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【模型】これはランナー酒が進むプラモだ 〜坂井精機 1/12 スーパー・ササダンゴ・マシン②〜

ランナー酒

プラモデルの楽しみ方はどうも組み立てて塗装して近くから眺めるだけではないらしい。
買ってきた箱を開けて中のランナーを取り出し、ランナーそのものを楽しむというのをどうやらランナー酒というらしいことを最近知った。
なるほどCADCAM化が進んで以来最近のプラモデルは金型の進歩が目覚ましく、超絶なディティールが目にも心地よいものが多くなってきた。
部品がランナーについた状態でそれぞれをシゲシゲと眺めては、なるほどこの分割はすげえや、おおこんなちっちぇえモールドのためにわざわざスライドにしてるのかなどと観賞するわけである。
私は酒を飲まないのでただいまコーヒーを飲みながら本稿を書いているのだけれども、ランナーを眺めながら金型加工の情景を想像したり、組み上がった状態をイメージするのはなかなか楽しい。
なるほど酒を飲む人なら酒も進むであろう。
また、プラモデルという製品はスチロール樹脂製の成形品だけで構成されているのではなく、組み立て説明書だったりデカールだったり、箱絵や箱書きなども結構楽しめる。
そういえばプラモデルの箱絵は昔ながらの油絵のものが今でも主流で、陰影の付け方や自然なシャドーの位置など結構塗装の参考になるものだ。
組み立て説明書は志の高いメーカーのものはモデル化されたものの実物に対する説明が詳しく載っているもので、キットに対する愛情が測れるというものだ。
大昔のタミヤの説明書などは読み物や資料として面白く、ファインモールドの説明書に至っては製本して出版して欲しいくらいだ。
このように、パッケージ設計も含めてプラモデルは楽しめる部分が結構あるもので、箱を開けてとっとと組み立てとっとと塗装して終わりという人はきっとマグロのカマの味を知らない人に違いない。
今回は、そんな「作る前のプラモデルの楽しみ方」のお話だが、坂井精機のスーパーササダンゴマシンのプラモは箱からしておいしく頂ける製品で、無駄になるところがまるでない。
サカナで言うならアンコウみたいなものだ。

箱からして素晴らしすぎる

ササダンゴ社長直筆サイン入り箱

BASEのササダンゴ商会の販売ページでは通常品とサイン入りのいずれかを選ぶことができ、サイン入りは納期がいつになるかわからないがとにかく頑張るといったようなことが書いてあった。
なので気長に待っていたところ、こんなすげえものがやってきた。
しかも坂井精機の日付入り社長印つきとは恐れ入った。
待った甲斐があるというものだ。

ところでこの箱だが、普通のプラモで使われているフタと箱本体に分かれたトムソン箱ではなくて、靴の箱を流用したものだそうだ。
何でもコート紙にカラー印刷をするとそれだけでコストがかかってしまうためこのような仕様になったとのことだ。
さらに恐ろしいことに一件印刷のように見える箱のいろんな文字や図案は実はひとつひとつスタンプで押されているのだそうで、ササダンゴ商会のnoteの記事でそれを知った時は「まさかな?」と思ったもので、実際手元に届いたものをシゲシゲと眺めてもしっかりした印刷で傾きもなく、セカンドロットからは印刷にしたのかなと思っていたら、たまたま濡れた手で触ったところのインクが滲んでいるのを発見、なんと伝説はまことであったか。
それにしても綺麗にスタンプされているのに大変感心させられる。
さすがは金型屋さんだけあって、正確無比でないと商売にならない業界は手作業ですごいことをやるもんだと再び感心、シールもしっかり直角が出ているが、きっと治具でも使っているのに違いない。

さてフルコースで言うならまずは前菜といったところだが、坂井精機と書かれた周囲に書いてあることがおかしくて仕方がない。
まずSince 1952 live in Niigata JAPANとあるが、直訳すると昭和27年から新潟に生息しているということになる。
ササダンゴ社長は1977年の生まれなので、1952年から住んでいると言うのは会社の坂井精機のことだと思うのだが、目の覚めるような表現だな。
それから会社URLだが、kanagata-is-sakaiseiki.comとは何事だ。
「金型は坂井精機」という意味で決めたのだと思うがあまりに直訳すぎて「金型イコール坂井精機」になっているのがおかしくてたまらない。
もし深謀遠慮のギャグだとしたら英国の「極度乾燥しなさい」ブランドなみの高等テクニックだ。

