散歩の再開(Pさん)

 趣味の散歩を再開した。
 散歩が趣味だったのははるか前で、もう五年くらい酔狂な散歩は行っていなかった。今日それをやったけれども、案外いいものだと思った。
 いつも迷って仕方がない本の表紙も、散歩中に撮った適当な写真にしてしまえばいい。
 散歩は、言ってしまえばつまらないようだけど何だか印象深い光景がどんどん降り積もることと、頭の中で何らかの考えが沸いてくるのと、第一に健康にいいので、何かしら結果が出るまでは、続けようと思う。

 方南町の外れに、妙にスケール感の大きいタクシー配車の建物と、隣接したガソリンスタンドがあった。
 どちらも独特で、大げさな曲線を使用した立体交差がタクシー配車の建物にあったり、ガソリンスタンドは妙に天井が高かったりした。
 ガソリンスタンドは名義上は別の建物になっているが、基本的にはそのタクシー会社が使っているといった風体だった。社員食堂の厨房は別の会社だというのと同じ具合に見えた、もっとも外から見た印象であって、本当にそうなのかわからない。ガソリンスタンドのやや内側に置いてある自動販売機も、内にこもっているのか外に開かれているのかわからないという佇まいだった。

 高低差の激しい自然公園の中で、落ち葉に紛れているように、三人のカメラマンが、ものも言わずにカメラを構えていた。一人の腕章かなにかに「野鳥」と書かれていた気がする。野鳥が逃げるから、誰も一言も喋らないんだろうか。一人はしゃがんで猫を撫でていた。仲のいい性的関係のない三人が同居しているアパートの一室を洒落て撮っている映画のような雰囲気があった。

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