犯され、恍惚として四肢を絡め合う。情念とはつまるところ躰に縫い取られた甘美な地獄絵図ではないか。などと思う。
 個人的に性癖(広義)ド真ん中の短編集。今後の作品が楽しみな作家さんです。


1.高原英理恐怖譚集成 高原英理

 粒揃いの十二篇。国内ゴシック綺譚の真髄と言っても過言ではないかもしれない。
 もし家が焼け、怪奇・幻想小説を一冊持って逃げねばならなくなったとしたら、間違いなくこの一冊を選ぶ。

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