余談になるがこのブランドは中国時代香港でよく売られていたのを見かけたもので、歴としたイギリスの高級ブランドだ。
何でも来日したイギリス人が日本でSuperdryと書かれたビールを見てあまりのおかしさにたまげてしまい、日本製品にしばしば見られる英語もどきのインチキさ加減に対する痛烈な皮肉として「極度乾燥(しなさい)」というブランドを立ち上げたそうだ。
私などは香港の二階建て市バスのラッピング広告にデカデカと「極度乾燥(しなさい)」と書いてるのを見て、歩きながら食っていた豚モツ煮が鼻から飛び出しそうになったのを覚えている。
断っておくが「極度乾燥(しなさい)」は香港のTungcheungのアウトレットモールにも店を出していたくらいちゃんとした英国アパレルブランドで、よくあるインチキ日本語が書かれた中国製バッタTシャツなんかとは訳が違う。
私も帰国したら日系人ごっこでもやろうと思い、トレーナーを1枚買って帰ろうとしたら値段を見てたまげてしまったほどだ。
10年ほど前にこのブランドが日本に進出してきたと聞いて、何と度胸があることだろうと感心したが、さすがに売れ行きは伸びず同社日本法人は経営不振に陥っているとのこと、そりゃそうだろう。
ともかくも、どうせ外国語だからと思って適当に済ますと、それがわかる人にとっては鼻から豚モツが飛び出すくらいの衝撃を受けるということだ。
多分わかってやっていると思うので、すごく秀逸なジョークだと思う。

とんでもないランナー構成

ランナー構成

前菜の箱で結構腹が膨れてしまったが、メインディッシュはこれからだ。
ランナーは全部で7枚、うち2枚ある黒は小さい方がポリキャップだからPE樹脂だ。
他のものは同じPS樹脂なので普通だったらランナー2枚で十分収まるところ、成形色だけで見栄えがするよう色分けされているので、6枚ものランナーに分けられている。
それは成形コストが三倍かかることを意味するので、量産はなかなか大変だろう。
通常金型屋は金型を作るのが商売で、テストショットを打つための最低限の成型機しか持っておらず量産は外注のインジェクション成形屋に出すものだが、noteを読んでいるとどうも坂井精機はそのテストショット用成形機で量産パーツを作っているらしいので、これは大変だ。
社運を賭けるにしてもイバラの道すぎて客ながらハラハラする。

ランナー記号は「サ・カ・イ・ヨ・シ・ヒ・ロ」

真っ当なプラモデルだとそれぞれのランナーにはA、B、Cといったアルファベットが付与されていて、組み立て説明書ではそれぞれの部品をA13とかC29といったふうに表現する。
ところがササダンゴのプラモデルではあろうことかカタカナだ。
しかもイロハ順ですらなく、社長の名前「サカイヨシヒロ」になっている。
ササダンゴは何かのプレゼンテーションでこう語っていた。

「プラモデルは組み立てたらランナーは捨てられてしまいますよね?私は捨てられないプラモデルを作りたいんです。なのでランナーも捨てられないものにしたいんです。これがSDGsです。」

そういうわけで組み立て説明書ではそれぞれの部品はカ−15とかヨ−6というように表現されている。
こんなプラモ初めて見たぞ。

なんともいえないマッスルな造形

こういってはなんだが今時の精密なプラモデルのシャープな造形の対極のような造形がたまらない。
手は3種類あるものをポリキャップで付け替えられるようになっているのだが、グーやノートパソコンを持つと思しき手はともかくとして、指と指の感覚が異様に開いた手が嫌でも目に入ってくる。
多分これは両手を組んでバックドロップをかけられるようお互いの手の指が入るようになっているのではないかと推察する。
さすがはプロレスラーのプラモデル、こんな造形初めて見た。
なおゲートはピンゲートとまでは行かないがかなり細くて繊細で、これならばニッパーなしでいきなりデザインナイフでパーツをカットできるので作るのが楽そうだ。

ササダンゴベルトのバックル

このキットで塗装にこだわるとしたら一番はこの部分だろう。
そのまま塗り分けても面白くないので、実物の画像を元にしていかに情報量を増やせるかが仕上がりを制するだろう。
これはササダンゴのマスクのデコチンについているエンブレムについてもそうだ。
そのうちモデラーの中にはここに貼るデカールを自作する猛者が現れるような気がしてならない。
なおベルトにはでっかい星マークが入っているのだけれども、実物は玉虫色のややこしい仕上げなので、欲を言えばハセガワのホログラムフィニッシュシートが欲しいところだ。
他のことでもしょっちゅう使うものならいざ知らず、このためだけに1500円もするホログラムフィニッシュを買うのもなんだかアレだが、それでもここをリアルに仕上げるためには仕方がないな。


