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藤田嗣治の戦争画

 今年もまた終戦記念日がやってくる。敗戦から78回目の夏だ。そんな戦争を思う時期に藤田嗣治の戦争画を見ることで、その時代に藤田が何を思って制作をしていたのかに思いをめぐらせてみませんか。
 軽井沢安東美術館(長野県佐久郡軽井沢町軽井沢東43-10)では、夏の特集展示として「戦争の時代の藤田嗣治 1937-1945年」を2023年8月3日(木)より9月12日(火)まで開催する。
 同企画では、所蔵する100号のポスター原画《勇敢なる神風特攻隊》(1944年頃)を初公開。また同時期に描いた《佛印・河内 安南人町》(1943年)、《武漢三鎮陥落の日》(1938年)も併せて展示される。 

(中央)《勇敢なる神風特攻隊》1944年頃、油彩・キャンバス (左)《群犬》1936年頃、水彩、墨・紙 (右)《佛印・河内、安南人形》1943年、油彩・キャンバス

 日中戦争が勃発した1937年、日本に帰国していた藤田は、そのまま定住をする決意をもって、東京・麹町六番町に自宅兼アトリエを構えて、精力的に制作を続けた。1939-1940年は一時的にフランスと往復はしたものの、戦中戦後の動乱の世を日本において過ごした。
 藤田の戦争画を公開するとともに、藤田自身の文章や言葉も紹介しながら、この時代に藤田が何を思っていたのかを、考える機会にしたい。
 また土門拳記念館の協力を得て、この時代に土門拳が撮影した貴重な藤田のポートレイト写真資料についても紹介する。

《額縁を作る》1941年 撮影:土門拳


《猫とくつろぐ》1941年 撮影:土門拳

 特集展示は展示室3(一部)・特別展示室で行われる。
 1970年、アメリカ政府は押収した戦争画153点を「永久貸与」という形で日本に返還してきた。作品はただちに近代美術館に収蔵された。
 公開要求があったが、おそらくは著作権者の圧力、あるいは政府側の思惑もあってか、公開も移管もされず隠匿されていた(北村小夜著「画家たちの戦争責任ー藤田嗣治の「アッツ島玉砕」をとおして考える」梨の木舎)。
 2006年、藤田の生誕120年記念の展覧会が近代美術館で開かれた。戦争画は《アッツ島玉砕》(1943年)、《血戦ガダルカナル》(1944年)を含む5点が公開された。
 評論家の加藤周一は、その当時、藤田は戦争画を描く以外には選択の余地はなかっただろうとした。
 そして加藤は書いた「その画面には戦争賛美も、軍人の英雄化も、戦意昂揚の気配さえもないー藤田は確かに軍部に協力して描いたが、戦争を描いたのではなく、戦場の極端な悲惨さをまさに迫真的に描き出したのである」。
 開館時間は午前10時から午後5時まで(入館は午後4時半まで)。休館日は水曜日(祝日の場合は開館。翌平日が休館となる)。観覧料は一般2300円、高校生以下1100円、未就学児無料。
 チケットはオンラインでも購入可能。その場合、100円引きとなる。
 なお、企画展「藤田嗣治 猫と少女の部屋」も9月12日(火)まで開催中。藤田が約1年というニューヨーク滞在中に描いた《猫の教室》(1949年)はじめ全5点の初公開を含む約120点の作品が楽しめる。
 また、『藤田嗣治 安東コレクションより 猫の本』(軽井沢安東美術館編)も世界文化社から発売中。猫好き、アート好き、藤田嗣治ファンは必見。安東コレクション全ての「猫」を掲載している。佐藤幸宏、林洋子、室井滋らによるコラムも充実している。
 軽井沢安東美術館の電話番号は0267-42-1230.公式サイトはhttps://www.musee-ando.com/□。

 

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