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ドワンゴ vs. FC2 ~日本の特許の効力は、どこまで及ぶのか!?~

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所 
弁護士 山本雄一郎(第一東京弁護士会所属)
弁護士 岸知咲(第二東京弁護士会所属)
弁護士 志村翼(第一東京弁護士会所属)

 5月26日、知的財産高等裁判所において、動画配信サービス「ニコニコ動画」を運営する株式会社ドワンゴが、「FC2動画」等の動画配信サービスを運営する米国法人FC2, INC.等を、特許権侵害で訴えた事件の控訴審判決がありました。

 問題となったのは、ニコニコ動画ではおなじみの、動画再生中にコメントを表示するシステムの特許権です。

 この件に関し、昨年3月、東京地方裁判所は、特許権侵害を認めず、株式会社ドワンゴの請求を棄却していました。しかし、今回の控訴審判決は、地裁の判断を覆して特許権侵害を認め、FC2, INC.に対して配信差止めと約1100万円の損害賠償を命じました。

 注目すべき争点は、海外にサーバを置く動画配信サイトによる日本国内のユーザ端末へのファイル配信行為が、日本で登録された特許権の侵害に当たるか否か、という点です。今回は、この点を中心に、第一審と控訴審の判決の概要をご紹介します。

1. 特許権の侵害とは

 特許権は、特許出願から20年の存続期間内において、業として特許発明を独占的に実施することができる権利です。特許権の効力は、特許権を登録した国の領域内に限られ、その領域を超えて外国までは及びません(これを「属地主義」といいます)。

 そして、他者が特許権者の許諾なしに、①当該特許発明の技術的範囲に属する発明を、②業として実施する行為は、特許権の侵害となります。ここでいう「実施」とは、特許が「物の発明」の場合、その物を生産(新たに作り出すこと)、使用、譲渡、貸渡、輸出又は輸入する等の行為をいい、「物を生産する方法の発明」の場合、その生産方法により物を生産したり、その方法により生産した物を使用、譲渡、貸渡、輸出又は輸入する等の行為を指します。

 特許権の侵害は、民事訴訟による差止め(特許法100条)、損害賠償(民法709条)、不当利得返還(民法703条)や刑事罰(特許法196条)等の対象となります。

2. 本件事案の概要

 株式会社ドワンゴ(「ドワンゴ」)は、発明の名称を「コメント配信システム」とする発明(「本件発明」)に係る特許権(「本件特許権」)を保有しています。

 他方、米国法人であるFC2, INC.は、インターネット上のコメント付き動画配信サービス(「本件サービス」)に係るシステム(「本件システム」)を運営しています。なお、同システムのサーバは米国に所在します。
今回、ドワンゴは、FC2, INC.に対して特許権の侵害があったとして、民事訴訟を提起し、特許法100条1項及び2項に基づく本件ファイルの日本国内に存在するユーザ端末への配信の差止め、サーバ用プログラムの抹消及びサーバの除却を求めるとともに、特許権侵害に基づく損害賠償請求の一部として1000万円及び遅延損害金の支払を求めました。

 第一審判決[1]を見ると、本件訴訟の争点は多岐にのぼり、概要、以下の点に整理できます。

 中でも注目されるのが、③の争点です。これは、より具体的に言えば、次のような問題です。

 さて、本件システムは、日本人も視聴するといえども、米国の法人であるFC2, INC.が運営するものです。また、サーバも米国にあります。それにもかかわらず、日本の特許法に基づく請求が認められるのでしょうか。

3. 地裁判断と高裁判断の比較

 第一審判決[1]、及び、知財高裁が現在公表している控訴審判決の要旨[2]によれば、③の争点について判断が分かれています。③の争点の根底には「属地主義」についての考え方があります。内容を比較すると、次のように整理できます。

4. コメント

 本件控訴審判決は、サーバとユーザの端末装置とを構成要素とするネットワーク型システムの発明について、サーバが国外に存在するとしても、日本国の領域内での「生産」(特許法2条3項1号)と評価し得る場合があることを示した知的財産高等裁判所の判決として、重要な意義を有します。ネットワーク型システムの発明に関する知的財産管理の実務においては、国境を越えて利用されることが当然想定されることから、本件控訴審判決の示した考慮要素を踏まえ、今後の対応の検討を行うことが求められます。

 なお、株式会社ドワンゴとFC2, INC.との間では、本件と類似の特許に関し、昨年も知財高裁の判断が示されています(知財高裁令和4年7月20日判決)。厳密には、本件とは争点が異なるものの、知財高裁は、その際も、属地主義について柔軟に解釈し、FC2, INC.による特許権侵害を認めました。本件についての上告の有無については不明ですが、上告された場合、最高裁が、属地主義に関して、どのような判断を示すのか、注目されます。

 また、本件訴訟は、令和3年の特許法改正によって新たに導入された証拠収集手続である第三者意見募集(特許法105条の2の11)が初めて実施されたケースです。第三者意見募集制度とは、特許権侵害訴訟等において、当事者の申立てに基づき裁判所が必要と認める場合に、広く第三者から裁判に必要な事項についての意見を募集し、当事者が証拠として提出できる制度です[3]。本件訴訟においては、この制度に基づき日本弁理士会等の第三者から多くの意見が提出されました[4]。第三者意見募集制度についての条文は簡潔であり、詳細は実際の運用に委ねられている面がありますが、本件訴訟は、第三者意見募集制度の運用に関する先例としての意義も有します。各企業等においては、本件控訴審判決における第三者意見募集制度の運用を確認のうえ今後の知的財産管理実務の参考とすることが考えられます。


[注釈]

[1]:東京地方裁判所 令和元年(ワ)第25152号特許権侵害差止等請求事件・令和4年3月24日判決

[2]:知的財産高等裁判所 令和4年(ネ)第10046号特許権侵害差止等請求控訴事件・令和5年5月26日判決「判決要旨」(なお、令和5年6月2日現在同控訴審判決の全文はウェブサイト上で未掲載です。)

[3]「特許法等の改正について」KWMインサイト

[4]:日本弁理士会「知的財産高等裁判所の第三者意見募集に対する意見」(令和4年11月24日)

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