お楽しみ手の甲のヒケ

坂井精機のnoteの記事で、手の甲にヒケが出ていて金型修正でなんとか対応すると書いてあったのはこれか。
ヒケというのは部品で特に肉厚の部分に起きる現象で、樹脂は冷えるに従って収縮する性質があり、肉厚であるほど表面が凹みやすいという特徴があるが、ササダンゴの手はよほど肉厚らしい。
次回生産時までに直らなかったらササダンゴの手の方を凹ませますと書いてあったので、じゃあ凹ませていただこうじゃないか。
なのでこのヒケはパテで埋めるのはヤボというものだろう。

楽しい楽しい組み立て説明書

ササダンゴの組み立て説明書

このキットの説明書はなんともいえない独特のフォーマットが楽しい。
縦長で大判の説明書が四つ折りになっていて、豪華フルカラー印刷だ。
あら、よく見たらPS樹脂じゃなくてABS樹脂じゃないか。
溶剤や塗料によってはABSは割れてしまうことがあるので塗装では気をつけなければならないな。
こういうあたりも実用品の樹脂成形品を作ってきた坂井精機らしい。

なんだろう、普通の説明書に出てくる文体とはずいぶん違う。
なんだかササダンゴが煽りパワポで喋っているものをそのまま活字にしたみたいな気がする。
さすがは自分の名刺がわりと謳うだけのことはある。

楽しい楽しい説明書

なんともいえない味わいの説明書だな。
これは捨てられんぞ。

ササダンゴ・ヘッド

ここは是非とも手を入れたいところだ。
まず目と口に嵌め込む黒いパーツは単なるフラットな面なので、メッシュを張り込んでガンメタルかなんかでドライブラシだな。
耳の辺りにある笹団子を模したアップリケもリアルに塗り分けるためにここがよくわかる画像を検索しておかなければならんな。

ササダンゴ・おけつ

人工股関節ですか、ササダンゴも大変だな。
それにしてもありがたいのはパンツの両サイドに紫のラインが走っていることで、おかげでこの部分は合わせ目の処理がいらないわけだ。
塗装の段取りを考えるためにも説明書は事前に熟読しておくべきだが、そうでなくともこの説明書は熟読してしまうな。

ササダンゴ・ボディ

まずは、左上図の「頸椎」と「鎖骨まわり」の成形からお願いします、だと?
そんなこと言われてもうちにはさすがにインジェクション成形機なんてないし、ササダンゴ本人よりも重い金型を取り扱うホイストクレーンもわが家にはないぞ。
多分「組み立て」と言いたかったんだろう、国語的なことにツッコむのはヤボだとは思うのだけれど金型屋に「成形」って言われたらやっぱりインジェクション成形のことだと思うのは私だけか?
さて、このキットはマッスルな皮膚をエアブラシのグラデーションでいかにマッチョに表現できるかが一番の要になるだろう。
ランナー「カ」の肌色の成形色は白すぎて、塗装しなかったら弱そうなササダンゴになってしまうので、オレンジブラウン系の色を下地に4段くらいにグラデーションをかけるのが良さそうだ。
動画を見る限り現物のササダンゴは黄味を帯びたあまりハリのない中年おっさんの肌なので、サンディブラウンあたりをベースにオレンジを足してフラットクリアーで仕上げるのがある意味リアルなのかもしれないが、作例の写真は血色も良くて強そうなのでこういうイメージも捨て難いな。
また笹団子をイメージしたという緑のスーツについては、なんとガイアノーツから特色でササダンゴカラーというグリーンメタリックの塗料が静岡ホビーショー限定で発売されるらしく、これに手を出すべきかどうか今激しく迷っている。
ササダンゴ本人も認めた正確なカラーらしいが、ササダンゴのプラモ以外に使い道がわからないのでどうしたもんか悩ましい。

ベルト周りの塗装はかなり段取りを考える必要があるだろう。
というのは、例えばバックルには額縁状の意匠と「ササダンゴの中の王様 新潟」と書かれた英文の文字がモールドされているが、実際には文字はメタリック調の合皮生地を縫い付けたような作りになっているほか、それぞれの意匠も黒い輪郭があったりして、パーツのモールドよりもだいぶ複雑なものになっている。
バックルのパーツはそのままでは味気ないので、塗装で情報量を増やすことを考えたい。
また前述のようにベルト側面の星マークはホログラム調なので、ハセガワのホロシートを張り込むのが一番良さそうだ。
ちとカネがかかるがかける価値はありそうだ。

そんなわけで、ざっと眺めるだけでも結構お腹いっぱいになるキットだ。
どんな風に塗装しようか、完成したらどんなポーズを取らせようかいろんなことを考えるのが楽しい。
すぐにでも作ってしまいたいのは山々なのだが、せっかくのササダンゴのキットなので、もう少し考えを深めてから手を出したいと思っている。
とりあえずyoutubeで動くササダンゴでも見てみようか。

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