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獣肉のこと

寒山拾得として、獣肉についての見解とイメージなどを書き連ねてみます。

直接お会いした方にはよく話す内容なのですが、思い返せばSNSなどでは自身の技術の未熟さ故の遠慮から、積極的な発信は控え目でした。
しかし、2022年は狩猟を始めて10年になる事と、現時点での忘備録として、各方面に恐れ多くも、ここらでひとつ書き留めて発信しようと思います。極めて個人的な獣肉観です。食肉業界的には割とノーマルな部分もあるかとも思います。5年後位には内容が変わっているかもしれません。

獣肉、ここでは自分の狩猟対象獣の鹿と猪ですが、肉として非常に好んで食べています。獣肉は畜肉よりも不飽和脂肪酸が多いので軽く食べれるし、栄養価も高いので、レストランよりも食卓でこそ食べて欲しいとも思います。
ライフワーク的趣味で6年、生業で4年間狩猟をし、未だに飽きることなく取り組んでいます。狩猟(罠猟での捕獲)自体が大変に愉しい。そして、その成果物としての「肉」が非常に旨い。正確には、時を経るごとに小さな革新が起こり、より旨くなっている実感があります。

ところで、肉の旨さ・美味さとはなにか。
先人、諸先輩の努力や研究を適宜掻い摘み、自分の試行錯誤と味覚の嗜好や偏見やらが絡み合いつつ、現時点での大きな要素として言えるのは、「水分量」「アミノ酸の含有量」「質感」です。
そして山の肉屋として、野生獣を要素を満たす美味しい肉に昇華させるために、最もウェイトの大きな工程は、枝肉(剥皮と内臓除去した状態)での「枯らし」にあります。

よく「ジビエって、血抜"が"大事なんですよね!?」と聞かれますが、血抜き"も"大事です、と答えます。血感が残って無さ過ぎる肉に、自分があまり魅力を感じにくい、というのもあります。
(畜肉の生産者か処理者にそんな質問せんやろ〜と思うけど、なんか狩猟ではお決まりの質問。未知の業界に対して、知っている限りの知識で距離を縮めてくれようとしているのは、凄い分かります)

基本的に、目指す味像の目標水準に達するためには、何かの要素の一点突破でクリアできる様な単純明快なものではなく、あらゆる工程の小さい積み重ねが必要だと考えています。
罠の設置場所による獣の捕獲状況の想定から始まり、捕獲方法、放血、解体、枝枯らし(熟成)、精肉、料理など、口に入るまでのあらゆる過程で「美味しさ」が積み重ねられていきます。
狩猟者として、ストレスを与えない捕獲状況と適切な放血、スピーディな解体を行い、山の肉屋として、ポテンシャルの高い食材となるように、トリミングやカットなどの精肉をします。
順序は前後して、解体ののち、個体毎に鹿で2週間前後、猪で1週間未満、枝枯らし(枝肉状態で熟成庫にぶら下げての水分調整)をします。

生業にする以前、モモやロースなど部位で寝かせて実験もしていましたが、切断面の衛生や歩留まり、水分の抜け加減など、仕上がりではやはり枝には敵いません。
また、数日間の枯らし(特に鹿)では、依然水分量が多すぎて風味が立っておらず、アミノ酸の含有も望むところまで伸びていないため、旨味を感じにくいです。

最初は水っぽくてあまり味のない残念な感じがする鹿肉ですが、枝枯らしを経たその味の変化は大きく、10日目くらいには味の輪郭がくっきりしてくる感じがします。水分(自由水)が適度に抜けつつ、たんぱく質の酵素分解によるアミノ酸の増加、それに伴う質感の変化もはっきりと現れます。
ロースはねっとりとした質感(赤身の魚肉に近い)で、モモはむっちりとした質感が際立ちます。何れも「滋味」という言葉に相応しい味わいになります。
猪は比較的すぐ食べても旨いにゃ旨いけど、やはり枯らした方が確実に旨く変化します。また、解体後の処置次第で100kg越えの個体でも、肉が硬い、とかは殆ど無いです。

現在の寒山拾得では以上のような工程を経て、個体ごとに出来るだけ目指すイメージになるように仕上げています。記述したことが全てではありませんが、おおよそこんな感じです。

余談。
猟師肉に有りがちな、獲ってすぐさま精肉した肉は上記の望むべき変化が無いばかりか、死後硬直を骨無しで超えるので、味が乗らない上に硬い肉になりがちです。基本的には「猟師」は捕獲するのが好きな人が多いので、そこに食肉処理の技量を期待するほうが無理筋ではあるとも思います。
具体的には、化学反応で収縮した筋肉が、骨付きならば骨に引っ張られて元の位置に解硬されるけど、骨無しならば収縮しっぱなしって事です。
いくら個体差があるとはいえ、獣肉の持つポテンシャルはもっと高く、その味はもっと美味しいです。

余談2。
獣肉のお褒めの言葉として、「臭くないんですね!」や、「硬くないんですね!」とかもよくいただくんですが、複雑な気持ちでいます。獣肉に対し、驚きを持って迎えていただけているかとは存じますが、否定語の打ち消しでもって、褒められている実感に乏しいのです。あなた、悪い人ではないですね!的な。笑

獣肉の「味」という属人的な事柄を、僕(ら夫婦)はそう思っている、という事の説明と言い訳を長々と垂れました。

最後までお付き合いありがとうございました。

https://kwanzanjittoku.com/


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