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2021-04-18 大田区多摩川新緑マラソン 10km

レースに申し込んだのは新型コロナ禍の第三波をやり過ごすための2回目の緊急事態宣言下だった。人々の緩みを避けるために、緊急事態は歓送迎会が予定されそうな年度末までは続き、ちょうどレース当日は感染者が少なくなるんじゃないかと期待していた。

ところが思いの外早く宣言は解除になり、案の定、あっという間に第4波が猛威を奮い始めた。関西に続いてまもなく東京にも蔓延防止等重点措置が下された。三度目の緊急事態が発令されれば大会は中止になるかもしれない。東京都の新型コロナパーソナルサポートの速報をやや邪な気持ちで受け止めていた。

悪いことに二、三日前の予報では当日は春の嵐がやってくるという。今年の週末は荒れやすい。おかげで週末の人の出が抑えられている面はある。雨は堪えるとしても、強風とのダブルパンチはキツそうだ。レースの前日、自宅のテラスを片付け、物干し竿をしまい、枕元に耳栓を用意して夜通し荒れる天気に備えた。耳栓の世話にはならず、よく寝た。

起きてみれば、風はそよいでいるもののきれいに晴れ渡った青空だった。

レースのインストラクションの指示は、更衣室がなく、無観客、すぐに走れる格好で来るようにとのことだった。妻に荷物の番を兼ねて応援してもらえないとなると、荷物を切り詰めないといけない。受付での提出書類と自宅のカードキーは帽子の中。補助栄養剤は持参しないで必要になったら現地調達することにした。砂埃対策にサングラスと池上線メドレーを聴くためのヘッドセットは欠かせない。音楽にはある種の麻薬効果があるとチコちゃんが言ってた。

なにせレース初参加、先輩のお誘いがあったわけでもないから、現地の様子がよくわからない。インストラクションでは、周回コースらしいけれど、どこを走るのかよくわからない。そもそも、集合場所が大雑把に区民広場とだけ書かれているが、現地に看板らしいものがなくはっきりしない。パイロンがたくさん並んでいるあたりがそれらしいので小走りに迎えば、そこが受付だった。コロナ対策の誓約書兼健康状態報告書を提出すると、ゼッケン、記録用のICタグ、パンフレット、ビニール袋、参加賞のTシャツを渡された。区民公園のトラックの中にブルーシートが敷かれ、荷物はビニール袋にまとめておいとけばよいらしい。なんだ、着替えとアミノバイタルを持ってくればよかった。広場では腰にタオルを舞いて、ランニングパンツを普通の木綿のパンツにはきかえようと格闘している男性がいた。衆目監視のなか猛者だ。

午前中にフルマラソンをはじめとする長距離種目が開催され、昼過ぎからは 10km 以下の短距離のレースとなる。10km 種目は 2.5km の周回コースを4周する。ショットガンスタートという各走者が所定の場所を通り過ぎた時を基準に時刻を計測する方式が採用されている。この計測のためにゼッケンにICタグが取り付けられている。

六郷緑地と新多摩川大橋の手前を往復するこのコースは普段の練習で何度か走ったことがある。スタート地点は普段なら走りやすい舗装路だが、昨夜の大雨で道がぬかるみ、大きな水溜りができている。先行する種目のランナーたちが歩幅を変え、大きくジャンプをして泥水を避けている。

左手に砂山がつづき、それをショベルカーが掘り返すために粉塵がひどいところだ。いつも風が強く、埃から目を守るためにサングラスを持ってきた。

この砂山が途切れたあたりから川は大きく左に蛇行し、砂利道になる。折り返しは多摩川大橋の少し手前と聞いている。

折り返す地点からは川沿いの舗装された散策路になる。右手の川の淵には植栽が木陰をつくり、風を和らげてくれる。気持ちの良い景色だが、普段の練習では散歩の人の迷惑を考えて走らないようにしている。

先ほどの砂山を今度は左手に見ながら進むと、砂山が途切れたあたりが区民公園の端にあたる。広い芝生にトラックが刻まれ、それをさらに大きく囲う形で芝生の上にコースが作られている。

スタートの10分ほど前に呼ばれ、ほどほどのところに並んでいたつもりが、隣の人と話しているうちにいつの間にか前方に並んでいた人々は姿を消し、先頭になっているではないか。ままよ。ヘッドセットに電源を入れたものの、なんとバッテリーがないと!どうやら、ミーティングのあと、電源を切らずに放置してしまったらしい。なんという不覚。チコちゃんお薦めの麻薬的な効果が失われてしまった。自力が試される。

