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スタートレック:ピカード(PIC)に登場したヴァーディクという敵役を語る

アメリカの配信ドラマ、スタートレック・ピカード(PIC)のシーズン3に、ヴァーディクという可変種の敵役が登場した。

ピカード・シーズン3のレビューの中でも述べたが、ヴァーディクはスタトレ史上でも有数の敵役となったのではと思うので、その魅力についてまとめてみたい。

進化した可変種・ヴァーディク

ヴァーディクを演じるのはアマンダ・プラマーという女優さん。一見ひ弱で地味そうながら、圧倒的な存在感でピカードたちの敵として立ちはだかった。

ドミニオン戦争時(DS9のエピソード)、捕らえられた可変種として、惑星連邦の非人道的な科学者たちに実験対象とされた過去を持つ。

この人ね・・・もう、登場したときから魅了されてしまった。これほどの魅力を放ったスタトレの敵役は、かつていただろうか?いや、スタトレにとどまらず、「一見弱そうなただのおばちゃん」がここまでの敵に昇華したケースというのは、他の映画などを含めても珍しいかも知れない。

ということで、ヴァーディクが魅力的である理由を分析してみる。


魅力的な悪役の条件

魅力的な悪役の条件①ギャップ

「一見ひ弱そうなおばちゃんなのに凶悪な敵」という、強烈なギャップ自体がこのキャラクターの魅力の一つとなっている。

そのギャップは脚本上、緩急によって表現されることがあるが、これはヴァーディクの初登場のシーンから見て取れた。ショー艦長とのやり取りの中である。

ショー:「こんなことになるまでは上機嫌だったんだけどな」
ヴァ:「それを聞いて安心したよ。宇宙艦隊が出した公式な心理プロファイルのことを考えると、あんたにも残っていたんだねぇ・・・ええと・・・まともな機能が」

単なる賞金稼ぎと油断させておきつつ、宇宙艦隊の内情は何でも知っているという脅迫めいたセリフであるとともに、メタ的にはショー艦長の人となりを視聴者に説明する役割も果たしている。これはすごい脚本である。

あと、笑顔を凄みのある表情との使い分けが秀逸でもある。これは純粋に役者の力量によっている。

魅力的な悪役の条件②知性を感じる言い回し

いくら凶悪な悪役でも、ただのアホには視聴者は魅力を感じない。「知性」なり「哲学」が、魅力的な悪役には必須だと思う。例えば、アヴェンジャーズのサノスが、一見脳筋ぽい見た目ながら魅力的だったのは、サノスなりの「哲学」が感じられたからだと思う。

その意味で言えば、ヴァーディクのセリフは非常に知的で示唆に富んでいる。

ヴァ:「歯車で動く時計が消えてもう何世紀もたった今でも、あの音は決して消えやしない。ほら、聞こえるだろう・・・穏やかに、チクタクって、時を刻む音がさ!」(エピソード2)

ヴァ:「変幻自在の流動体、それは川と同じように、無数の方法で同じ海にいき着ける。だから今がある。ここにたどり着いた」(エピソード7)

これは脚本の力でもあるが、こういった一つ一つの言い回しは、ヴァーディクというキャラクターに魂を吹き込むうえで重要な役割を果たしている。


魅力的な悪役の条件③余裕と冷静さ

危機に陥ってパニくる敵役は、それだけで小物感満載となってしまう。いかなる状況においても余裕と自信を無くさないことこそ、敵役の「格」を決定づけるうえで基盤となる。

USSタイタンに乗艦後、フォースフィールドに囚われてしまったヴァーディクが見せる余裕と冷静さこそ、このキャラクターの最大の見せ場だろう。

クラッシャー&ピカード VS ヴァーディクの舌戦は見ごたえがある。囚われている側が、捕らえている側を圧倒し、ヴァーディクの一連の行動に明確な理由付けが与えられる。

魅力的な悪役の条件④予測不能性

これは①のギャップとも関連しているのだが、ヴァーディクの言動は全体的に「予測不能性」という属性も併せ持っている。

一見ひ弱そうだけど凶悪、笑顔を見せていたと思えば急に凄みを出す、これらは「予測不能性」の一環である。

そして、エピソード8のブリッジでの処刑シーンこそ、予測不能性の最たるものである。悪役って・・・こう描かなきゃ、という見本のような脚本である。

魅力的な悪役の条件⑤説得力のあるバックグラウンド

快楽殺人犯など、あえて明確な動機を作らないことでキャラクターに恐怖感を持たせる設定もありえるわけだけれど、それってあまりキャラの「魅力」には寄与しないんだよね~ バットマンのジョーカーにしても、バックグラウンドやそれなりの「哲学」はあるわけだし・・・

やはり、敵役に魂を吹き込むのは、「説得力のあるバックグラウンド」と「動機」である。

そういう意味では、大儀を掲げるはずの宇宙艦隊における、非人道的な実験によって生み出された新種の可変種、ということは、彼女の行動に強い説得力をもたらす。

彼女は、惑星連邦と和解したドミニオンの偉大なるつながりからも切り離された異端児であった。

それを引き立てる演出

ということで、優れた脚本と、それを演じる役者さんの力量で、スタトレ史上でも屈指の敵キャラとなったヴァーディクであるが、それを引き立たせる演出も輝きを放っている。

ブレブレ手持ちカメラによる臨場感の表出と、逆光、である。

特に、ヴァーディクのシーンは意図的に逆光が多用され、タバコの煙を光を目立たせるために使っているという演出がみられる。

新種可変種の可能性

ヴァーディクは死亡してしまったが、新種可変種は惑星連邦の新たな敵として、大きな可能性を持っていると思う。

出血大安売りで恐怖感が薄れてしまったボーグよりも、もっと活躍の機会があるように思うので、今後のシリーズでの再登場を願いたい。



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