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ビートルズは何を歌った?

 【スピリチュアル・ビートルズ】「ビートルズは何を歌っているのか?」と題したトークイベントが2023年9月2日(土)に新宿文化センター(東京都新宿区新宿6-14-1)で開かれた。これはピーター・バラカンさんの出前DJとして行われたものでゲストは翻訳家・編集者・音楽ライターの朝日順子さんだった。


 まずはイベントの本題に入った後半から見て行こう。最初に取り上げられたのが主にジョン・レノンのペンになる「All you need is love(愛こそはすべて)」。朝日さんは言った「日本ではこの曲の歌詞の解釈が2つに分かれているので、今日はネイティブのピーターさんにお聞きしたい」。
 この歌詞は「やろうと思えば何でもやれるのか?それともそうでないのか?」ーーバラカンさんはサビを除いた部分を順番に訳していった。
 「There's nothing you can do that can't be done/Nothing you can sing that can't be sung/Nothing you can say/But you can learn how to play the game/It's easyーあなたに出来ることってのは出来ないことはない。あなたに出来るなら誰でも出来る。あなたが特別なわけではない。何も言えないが世の中の渡り方が身につくようなものだ」。
 「Nothing you can make that can't be made/No one you can save that can't be saved/Nothing you can do/But you can learn how to be you in time/It's easyーあなたにつくれるものなら誰でもつくれる。君に救える人というのは他の人も救える。君が特別ではないんだよ。そのうち自分らしく生きるすべを身につけることが出来る」。
 「Nothing you can know that isn's known/Nothing you can see that isn't shown/Nowhere you can be/That isn't where you're meant to be/It's easyー 君が得られるものはみんな世の中にあるもの。君に見えるものは見せてもらえるもの。君が行くところってのは行くべきところ、いるべきところ」。
 バラカンさんは訳した最後のNowhereからの部分について「カルマの法則のよう。この曲が書かれたのはマハリシのところに行く前だけど東洋の教えのような感じです」と興味深げに語った。
 「二重否定のようになるので英語ネイティブでないと考えすぎてしまう傾向があります」とバラカンさんは話した。

「All you need is love」「Blue Jay Way」が収録された『Magical Mystery Tour』


 次は朝日さんが選んだジョージ・ハリスン作の「Blue Jay Way」。「これは通りの名前です。ジョージはデレク・テイラーが来るのを待っていたのですが、来ないので歌を作り始めました。人を待っている歌詞です」。
 歌詞に「Well it only goes to show/And I told them where to go/Ask a policeman on the street/There's so many there to meet」とある。要するに「通りにはたくさんの警察官がいるから、道に迷っても警察官に聞けばいい」ということだと朝日さんは説明した。
 これはどういうことか?
 「ハリウッドのところにいくつもクラブがあって若者がたむろしていた。しかし、市が門限を決めたので若者たちによるデモが起こった。カウンター・ムーブメントの最初のきっかけとされています。何か月も警察官がハリウッドからキャニオンまでずらっと立っている時期があって、ジョージは同じ時期にそこにいて、歌ったのがこの曲」だと朝日さんは解説した。
 その若者のデモを歌ったのがバッファロー・スプリングフィールドの「For what it's worth」という作品なのだと朝日さんは指摘し、「歴史として、ビートルズのBlue Jay Wayがスプリングフィールドの歌とつながっているというのが興味深かったです」と述べた。
 バラカンさんは「Blue Jay Wayをグーグルマップで見てみると、Birds Streetというのがありました。鳥の名前が通りについている。Blue Jay WayのBlue Jayというのはアオカケスのこと」と補足説明をした。
 テレビ映画「Magical Mystery Tour」でジョージが地面に座ってこの曲を歌っている場面で、彼の横の地面に「2 wives」と書いてあると朝日さんは指摘した。これはよく乞食とかが「私には3人子どもがいます」とか書いておカネを恵んでほしいと訴える時に使う言葉だという。
 「クリシュナにでもなったつもりで、何人もの女の人に手を出していたから、それもあっての2 wivesだったのかな」と朝日さん。
 そして次は「Nowhere Man」。バラカンさんは「Nowhere Manという言い方は普通はしない」と言って順番に訳していった。
 途中の「He's as blind as he can be/Just sees what he wants to see/Nowhere man, can you see me at all」は要するに「彼は何も見えてない。見たいものしか見えてない。ぼくのことなんか少しでも覚えているの?」ということだとした。
 そしてバラカンさんは「今はSNSの時代。自分が関心のあるものだけ、意見が同じ人だけと行動する傾向がますます強くなっています。この歌詞をみると昔からそのようなことを言っていた」と述べた。
 そして最後の部分「He’s a real nowhere man/Sitting in his nowhere land/Making all his nowhere plans for nobodyーなんもかもない男ったら、なんもかもないところに行って、誰のためにもならない計画を立てている」。

「Nowhere Man」を収録した『Rubber Soul』


  ビートルズの楽曲で今回分析する最後は「Help」。
「映画はそんなに面白く思わなかったけれど、アルバムは意外にいいんですね。タイトル曲も最初聞いた時、ジョンが助けてと真剣に言っているとは考えもしなかった。だいぶ後になってテンポを抑えたヴァージョンを聞いて、そういうことかと思いました」とバラカンさんは言った。
 バラカンさんと朝日さんはカバー曲の話もした。バラカンさんは好きなカバーとしてジェフ・ベックの「She's a woman」とスティービー・ワンダーの「We can work it out」を挙げた。朝日さんはアーサー・コンリーの「Ob-la-di Ob-la-da」を紹介するとバラカンさんは「ご機嫌だね」。
 前半部分は「ビートルズはどういうものから影響を受けたか?」をテーマに進められた。スキッフルの話、ジョージ・マーティンが手掛けたバイパース・スキッフル・グループの「No other baby」(ポール・マカートニーは1999年にアルバム「Run Devil Run」でカバー)の話、「Love me do」の「doって何?」という話などで進められた。
 およそ2週間前にイギリスに行ってきた朝日さんからは折に触れ、ロンドンやリバプールからの貴重な報告が写真つきであった。

朝日順子著「ビートルズは何を歌っているのか?」(CDジャーナル)
新宿文化センター外観

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