レース前にはコースの概略、ICタグを使った記録、周回ごとに手首の輪ゴムを回収するシステム、正式な記録の発表方法などについて説明があった。先頭の人は合図があったら走り出し、あとは流れに任せればいいらしい。

後ろにはいかにも走り屋のような青年の集団がいる。大学の陸上部だろうか。

「スタート!」の声とともに走り出す。ひとまずは 5分10秒/km をキープ。スタート地点の水溜りを避けていると、「陸上部員」たちが鹿のように駆け抜けていく。速いなあ、すごい、すごい。スタート直後に20名近くが抜いて行っただろうか。僕の視野には僕より速い人の姿しか見えない。視野に見える平均速度に引っ張られ、最初の 1km はオーバーペースになった。4分40秒/km これはまずい。絶対に潰れる。頭で刻んでいた 16 部音符を三連符に変えてペースを調整して 5分10秒/km。

砂山が途切れたあたりから西風を正面にまともに受ける形となり、前に進まない。5分20秒/km。風との戦いが 1km くらい続いたところが折り返し地点。ここからは風に背中を押されるかと思ったらそうでもない。木立が吸収しているせいか?それでも、風のない、舗装された散歩道はありがたい。

復路の砂山が途切れた芝生が足に優しい。先週の練習で、白ウサギを見た場所だ。芝生に弧を描いたトラックを走るとスタート地点に戻る。ここを通過するたびに手首の輪ゴムを一本ずつ返す。僕らは4周しかしないけれど7周のハーフや14周のフルマラソンは輪ゴムがないと勘定は辛いだろう。

二周目から暑くなってきた。短パンにすればよかった。三周目は風がかなりつらくなってきた。疲れてきたのだろう。風のない復路のペースまで 5分30秒/km に落ちてしまった。あっ、三連符が二分音符になってた!ヘッドセットを充電しなかったことが悔やまれる。最後の一周は気力で走り切った。暑い、喉が渇く、水、水、水!あと 2km、最後の折り返しからはあと 5分の辛抱。予定ではここからピッチをあげるつもりだったけれど、そんな無謀なことはできない。5分10秒/kmをキープ。呼吸を意識しながら足を動かす。芝生になったところで 16部音符でスパート。ゴール手前で二人抜いたけれども、僕の方がスタートは早かったから、順位は彼らの方が上だろう。

何はともあれ水、水、水をください。ゴール側のテントでは水、スポーツドリンク、バナナ、梅干しがいただける。スタッフの皆さんありがとう!

暫定記録によれば、51分38.29秒。一万メートルの世界記録が 26分22秒なのでその半分よりは速かった。当面の目標は達成した。総合順位は 77 人中 25 位。40分 を切った人が 4 名。13 人の 50 代の中で 4 位。同世代の一番は 41分12.23秒。すごい!60 代で 45分11.50秒な人もいる!

コロナ禍の開催のため、無観客でゴールしたら帰るということで少し寂しい。普段なら、温泉に行ってちょいとひっかける感じだっただろう。

駐輪場でストレッチしていると、「お疲れ様」と高齢者が声をかけてきた。スタッフだという。そういえば、テントで梅干しを配ってた人だ。ほぼ、毎週、大会運営に関わっているそうだ。大会の準備のこと、ボランティアの団体のことをいろいろ教わった。来週は 100km のウルトラマラソンの運営で田園調布に出張るんだそうだ。けっこう楽しそうな老後だ。

帰りの池上線ではフルマラソンを走ったというフランス人が声をかけてくれた。34歳で15年くらい前に来日したという。三年前に始めたマラソンは毎年一回だけ参加してて、70歳まで続けるのが目標だという。今日の記録を見ても年齢がいっても元気に走っている人がいる。そういう目標もいいものだ。

日頃、一人寂しく走っていたけれど、こういうイベントを通してランナーたちは繋がれるんですね。惜しむらくは、みんなマスクをしていたこと、交流会がなかったこと。そうでなければ、一人で参加していた人々が集まって自然と宴会という流れだったんだろうな。

まずは、僕の最初のランニングイベント体験記でした。読んだいただいてありがとうございました。記事のちょっと下にある 🤍 を押してくれてもいいですよ。

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