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【ネタバレ】「君たちはどう生きるか」感想

観てきました。
数ヶ月前から有休でカレンダーを抑え、数日前からよくわからない緊張のあまり腹筋が攣るなどした。

まず前提を書いておくと、私は全クリエーターの中で一番好きなのは宮崎駿監督であり、監督作品のみならずアニメーター参加作品も殆ど見ているし、推薦している本などもかなり読んでいると思う。
職業人として必要なあらゆることを宮崎作品や宮崎さんのインタビュー、テキストから学んできた。
そういった宮崎駿至上主義者の偏った意見だと思って読んでいただきたい。

全体構成と後半のツギハギ感

前半は「昭和和製ファンタジー児童文学」といった趣で「なるほど、ありそうでなかったな」というジャンル感。
さすがの児童文学経験値を感じさせる「親」「死」「嘘」の王道モチーフ、インナートリップと異世界を重ねる展開で、ゆったり現実と幻想が混ざり合っていくプロセスも面白く、父親や義母のキャラクターも奥行きが感じられ、ややホラー味もあり落ち着いた中にもテンションを感じさせる巧みさがあり、かなり好きだ。
狂人の大叔父が作った謎の塔というのもルードヴィヒ的でそそる設定だし、宮崎さんは一時江戸川乱歩の幽霊塔にも入れ込んでいたので、この時点ではそういったロケーション的魅力の方向に行くのかと思っていた。
前半の道具を自作するプロセスをゆっくり見せる所も好きだったけど、全然あとに活きなかったのは残念。
これが中盤からいざ異世界へ行くと今までの宮崎作品のダイジェスト的になっていき、ラストはいつもの崩壊エンドを迎える。
キレイに終わらないのはいつものことなのだが、そこにねじ伏せてきた往年の剛腕は感じられず、アニメーターの王であり私の神である宮崎駿というクリエーターの衰えは感じた。
カリ城の挫折感から予定調和を拒否し、カリ城から崩壊ラストを反復してきた宮崎さんが最終作で壮大に作品ごとメタ的に崩壊していく様は、高畑さんの最終作である歴代の中で一番先鋭化した「かぐや姫」とある意味好対象に感じる。
物語終盤に向けて次第に自作の引用のような演出が増えていき、しかもその元ネタもどんどんと時系列的に遡っていき最終的に旧東映動画的「漫画映画」調に巻き戻っていく。
ラストの塔の活劇パートなど明らかに「長靴をはいた猫」を彷彿とさせて、急に出てきたインコの王は長猫の魔王にそっくりだ。大塚康生さん高畑勲さん亡き今、宮崎さんが一人残されて東映「漫画映画」をやってるのは長年の宮崎駿ファンとしては胸に迫るものがあった。
全編に通底する死のイメージと、時間を超えた母親との邂逅というモチーフは「すずめの戸締まり」と重なるところがあるが、前者が被災者からすると余計なお世話だよ!という印象だったのに対して、さすが80代の死への悼みは自然で嫌味がない。

世界のリセットとナウシカ

終盤のメタフィクション的な(鏡の国のアリスを彷彿とさせるような)大叔父=創造主の登場を、宮崎駿監督自身やアニメ制作論を重ねて読む向きはあるだろうと思う。
木村拓哉氏の再起用などもあり題材的にも「ハウルの動く城」との類似性は指摘できるだろうし、本来ハウルの監督予定だった細田守監督の「ハウルの動く城」の自身の挫折感を反映した「お祭り男爵」と対比的に読み解くことも可能かもしれない。
もしかすると宮崎さん自身、その読み筋を意図しているのかもしれないが、個人的にはあまりそこには乗れなかった。
そもそもあまりにも影響を受けているので、自分にとっての宮崎さんは「宮崎作品の創造主」ということに留まらないからかもしれない。
ここ、うまく言語化するのが難しいのだが、宮崎さんが作品内であがいて巻き戻っていくという手法的表現的メタさは胸を打つのだが、宮崎さんが創作自体を抽象化して作品内で語っているという視点のメタ読みは個人的にはあまり共感しなかった。
その切り口は他の人に譲るとしよう。
個人的にはそれらも内包したもう少し普遍的な物語に感じたし、終盤一番連想したのは、やはり漫画版ナウシカの終盤「庭」と「墓所」だ。
ナウシカが巨神兵オーマの「母」となっているところも類似性を感じる。
そのテーマが本映画内だけで説明できているかと言われると疑問も残るが、問いかけている事はかなり近いと感じた。
ただし漫画版ナウシカはここで「いのちは闇の中にまたたく光だ!」と明瞭に言い放ってみせる。(屈指の名台詞だ)
対して本作は主人公が明確に決断せずになし崩し的に崩壊に向かう。
これは意図的にこうしたのだと感じた。「世界は往々にしてそうなのだ」と。
憶測だが、今の世界の一部を形作った、つまり墓所側と自覚のある現在の宮崎さんにはナウシカの意思すらも「嘘」だと感じてしまうのかもしれない。
しかしラストに提示される希望は重なるように思う。
漫画ナウシカについてもここでも書くと無限になってしまうので過去のリンク貼っときます…が未読の人は今すぐブラウザを閉じて漫画版ナウシカ読んで下さい。

デザイン系の弱さ

アニメーションとしては設定系全般が歴代の中では弱い印象で、異世界の美術設定やアオサギや鳥たちなどキャラクターデザインも今までの作品に比べると弱く感じた。
ナンセンス異世界探訪でもデザインやアイディアでやりきれる事は、不思議の国のアリスでとっくに証明済みであり(そうするには前半が長すぎるが)本作おそらく辻褄を指摘する人たちがYou TubeやTwitterに湧くだろうが、些末が気になってしまうのは、やはりフィルムとして「弱い」からだと思う。
私からは神の如き無尽蔵に見えたあの宮崎駿のアイディアの引き出しも、やはり有限なのだ。
落とされた直後の海辺の世界観なども広がりがあって楽しかったが、あまり終盤と繋がらず全体としては浮いてしまっていて残念だった。
(あの辺りはなんとなく原作ゲド戦記っぽさを感じて、影との戦い的な展開を予感したりもした)

色々書きましたが、往年のフィルムの凄味はないけど、同時にジブリらしく万人に楽しく見れる活劇だし、何よりも宮崎さんへの心から感謝とお疲れさまを叫びたくなる作品だった。

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